荒俣 宏(平凡社世界大百科事典)
西洋では竜をドラゴンdragonと呼ぶが,これはヘビを意味するギリシア語 に由来する。しかもこのギリシア語は derkesthai (〈純(にら) みつける〉の意) と近縁の語とされ,ヘビ一般の凝視行動との関連が予想される。多くの伝承において,竜は地中,洞窟,水中などに潜み,そこに隠された宝物を護る。 口から火を吐き,体に流れる血も炎でできているため,つねに体を冷やさなければならず,大量の水を飲む。また森に住む竜は草を食べて体を冷やすので緑の体色をしている。一方,アフリカやインドに住むものはゾウの冷たい血を飲もうとして休みなく死闘を繰り返す。大プリニウスの《博物誌》によれば,この宿敵同士が闘うと,竜はゾウに巻きついてこれを倒すが,ゾウの体重に耐えきれず押しつぶされるので,たいていは相討ちに終わるという。 |
竜とゾウというのは、ちょっとすぐには浮かばなかった…
大プリニウスが書いているのですか…(←ここでは、少し胡散臭いという意味合い?(^_^;;)
荒俣 宏(平凡社世界大百科事典)
西洋の竜は四肢を持つトカゲ型と,一対の翼および一対の肢を持つ鳥型に分けられるが,両者を混同した四肢二翼型や東洋の竜から影響を受けた形態のものもある。大きさは一定せず,空を飛ぶと大竜巻が起きるほど巨大なものから,イヌ程度のものまでさまざまである。その力は強く,ワシのような鉤爪と鋭い毒牙を備える。アリストテレスなどの記述に,翼ある竜はエジプトやエチオピアに産し,巨大なヘビ型の竜はインドに住むとあるが,前者は神としての有翼蛇,後者はニシキヘビの姿がもとになっているらしい。 |
西洋でも、
翼ある竜と 巨大なヘビ型の竜の2種類があるわけですね…
龍と蛇…さらに中国の方向を詳しく見ると
青銅器に表された饕餮文や龍の4階層…蛇から龍への昇格過程が分かる。 龍文について
中国の龍 雷、竜王・水神についてはこちらへ
荒俣 宏(平凡社世界大百科事典)
強大な獣の属性を完備し,地中の秘密ないし生産力を独占する竜は,権力や豊穣の象徴であり,授精力をもつ地霊の性格をあらわす。その超自然的な力は畏敬の対象 この恐るべき地霊を殺害し,大地の秘密や恵みを人類に解放する英雄は,西洋各地の建国伝説などに繰り返し登場することになる (竜殺しのテーマ)。 … ユング心理学では,混沌の象徴である竜が殺されて秩序が生じる過程を,人間の意識の発展と解釈する。 |
想像上の動物 竜ドラゴンdragon
大プリニウスの《博物誌》竜VSゾウ
アリストテレスなどの記述…翼ある竜
古代ローマ軍団…竜の旗
イギリス…王家の紋章
北ヨーロッパ…竜は海軍の象徴バイキングは船のへさきに竜頭を飾った
竜殺しのテーマ ギリシア神話の怪物ピュトンはアポロン
女神アテナの命に従い竜の歯を地面にまいたところ,
地中から戦士たち (スパルトイSpartoi〈播かれた者〉の意) が出現
《黄金伝説》ゲオルギウスの竜退治
ゲルマンの叙事詩《ニーベルンゲンの歌》る英雄ジークフリート
大天使ミカエルの竜退治をはじめ,聖人に殺される竜はみな〈悪〉の象徴である。
このため竜はサタンとも同一視された。
荒俣 宏(平凡社世界大百科事典)
これらの竜はいずれも無意識・混沌を示す円環的時間 (進歩のない歴史) の隠喩であり,ギリシアではみずからの尾を貨む竜ウロボロスで表された。この永続が破れ,進歩へ向かう歴史 (直進的時間) が開始される経緯を表したのが竜殺しのテーマであるといえるかも知れない。 |
「永続が破れ,
進歩へ向かう歴史 (直進的時間) が開始される経緯を表したのが
竜殺しのテーマであるといえるかも知れない。」
荒俣 宏(平凡社世界大百科事典)
一方,キリスト教伝説に取り入れられた竜は,ゲオルギウスの物語にも明白なように,荒ぶる者,邪悪なる者のシンボルとなった。大天使ミカエルの竜退治をはじめ,聖人に殺される竜はみな〈悪〉の象徴である。このため竜はサタンとも同一視された。 《ヨハネの黙示録》には七つの頭,10 の角,七つの王冠を持つ巨大な竜が出てくる。中世の宗教画に頻出する地獄の口も,大口をあけて罪人の魂を飲みこむ竜の姿になっている例が多い。 なお 17 世紀に火器を装備した軍隊が組織されたが,火を吐く竜との連想から〈竜騎兵dragoon〉と呼ばれた。彼らが使用した大口径の短銃もドラゴン (竜騎銃) の名をもつ |
・「怪物の友―モンスター博物館」 荒俣 宏(集英社(1994/04))
内容(「BOOK」データベースより)
伝説の麒麟と実在のキリン、鳳凰とフェニックス、龍とドラゴンは、どこが同じでどこが違うのか。また、古今東西の怪物と呼ばれる想像上、伝説上の、実在を証明できない遊想動物たち。こうした「怪物」たちをこよなく愛する筆者が、その博物学的知識のすべてを傾注して書き表したおもしろくて解りやすい怪物学のオリジナル決定版。
・「龍とドラゴン -幻獣の図像学- イメージの博物誌 13」フランシス・ハックスリー 著 中野美代子 訳(平凡社 (1982/01))
上の荒俣さんによる概観の最後の「竜騎兵」というと、
アン・マキャフリーのSFファンタジーシリーズを思い浮かべる。
連綿と続く空想の王者の竜を、愛情ある魅力的な人間の伴侶としている。
傑作である。
竜の戦士 ハヤカワ文庫 SF パーンの竜騎士
HOME (first updated 2004/10/25)