唐草図鑑

西洋の芸術(中・近世)

ヤヌス(図像)

Janus-VaticanAs janus rostrum okretu ciach.jpg

ヤヌスのイメージ説明であるが、説明が簡単明瞭なので、まず、こちらのシンボル事典を参照します。 (ヤヌスの項はない)説明はキリスト教中心、時代も古典古代→後代になっていくのだが・・
『西洋シンボル事典-キリスト教美術の記号とイメージー』(八坂書房2003 ゲルト・ハインツ=モ―ア著)

(p62)

1つの頭に付与された数個の顔は、時の経過に係わる古代のヤーヌスの象徴的意味を示し、それゆえ月暦図(1月Januar)にも表れる。
このような場合、ヤーヌスの二面性ばかりでなく、時の三重の顔(過去、現在、未来)が登場することもある。
枢要徳である 賢明(prudentia)も2つの顔で表現される。
しかし3つの顔を持つ頭はまず何よりも神の三位一体のシンボルとなる。それに対応して悪魔も、神の三位一体の猿まねである、三重の顔を以て現れる。

ついで、お気に入りのシンボル事典から
『図説 世界シンボル事典』(八坂書房2000 ハンス・ビーダーマン著)

ヤヌス Janus

(p449)

門・敷居を守る古代ローマの双面神で、入り口及び出口のシンボルとなっている。 ギリシア神話にはこれに対応する神はない。

物事はそのはじまりのいかんが結果に重量な影響を及ぼすと考えられ、(ヤヌスは元来この「はじまり」 を司る神であったが)、一方でまたはじまりしばしば門をくぐる動作でイメージされたことから、すべての門がヤヌスに捧げられるようになった。 


フォロ・ロマヌスにはヤヌス門があり、軍隊の行軍はここから始められた。そしてこの門は戦争が行われている間は、開けたままにされた。したがって、閉まっているヤヌス門は平和の象徴であった。

門(ラテン語ではjanuaとも呼ばれる)の神ヤヌスは同時に家の戸口の守護神にもなり、門番の杖と鍵をその事物としていた。

はじめと終わり(種まきと収穫)の守護神であるヤヌスは、しばしば後ろに顔を持つ双面神としてイメ―ジされるが、今日では、内面的に分裂した存在や両義的に解釈できるもの、プラス・マイナスの両面を持つ行動や物事のシンボルとなっている。


人間の姿で二元原理を表すなヤヌス
V.カルタ―リ『古代の神々のイメージ』(1647版)※続編

ついで、網羅的なシンボル事典から
『イメージ・シンボル事典』(大修館書店1984)

ヤヌス(Janus)

(p366)

1. 全体性を表す
東西を向く2つの頭を持つところから、双頭の鷲との関連で、過去と未来、歴史と認識(洞察)という全体性を表す。

2.万物の支配を表す。
光の原初神 ディアヌス(Dianus)は、ラテン人の間ではヤヌス、ギリシアではザン(Zan)すなわちゼウスとなった。

3.(その年の)門神 

一日の最初の時間、また1月はヤヌスに捧げられた。

(p184) door:「戦争の両開きの扉」(the Twin Doors of War)ヤヌスの神殿では、戦時中は開かれ、平穏時には閉じられていら(ベルギリウス「アエネイス)

2022年元旦のナショジオの記事が面白い。
それによれば、
「古代ローマの今の暦の原型では、冬の2カ月間には名前すらなかった」という。
・ロムルスが王位に即位したとされる、紀元前753年が元年だった。
(以下引用)
最初の暦は10カ月、304日間しかなく、初期のローマ社会で重視されていた農業と宗教儀式に敬意を表した作りになっていた。収穫が終わると、暦も終わる。そのため、次の3月が始まるまでの冬の2カ月間には名前がなく、いわば空白の期間だった。

・最初のローマ暦は30日の月が6つ、31日の月が4つあった。ローマ神話の戦と農耕の神「マルス(Mars)」から女神「ユノ(Juno)」にちなんだ現在の6月(June)まで、最初の4カ月には神の名前が付けられ、残りの6カ月にはラテン語の数字が割り当てられた。

