まず、
平凡社世界大百科事典の記述をみてみます。
(以下は百科事典より抜粋した引用)
アスクレピオスAsklepiosギリシア神話の医神。
アポロンとラピタイの王の娘コロニス(カラスの意)の子。
コロニスが妊娠中に不貞を働いてアポロンに殺されたあと、
その胎内から取り出されて生を受けた。
ケンタウロス族の賢者ケイロンから医術を学んで名医となった。
死者を再生させる力まで持つに至ったので、
自然の理法が覆ることを恐れたゼウスの雷霆(らいてい)にうち殺され、
へびつかい座の星になったという。
ペロポネソス半島のエピダウロスには、
アスクレピオス崇拝の中心となった壮大な神殿があり、
病人は神殿で就寝中に神の恩寵にあづかって癒されたと伝えられる。
ローマへは、疫病が流行した前293年、
医神の娘で健康の女神ヒュギエイア
(ラテン名サルス英語hygiene衛生の語源ハイジーア「生」を「衛《まも》る」)と共に
テベレ川の中洲の神殿に分祠された。
彼の聖獣は蛇で供物には雄鶏が捧げられた。
Asklepios, god of Medicine.He is carrying his staff
with the serpent, symbol of Medicine even today
Athens National Museum
世界シンボル事典(ハンス・ビーダーマン著)より抜粋引用
「アスクレピオスの杖」staff of Asclepius
1匹の蛇が巻きついた杖
太陽神アポロンの息子(ローマ神話ではアイスクラピウス)の持物(アトリビュート)。
「アスクレピオスの蛇」は古代ギリシアにおいて、
特に鉱泉のそばにある療養所では神聖な動物とみなされた。
毎年脱皮を繰り返すので、若返りを連想させたためであろう。
ローマで疫病が猛威を振るったとき、
医神の化身である大蛇がギリシアのエピダウロスの地から遣わされると、
流行はたちまち収まったと伝えられる。
ヘルメスの杖と混同してはならない。
2匹の蛇がからみついている「ヘルメスの杖」とは別。
近代になって、アスクレピオスの杖は薬局の目印になったが、
医者の目印と区別するため杖の上端に皿を置き、
そこに蛇が舌を浸しているデザインが用いられた。
原型は、シュメールおよびバビロニアの医神で冥府の神でもあるニンギッジドゥがもつ
2匹の蛇が巻きついた杖だとみなされている。
ニンギッジドゥは、角のある蛇を従えた姿で表現されることもあり、
ラガシュのグデア王(前2100ころ)の守護神でもあった。
カルタゴでも崇拝されたフェニキアの医神エシュムーン(ヤスムーヌ)は、
ギリシア人によりアスクレピオスに同化させられ、やはり蛇のついた杖を持つ姿で描かれる。
オリエント学者A・イルクは、聖書の『出エジプト記』のモーゼの
蛇に変身する魔法の杖や、「民数記」の
モーゼの旗竿の青銅の蛇と関連付けている。
このあたりは、別にもっと詳しく見てみたいと思います。
「ヘルメスの杖」[2匹の蛇の絡まる杖]
モーゼの杖アスクレピオス自身が蛇であったというというヴァールブルク「蛇儀礼」を読むページはこちら
ベルリン国立美術館蔵
Grabrelief aus Lakonien, jetzt in den Berliner Staatlichen Museen
以上をまとめると、
1匹の蛇の絡まる医神アスクレピオスの杖は、
大地の治癒力
復活と再生[脱皮]のシンボル
健康、医術・呪術の象徴
蘇る医神アスクレピオスの物語 沢田 祐介 (著) 医歯薬出版 (2001/07) |
面白医話―社会医療文化誌案内 沢田 祐介 (著) 荘道社 (2000/02) |
医学と薬学のシンボル ―アスクレピオスの杖と ヒギエイア(ハイジア)の杯 古川 明 (著) 医歯薬出版(2002/04) |
高津春繁『ギリシア・ローマ神話事典』(岩波書店 1960)
呉 茂一『ギリシア神話』(新潮社 1969)
斎藤文子「縄文時代における蛇の信仰(1)」『考古学ジャーナル』№92(ニューサイエンス社 1974)
斎藤文子「縄文時代における蛇の信仰(2)」『考古学ジャーナル』№93(ニューサイエンス社 1974)
森 護『紋章学辞典』(大修館書店 1980)
能登 健「信仰儀礼にかかわる遺物(Ⅰ)」
『神道考古学講座』第1巻(雄山閣 1981)
アト・ド・フリース『イメージ・シンボル事典』(大修館書店 1984)
ジャン・ニポール・クレベール『動物シンボル事典』(大修館書店 1989)
山北 篤と怪兵隊『魔術師の饗宴』(新紀元社 1989)
佐治芳彦『謎の列島神話』(徳間書店 1990)
D・P・ウォーカー『ルネサンスの魔術思想』(平凡社 1993)
真野隆也『堕天使』(新紀元社 1995)
ディーター・ジェッター『西洋医学史ハンドブック』(朝倉書店 1996)
『ギリシア・ローマ神話文化事典』(原書房 1997)
カール・ケレーニイ『医神アスクレピオス』(白水社 1997)
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