唐草図鑑
聖樹聖獣文様

ユニコーン (Unicorn)

ユニコーン[象徴]

me本題は、モデナの中世写本でみる、ユニコーンであるが、まずは復習である。
『動物シンボル事典』、『世界シンボル事典』、『西洋シンボル事典』、『聖書象徴事典』、では「一角獣」として項目がある。
ルゴフの『ヨーロッパ中世の夢』(原書房2007)にもある。 →ルゴフのユニコーン(ここにない「ユニコーンのマスター」ジャン・デュヴェJean Duvetの版画もアリ)

 

シンボル事典

『イメージ・シンボル事典』(アト・ド・フリース  大修館書店1984)

p662‐664

胴体はウマ。額に1本の角が生えているが、その角は畝があるかまたは螺旋状。
色は白いといわれているが、秘教の書には胴体が白く、頭は赤く、目は青いと記されている。

※クテシアス

天敵はライオン。一角獣を食い尽くすライオンの姿はペルセポリスの遺跡に既にみられる。

蛇の毒を解毒する。一角獣を捕獲できるのは処女だけ。馴化しにくい。

プリニウス8.31によると、季節を表し、角は秋、シカに似た頭は冬至、ゾウに似た足は春分、ライオンに似た尾は夏を表す。

O Unicorn among the cedars..White childhoood moving like a sigh thorough the green woods,unharmed in thy Sohistcated innnocence
(W.H.オーデン『新年の手紙』:哲学的詩「ニューイヤーレター」)
Wystan Hugh Auden (1907–1973) en.wikipedia


(所収の図版はDover社などの古い文献からの出典という)

『動物シンボル事典』(ジャン・ポール・クレベール 大修館書店1989)

(p14‐22)

me ここで、別名≪麒麟≫として、韓愈は縁起の良い動物とする等の記載があるが、これは西洋中世と別件である・・

動物誌の中の花形。はじめて語ったのは クテーシアス『インド記』第25章) 角は特にペスト予防と解毒の薬、角を所蔵することが教会などの名誉となった。

Ktēsiās:(kotobank.jp

西洋で最も好んで取り上げられたのは、一角獣を連れた貴婦人の主題で、クリュニー博物館の有名なタピストリー以前に13世紀のある「物語」の主題になっていた。(レイモン・ヴァン・メルル『世俗芸術の図像学』第2巻p44以下に図像一覧表有※)

レイモン・ヴァン・メルルMerle 不明

me図は5図で、パリ国立図書館の「エデンの園の一角獣」、「野生の女の乗り物」、大英博物館蔵のジャン・デュヴェの版画:「毒と解熱剤の闘い」、「一角獣の捕獲」
クリュニー博物館所蔵連作タピストりー(✳)から『わが唯一の望みに』

※Tapestryタペストリー(英語発音)フランス語では(tapisserie)タピスリー


(p16) 「合理精神によって神話的動物誌の中に追いやられる前、
一角獣は他の動物たちと同じようにエデンの園に住んでいた」


(p17)毒と解毒剤の闘い (ジャン・デュヴェ)


(p18) 一角獣の捕獲


(p19)一角獣は全身が髪または獣毛で覆われた
「野生の女」の乗り物になった

「パサヴァンによれば、実際には羽毛に覆われ,おじぎそうの冠を被っているらしく、貞節を象徴する。鹿に乗った裸体の奔放な女と対をなす」

meオジギソウの冠とは!?和名漢字表記で「含羞草」、英語で「touch-me-not」というのもありましたが・・
それにしてもパサヴァンPassavant?
この本では人名に不明なものが多いのが少々困るが・・

Fotothek df tg 0007133 Theosophie ^ Alchemie
(p20)精神と霊魂を象徴する一角獣と鹿Deutsche Fotothek

(ランブス・ブリンク 『形象と浮き彫り』)

me下記の記述に興味を惹かれたが、図はないので、もう少し検索してみます

シャン・ティイの『時祷書』を描いたジャン・コロンブの細密画に、死神の乗り物として描かれた。(聖バルラームと聖ジョザファの説話)