・しかし、10カ月の暦は長く続かなかった。紀元前7世紀、2代目のローマ王ヌマ・ポンピリウスの時代、暦は月の満ち欠けに基づく太陰暦に改められた。

 月の満ち欠けの周期はおよそ29.5日であるため、その12倍は354日となる。そこで、従来の1年に50日を追加したうえで、冬に2カ月を新設した。
ヤヌスにちなむ「ヤヌアリウス(Ianuarius)」と、浄罪の祭典「フェブルア(Februa)」にちなむ「フェブルアリウス(Februarius)」、つまり現代の1月と2月にあたる月だ。

双頭の鷲

Metropolis of Mystras, inside, imperial eagle.JPG
"Metropolis of Mystras, inside, imperial eagle"
ミストラスの遺跡に残されている東ローマ帝国の紋章

東西を向く2つの頭を持つ
Palaiologos Dynasty emblem
東ローマ帝国(ビザンティン帝国)の国章

主に東ローマ帝国や神聖ローマ帝国と、関連したヨーロッパの国家や貴族などに使用された。現在でもセルビア、アルバニア、ドイツ、ロシアなどの国章や、ギリシャ正教会などで使用されている。

Vexilloid of the Roman Empire
※ローマ帝国の国章の鷲は単頭
『図説 世界シンボル事典』(八坂書房2000 ハンス・ビーダーマン著)

3つ組/三面神 (独)Dreigestalt、(英)triad

(p415)

3つ組の女神、または3面の女神はとりわけ古代ギリシア・ローマのイメージ世界に頻繁に登場する。 

こした女性像は、ほかならぬ女性の領域から力強い存在が出現して欲しいという気持ちを「表現したものであり、男性神の3つ組より顕著に表れているように思える。

カリステ(美の3女神)、ホライ(季節の3女神)、モイライ(バルカイ、宿命の3女神)、ゴルゴン、グライアイ、そしてエリニュエス(復讐の3女神)あるいはエウメニデス(善意の3女神)などはそうした例であり、また9人の女神からなるムーサは、3つ組を3つ集めたものと理解できる。 

夜と呪法の女神ヘカテは、時代を下るとしばしば3面神としてイメージされるようになったが、これは明確な典拠に基づくものではない。

北欧神話の運命を紡ぐ3女神ノルエルは、ギリシア・ローマの3つ組の女神のイメージの影響によるかもしれない

ヒンドゥー教のトリムルーティ(三神一体説)は、ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌの3神を一体とみなす考えはは3つ組の一種と考えることができる。ただしこの理念は神学者たちがシヴァ神を崇拝する一派とヴィシュヌ神を崇拝する一派との断絶の橋渡しを試みたことに端を発する。

大乗仏教には、より抽象的な3つ組のイメージとして、ブッダの身体を3様に捉える三身説がある。

仏教では、仏(教えの主)、法(教えの内容)、僧(教えを修行するもの)を、 ジャイナ教では、「正しい行動、正しい信仰、正しい認識」を「三宝」とする

錬金術のシンボルとしては、3つ組の図像は、世界を構成する コルプス(肉体)、アニマ(精神)、スピリトゥス(霊)として、 あるいは塩(えん)、硫黄、水銀の3原質を表す

ダブルフェイス


チェ―ザレ・リーパ《賢明》 『イコノロジア』 (1603版)

上記シンボル事典に、《賢明(Prudentia)》も二つの顔とあるのが・・ 下は三面像であった。
1403年というので、リーパに先立つ図像である。

「三面像」


(p71)「賢明(Prudenza)」の寓意
シエナ大聖堂床モザイク(1406年ごろ)

『教会の怪物たち ロマネスクの図像学』
尾形希和子著 ( 2013年 講談社選書メチエ)(p70)

(en.wikipedia.org/Prudence


若桑みどり「三つ頭怪物の普遍的生命について」引用図
(パノフスキーが挙げた三つ頭の図像2つのうちの一つ)

Siena, pavimento, prudenza.JPG
"Siena, pavimento, prudenza" by sailko  
シエナ大聖堂床石の《賢明》の寓意

『西洋シンボル事典-キリスト教美術の記号とイメージー』(八坂書房2003)

