聖樹聖獣文様
先史時代の土器(中国では陶器という)に描かれた模様の話である。
それは、一に、装飾の意図、二には表意(何らかの意味を表した)と推測されている。両者とも文字に密接な関係があるということで、別にみてきたが、ここで、近年(1990年代)発見された新石器時代の高廟文化の陶罐などの動物文などをみておきたい。
参考書:『漢字樹―古代文明と漢字の起源』(饒 宗頤ラオ・ツォンリ-著アルヒーフ 2003)
湖南高廟出土陶罐(瑶台に獠牙のついた文様)
図1‐2 (p14)今から7400年前
瑶台:玉で飾った美しい高殿、獠牙:むき出した牙
罐:貯蔵容器
う~~ん。遥か昔の「むき出しの牙」であった・・
もうすこしこの論考から、すでに、見慣れているかもしれない、動物文などを見てみよう。
新石器時代の人々はすでに簡単な一種の記号を使用しており、それを土器の上に描いたり刻んだりしていた。
老官台文化:白家聚楽遺跡(8千年前):若干の刻画記号
甘粛大地湾文化
(今から8170~7370年前)=半坡型刻画記号の前身
半坡時期(紀元前4800~4300年) wikipedia:仰韶文化(ぎょうしょう、ヤンシャオ、英: Yangshao culture)
充分な物証が得られない現段階では、中国文字は青銅時代から始まると考えるのが最も安全である。byエドウィン・ジョージ・プリーブランク※)⇒この考えは保守的に過ぎる。(饒 宗頤)
半坡時期から戦国・両漢まで長い歴史にわたって、多くの異なった地域から出土する土器の表面に同様の記号が刻まれているからである。
× = 五、+ = 七、 | = 十 、 || = 二十、 T = 示、↑ = 矛。
by于省吾Yu Xingwu (1896–1984)(en.wikipedia)
宝鶏北首嶺の尖底双耳彩罐
切り離すことができない、描かれた装飾文様と刻まれた記号
柳湾の器物 馬廠時期(半坡と同じ記号がある)
大汶口出土の陶尊
(wikipedia):中国の新石器文化の一覧
大汶口文化:紀元前4000年頃から2500年龍山文化に発展
湖南高廟出土陶罐(船と鳳凰に太陽のついた文様)
図1‐3 (p14) 河姆渡(かぼと)と同じ
鳳凰は天に上るための道具
例:『楚辞』
『離騒』
『山海教』
象形文字:漢字の話は、このサイトのテーマではないので、「青銅器時代の甲骨文字はすでに十分成熟した文字ある」(p16)ということで、大部分を割愛し、ここでは、土器の装飾文様の話をメインに。
この本では、アンダーソンの『中国先史時代研究』(1943)から選ばれた土器文が分類されて挙げられていた。(p27‐33)
「天象、人体、動植物、鳥獣、昆虫、蛙に亀、蛇、蠍など各類皆そろっている。」
(p20‐21)
先史時代の土器の装飾文様は、だいたい当時の社会意識或いは宗教信仰と密接な関係がある。
半坡の器物に魚紋や蛙紋
江南から出土した器物には鳥紋や豚紋→戦国時代の鳥書へ
脱線するが、漢字の書体で、鳥篆というものを初めて見たときは、どうしてこんな面倒な文字を書くのかと思ったものであるが、「長江流域の3国では氏族の神として鳥が神聖視されたことと関連付けられる」「宗教的な意味合いを持つ装飾文字」「初めて登場したのは春秋時代(紀元前770‐前5世紀」とWikipedia。(20200613閲覧)
話を戻すと、
(図2‐6 辛店・寺窪 (じわ) 遺跡出土の土器 p34)
紀元前14~前11世紀
羊の角を象る文様
牧畜文化:四川の羌(きょう)人の習俗:辛店・寺窪の土器は羌族系統の代表(p34)
これをみて、実は、雲気文を思い浮かべた・・
また、羌人であるが、もと牧羊人で、武力の否定者であったがゆえに、夏に屈し、殷に屈し、しだいに西に移ったという。(白川静の『中国の神話』)その地の後期仰韶文化は彼らのものあろう、とにもある。(p131)漢字を作った殷人から、呪霊を持つ動物と同じ扱いを受けていたという(p133)
おそらくチベット系とみられる西方の種族。
広大なる中国の長い歴史を感じつつ・・
大地湾の土器文もまた羊の角の形。(p34)
許慎【説文解字】(AD100年成立)序
「蒼頡の初めて書を作るや、蓋し類により形に象る、故にこれを文と謂う」「文なるものは物象の本なり」(p35)
銅器の装飾文
中国古代の祭祀で音楽によって様々な生物や神々を呼び出すのに、対象の異なるのに応じて六種類の音楽の変奏が行われる。それを六変と称し、そのすべて演奏が終わってはじめて天神が降臨する。(p35)
『周礼・大司楽』
一変―羽物(川沢の示)※示=天神地祇の祇=神
再変―羸物(山林の示)※ここでは羸の字の羊は虫が正!?
三変―鱗物(丘陵の示)
四変―毛物(墳衍の示)
五変―介物(土の示)
六変―天神(鱗、鳳、亀、竜の四霊をさす:鄭玄説)
記号は文字とは言えないが、往々にしてある特定の意味を持つことがある。吉祥や邪気払いなどの作用を表し得るし、宗教的な意味を持つこともある、また護身符(amulet)の用途もある。 ( p39)
記号は繰り返すことで器物の装飾文様ともなり、続けて配列することである種の特殊な文様ともなる
初文:原始的な文字(p37)
一. 記号の言語化
ニ.
記号の文字形象化(p41)
【説文解字】「文は交錯の画なり」※ここでは錯はにてんしんにょう
文の原初の意味が交錯の美を重視するものであり、西洋がはじめから平衡の美を重んずるのとは異なる(p43)
もし「文」を文様(pattern)としてみるなら、天には天文があり、地に地文、人には人文がある。
しかし、始まりを考えると、文は、まず図案の文様として観察されるのであり、人類史の遺物して土器に描かれた装飾文様と記号とが存在する。その重要性は認なければならない。(p44 Ⅱの結語)
以上、古代中国の土器の装飾文様を『古代文明と漢字の起源』から見てみた。ちなみに、
視覚デザイン研究所編の『日本・中国の文様事典』は、メインは紀元前2000年からのものであったが、一ページだけ、新石器時代の陶器文様の頁があり、仰韶文化(Yangshao culture紀元前5000~前3000年)の「彩陶鉢:」「彩陶壺」、龍山文化(Longshan culture紀元前3000~前2000年)の「黒陶高坏」が紹介されていた。
最初のは以下の有名な人面魚の図であった。
白川静の『中国の神話』(中公文庫1980)p72の図16でも「彩陶人面魚身文」(夏系の洪水神)として挙げられている。
羌系の神はみな竜形の神であるのに対し、洪水神を魚形であらわすことは、夏系の仰韶文化の伝統であると(p74)いう。
この論考にはなお、卍(「宇宙的な記号」)の研究も含まれている・・こちらも興味深いがそれについては後ほど別に。
※今までの卍文(
先史時代の鉤十字)の頁
中国神話については、中国の図像の頁に追記した。
中国の文様のindexはこちら。
古代中国
LastModified:
2020年