※時祷書は15世紀始めにランブール兄弟によって制作が始まったが、1416年に両名が死去したため一時中断し、同世紀の終わりにジャン・コロンブによってようやく完成した。(wikipedia)
※中世に人気のあった(ギリシアの)聖バルラームと聖ジョザファの説話とは、ヘレニズム仏教から?
wikipedia、ジョザファ=ブッダhttp://web.kyoto-inet.or.jp/

ペトルス・コメストルの有名な木版画には樹上の蛇に角を向けるヘビなどが描かれている。(『絵解き聖書物語』(1499)P・コメストール『聖書史』(1170頃))

※パリ大学総長1197年没『マカーブル逍遙』小池寿子 (青弓社)墓碑銘「なんじはやがて我の如くなるであろう」 ?

『世界シンボル事典』(ハンス・ビーダーマン 八坂書房2000)

p32‐34

(p32)角が精神の座である額から生えている点に注目し、本来は性的な象徴であった角を精神的なシンボルとみなすようになった。一角獣もまた、それまでとは逆に純潔と強さを象徴するようになった。


C.ゲスナー『動物史』(チューリヒ,1551)


野人と一角獣 ドイツの古いカルタ札(「鳥のウンター」の絵札)
E.S. の商匠,15世紀半ば

『西洋シンボル事典』–キリスト教美術の記号とシンボル–(ゲルト・ハインツ・モア 八坂書房2003)p24‐26

(p32)紀元前4世紀後半 ギリシアの史家 クテシアス
プリ-ニウス (ca61-ca112)⇒薬屋のシンボル
『アレクサンドロス物語』や『フィシオロゴス』(2世紀末)
セビーリャのイシドールスによってあらためて詳述され、 動物寓話集に受けつかれた一角獣狩りの描写はすぐにキリスト教のシンボル表象やシンボル表現の中に取り入れられた。

大天使ガブリエルによる一角獣狩りは、マリアにより幼児キリストの無垢受胎の象徴となった。(p25)

※キリスト教美術を楽しむ:https://www.kogei-seika.jp/にも、「一角獣狩りのモティーフは16世紀初頭のフランス、ドイツで好まれた」「一角獣はキリスト。角笛を吹くのは大天使ガブリエル。巻物のセリフは受胎告知場面のもの。」とある・・

me このあたりの詳細と、その他に取り上げられた図の例と、他に、マンフレート・ルルカーの『聖書象徴事典』からは、別にキリスト教イメージで⇒こちらに続く。

 Wikipedia(20141001)

ユニコーン(英語 : Unicorn, ギリシア語 : Μονόκερως, ラテン語 : Unicornis)は、一角獣(いっかくじゅう)とも呼ばれ、額の中央に一本の角が生えた馬に似た伝説の生き物である。語源はラテン語の unus 「一つ」と cornu 「角」の合成語で、ギリシア語で「モノケロース」とも言う。非常に獰猛で、処女の懐に抱かれて初めておとなしくなるという。角には蛇などの毒で汚された水を清める力があるという。

ボルソ・デステのユニコーン

meここでようやくモデナの中世写本でみる、ユニコーンである。



出典:Biblia Latina [Bibbia di Borso d'Este], v.1
https://bibliotecaestense.beniculturali.it/info/img/mss/i-mo-beu-v.g.12.html

尾形希和子著「教会の怪物たち ロマネスクの図像学」2

『ボルソ・デステの聖書』タッデオ・クリヴェッリ(Taddeo Crivelli)他の細密画
Borso d'Este, Duke of Ferrara(1413–1471)
モデナ・エステンセ図書館蔵Galleria Estense

(p88)ex.Duke of Ferrara, Modena and Reggioフェッラーラの君主ボルソ・デステのインプレーザ(図像と銘からなる個人の表象)として描かせた
彼自身が行ったポー河湿地帯の干拓事業の功績を象徴し、水流を調整する柵の中に座り、角を水に浸している一角獣

Unicorno sul portale di palazzo Schifanoia

FE Schifanoia 07.JPG
"FE Schifanoia 07" di Warburg - Opera propria. Con licenza CC BY-SA 3.0 tramite Wikimedia Commons.