数のシンボル

(p64)
1

分割できない単位の象徴、神の象徴

2

複数を示す最初の数であり、それゆえ本当の意味での最初の数と言える。
アダムとエヴァ、カインとアベル、モーセとアロン・・
対の獅子、双頭の竜、2つの要素から成る生き物(グリフィン、セイレーン、ケンタウロス)は人間に優越する不可解な力を表している。二元論はロマネスク美術の象徴主義の本質を規定するものである。
お互いを統合し合うような形態。 2匹の蛇に囲まれた日輪、2本の枝と1本の幹を持った生命の木の象徴的意味もここに含まれる

3

 完全と成就を示す数であり、世界全体の鍵、神を象徴するに最もふさわしい数である。 アフグスティーヌスに従えば、3は魂を4は肉体を示している。
ヨナが大魚の体内にいたのも、キリストが墓の中にいたのも3日。
ピュタゴラス学派の哲学者はすべてのものが初め、中間、終わりの3という数で規定されると考えた。
神聖の3つの局面3群に大別される神々という考え方は中国、チベット、エジプト、ペルシア、バビロニア、あるいはヒンドゥー教、ミトラ―ス教などに見られるものである。 

4

神を象徴する3とは反対に、昔から地上の世界を示す数とされた。四代元素、正方形、4つの季節、楽園から流れ出す4つの川

ついで網羅的なこちらから、ピックアップ・・

『イメージ・シンボル事典』(大修館書店1984)

3(three)

(p635)

聖なる数字で、3相を持つ神々と関連する。

a.エジプトでは、太陽の3相を表す神は、ホルス(朝)、ラ―(昼)、アトゥム(夜)
また、太女神イシスは、妹-花嫁、母、寡婦(埋葬準備者)の3つに分割された。

b.ギリシア・ローマでは三叉の稲妻を持つゼウスの司る天界、 三叉の鉾を持つポセイドンの司る海、 三つの頭を持つ犬を率いるハデスの司る冥界である。
また、モイラ(宿命)、 復讐の女神達、 美の女神達(豊穣)、ハルピュイア、セイレンなどはそれぞれ3つ組であった。

3ツ頭のケルベロス、ティツアーノの生と賢明の擬人像→犬の象徴の頁へ

もう一冊参照・・・こちらは「図説」ということで、また東洋を含む・・

『図説 世界シンボル事典』(八坂書房2000 ハンス・ビーダーマン著)

3つ組/三面神 (独)Dreigestalt、(英)triad

(p415)

3つ組の女神、または3面の女神はとりわけ古代ギリシア・ローマのイメージ世界に頻繁に登場する。 

こした女性像は、ほかならぬ女性の領域から力強い存在が出現して欲しいという気持ちを「表現したものであり、男性神の3つ組より顕著に表れているように思える。

カリステ(美の3女神)、ホライ(季節の3女神)、モイライ(バルカイ、宿命の3女神)、ゴルゴン、グライアイ、そしてエリニュエス(復讐の3女神)あるいはエウメニデス(善意の3女神)などはそうした例であり、また9人の女神からなるムーサは、3つ組を3つ集めたものと理解できる。 

夜と呪法の女神ヘカテは、時代を下るとしばしば3面神としてイメージされるようになったが、これは明確な典拠に基づくものではない。

北欧神話の運命を紡ぐ3女神ノルエルは、ギリシア・ローマの3つ組の女神のイメージの影響によるかもしれない

ヒンドゥー教のトリムルーティ(三神一体説)は、ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌの3神を一体とみなす考えはは3つ組の一種と考えることができる。ただしこの理念は神学者たちがシヴァ神を崇拝する一派とヴィシュヌ神を崇拝する一派との断絶の橋渡しを試みたことに端を発する。

大乗仏教には、より抽象的な3つ組のイメージとして、ブッダの身体を3様に捉える三身説がある。

仏教では、仏(教えの主)、法(教えの内容)、僧(教えを修行するもの)を、 ジャイナ教では、「正しい行動、正しい信仰、正しい認識」を「三宝」とする

錬金術のシンボルとしては、3つ組の図像は、世界を構成する コルプス(肉体)、アニマ(精神)、スピリトゥス(霊)として、 あるいは塩(えん)、硫黄、水銀の3原質を表す

言葉を参照・・

Triple deity(三神)

Carl Jung considered the arrangement of deities into triplets an archetype in the history of religion.
(カール・ユングは神々の三つの配置を、宗教の歴史の祖型と考えた)
en.wikipediai/Triple_deity)

triad

https://ejje.weblio.jp/content/triad
出典:『Wiktionary』 (2014/07/06 17:08 UTC 版)


[the 〜;集合的に] 3つ組, 3人組, 三幅対.(中国の)秘密結社.(中国清代の)三合会:犯罪組織.〔音楽〕三和音.〔化学〕3価元素, 三つ組元素.〔文学〕三題歌《中世ウェールズ・アイルランド文学の形式》.〔軍事〕三元戦略核戦力《爆撃機・潜水艦発射ミサイル・大陸間弾道ミサイルの3戦力》.

画像検索

若桑みどり「三つ頭怪物の普遍的生命について」引用図

☆☆(maicar.com/GML/000Iconography/Janus)

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双頭のヤヌス(モデナ大聖堂)

(p71図)モデナ大聖堂の中央扉口アーキヴォルト、ヴリジェルモ作

《賢明》の擬人像


《賢明》の擬人像美術用語
犬の象徴ケルベルスティツィアーノの『三世代の寓意』

両性具有


錬金術のシンボルとしての両性具有。
M・マイアー 『黄金の卓の象徴』(1617)
Michael Maier, 1568 - 1608(1622)(en.wikipedia)

古代においては、男性的なものと女性的なものを双方をそのうちに秘めた人物としてイメージされている。
原初の存在としての両性を兼ね備えた生物が登場し、どこから互いに補完史うような2つの存在が生まれ出ている。
必ずしも性的な意味を持つとは限らず、「二元性と完全性」というテーマと深いかかわりを持つ。(✳二元原理) (『世界シンボル事典』p479 上の図も)

二元原理 duality

互いの緊張関係がシンボルとしてのみを生むような、対立する2つの要素の組み合わせ、それぞれの要素が単独で用いられる場合よりも、活力を帯びた表現になっていることが多い。

あらゆる対概念は、こうした関係を生み出す両極となる可能性を秘めているがk「代表的なものとしては、
昼/夜、男/女、生/死、動物/人間、陰/陽、天/地、神/悪魔、上/下,無垢/罪、太陽/月,硫黄/水銀(燃焼性/揮発性)

新た二元原理を導入して世界を秩序付けようとする絶えざる営みは、人類にとって、明らかに「元型(アーキタイプ)」的性格をもつものと思われる。 (『世界シンボル事典』p301)

画像研究にはありがたい状況です。 最後に閑話。
2であって3ではないが、
googleとWikipediaが現代の神である」(?)
社会学者の古市憲寿(のりとし)さんいわく、『だから日本はズレている (新潮新書 566)2014年4月刊)に、(p20)「僕たちは今、日本という「国家」とグーグルという「企業」の、どちらが強いかわからない時代を生きているのである」

はい( `ー´)ノ

若桑みどり「三つ頭怪物の普遍的生命について 
二 古代ローマにおける多頭獣の系譜 その一 ヤヌス」(p172)
2019k/kaibutu_image.html

プラトンは『ティマイオス』の中で、「人間の頭は世界のイメージである」と述べている。

ただ一つの頭は、カバラの王冠に代表されるように、絶対性と統合性を象徴し、二つの頭はduality(二元性)を象徴してきた。Cirlotによれば、二元性はすべての自然なプロセスの持つ基礎的特質であり、対立する二者がより高い統一を得るための必然の過程として考えられる。

(J.E.Cirlot,A Dictionary of Symbols,London,1967)
en.wikipedia.Juan_Eduardo_Cirlot(スペインの詩画家)

ここから、二つの対立物の平衡という両立的なシステムが二つの頭部もしくは顔を持つ生き物として示されるのである。この点で、正反対の方向を向く二つの顔を持つヤヌスは、およそあらゆるものの中に潜む二元性そのものの象徴である。

デュメジルは『印欧語族の神々』(1952)において、最古期のインド人は、王権には二つの顔、二つの半身があると考えていたと述べている。
こうした王権のニ側面は、対照的だがしかし相補うもので、等しく必要とされ、二神の王、ミトラとヴァルナを体現している。
暴力的なヴァルナと平和なミトラの二伸対立は結局のところ一つもののの側面であった。

ジョルジュ・デュメジル『神々の構造―印欧語族三区分イデオロギー』(1952)
松村一男訳 国文社 p64

ヤヌスの話は、更に、ヴィンチェンツォ・カルタ―リに続く→2019k/zuzou_cartari.html


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