遠目にはアンク、いやイシスの結び目にも見える

《エルサレムへの道》、ブライデンバッハ、Spire,PierreDrach,1490.
(これらの動物は、我々がエルサレムで目撃したとおりに描かれている)
『中世の妖怪、悪魔、奇蹟』クロード・カブール著新評論1997)
Claude Kappler (原著), 幸田 礼雅 (訳) 図6 p95

ぶらいでんばっはの


京谷啓徳(1969~)※九州大学人文科学研究院
君主称揚のレトリック
ボルソ・デステとスキファノイア壁画 』中央公論美術出版、2003

「ルネサンス君主のイメージ戦略、すなわちルネサンス期の君主が政治・外交プロパガンダの媒体として美術作品をいかに利用したか。北イタリアの古都フェッラーラで、十五世紀後半にこの町を治めたボルソ・デステという殿様が、スキファノイア宮と呼ばれるお屋敷に制作させた装飾壁画が考察の対象。壁画に描き込まれる謎めいた諸モチーフが、殿様のお家の事情を濃密に映し出していることを明らかにしています。」[

パラッツォ・スキファノイア(無憂宮)の「月暦の間」
(Salone dei Mesi)1470頃~1490頃

フェッラーラ―小さなルネサンス― パラッツォ・スキファノイア(Palazzo Schifanoia) は、 「エステ家の別邸で、現在は市立美術館。内部の「12カ月の間」の壁面には、15世紀の画家トゥーラの指揮下に寓話を描いたフレスコ画が残る。」

フェッラーラ派 

(Wikipedia)コズモ(コジモ)・トゥーラ(Il Cosmè or Cosmè Tura, aka Cosimo Tura, 1430年頃 - 1495年)は、イタリア初期ルネサンス(またはクアトロチェント)の画家。フェラーラ派を作った一人と考えられている。
トゥーラはフランチェスコ・デル・コッサと共に、12ヶ月と占星術記号が入り組んで表現された寓意的連作壁画を制作 ※Web Gallery of Art,

Francesco del Cossa (1435-1477)View of the Salone dei MesiPalazzo Schifanoia, Ferrara, Italy
Wikipediahttps://it.wikipedia.org/wiki/Salone_dei_Mesi

ダヴィンチのユニコーン  

Lady with unicorn by Leonardo da Vinci.jpg
"Lady with unicorn by Leonardo da Vinci" by レオナルド・ダ・ヴィンチ - scanned from: Buchholz E. L., Leonardo da Vinci, Życie i twórczość, Pracownia Wydawnicza "ElSet", 2005, ISBN 3-8331-1830-X. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.


総まとめ

唐草図鑑でのページは・・
「プリニウス」
渋沢好みの怪物
王冠をかぶったLondonのライオンであるが、ユニコーンも対で、@Queen Elizabeth Gate, Hyde Park

動物の王ライオンと対である理由は何であるか・・。一つでは弱い、あるいは対称形を求める、ということであると思っていたが、今回、中世では、ユニコーンが治水工事の功績を誇ることに関係するということが分かった。

中世ヨーロッパの空想動物の代表としてルゴフはユニコーンとメリュジーヌを挙げている。ユニコーンとメリュジーヌの共通項とは「水」 であった。しかしそれは原初的生存に関わるものとしてではなく、土地(領地)と城に関わるもので、ルゴフの思想、中世からのヨーロッパの在り方の善悪を表象するものであった。(⇒✳ルゴフの中世のイマジネールの研究

ナルニア物語のライオンとユニコーン(映画)
補足:Wikipmedia The Lion and the Unicorn Flags with unicorns


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a 三面像
b アンティポデス
c ケルビム
d テトラモルフ
e ペガサス
f ユニコーン



2019年6月2日 クリュニー中世美術館@パリ

Wikipedia(貴夫人と一角獣)
20131020@国立国際美術館(大阪)




貸出の角をつけてタピストリーの中に
入れる趣向でした


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