青銅の蛇

モーセと蛇

旧約には。モーセがエジプトを脱出するのに先立ち、神から与えられた奇蹟の力で杖を蛇に変じ、エジプトの魔術師と技を競い勝つ場面がある(出 4:1-9)。

彼が率いるイスラエルの民が神の命に逆らったとき、神は罰として火の蛇を送り多くの人が咬まれて死んだ。モーセは民への戒めとして青銅の蛇を作り、木(旗印)の上に掛けた(民21:6‐9)。
後世では偶像崇拝の弊害をもたらしたとして破壊されたが(王下18:4)、この青銅の蛇は石版とともにモーセの持物となった。

中世ではそれが木に掛けられたことから、キリストの十字架の受難の予表と解釈した(ヨハ3:14の解釈による)。

以上、『キリスト教美術図典』の蛇の項より(p373)
(柳宗玄・中森義宗編 吉川弘文館 1990刊)

青銅の蛇 The Brazen Serpent

Moses made a Serpent of brass and put it upon a pole.

[典拠] (民21:6‐9)、(王下18:4)

[要旨] 神を冒涜するような言動をとるイスラエル人を懲罰のため、神は毒蛇で10人につき1人を殺す。
イスラエルの人々は、蛇を取り去るように神に祈ることをモーセに頼む。
神はモーセに炎の蛇を作り、旗竿の上に掛けるように命ずる。
蛇にかまれたものはそれを仰ぎ見れば救われるというので、モーセは青銅で蛇を旁、竿の上に掛ける。イスラエルの人々はそれを仰ぎ見て生きる力を得た。 

[図像]中世では、十字架上の「魂の病をいやす人」たるキリストを予示するものと考えられた。
図像はモーセとアロンが、
円柱上か、または円柱に巻き付いた青銅の蛇の両脇に立ち、その周りに大勢のイスラエルの人々を表す。
12世紀以後には、棒や円柱の代わりにT字形の十字架の表現が多くなる。 

以上は同じく、『キリスト教美術図典』の「青銅の蛇」の説明。(p48‐49)
図はミケランジェロがシスティナ礼拝堂に描いたモーセと青銅の蛇の図(✳↓)であった。

蛇足だが、この図典の青銅の蛇以外のモーセの関連項(p42‐49)のタイトルは、以下の12で、さすがに多い・・
アロン(兄)
エジプト人を殺すモーセ
エジプトの十の災厄
金の子牛
紅海を渡るモーセ
救われる幼児モーセ
ホレブの岩
→モーセ、岩を打って水を出す
マナの拾集
モーセ、エトロの娘を守る、
モーセ、十戒を受ける
モーセと王冠

蛇にかまれる人

Nehushtan

Angelo Bronzino 016
by アンジェロ・ブロンツィーノ(Agnolo Bronzino, 1503 - 1572)
メディチ家のフィレンツェ公コジモ1世の宮廷画家

16世紀初めの、蛇に体をかまれる図(壁画)というわけだが、ここには、蛇に吸乳される中世の隠喩はみられないようだ→2015k/J-L-Marx.html


Agnolo Bronzino - The adoration of the bronze snake - Google Art Project (27465014).jpg
"Agnolo Bronzino - The adoration of the bronze snake
- Google Art Project (27465014)
" by アーニョロ・ブロンズィーノ -

Palazzo Vecchio (Florence)

Agnolo Bronzino - The adoration of the bronze snake - Google Art Project (27452296)

Angelo Bronzino 017


西洋シンボル事典―キリスト教美術の記号とイメージ

この辞典は名の如くキリスト教見地で、 「蛇は聖書では最初から最後まで反キリストとして登場し、否定的なものの凝り固まりを意味する」とある。(ここら辺は、ヴァールブルクの論をあとで※見ます)


「神話と美術では二重の層を持ち、文字通り幸福をもたらすものとしての蛇は、医神アスクレピオス崇拝に現れる。」として、 このモーセの青銅の蛇は「原罪の無限の撲滅者というキリストの予型」とする。
キリストのシンボルとなる青銅の杖と、 エジプトの魔術師をくじくために蛇に変わったアロンの杖とこの二つは、 「エジプトの蛇の肯定的象徴表現の反映である」としている。

※ヴァールブルク「蛇儀礼」よりまとめ →hebi_warburg.html
聖書の中の偶像崇拝  青銅の蛇(Eherne Schlange)
旧約聖書 民数記 モーセ
蛇にかまれた傷をいやすには、青銅の蛇を作ってそれを見上げよ
旧約列王記下 ユダの王ヒゼキヤ(King Hiskia)がモーセの作った青銅の蛇を打ち砕いた。 (イスラエルの人はこのころまでこれをネフシュタンと呼んで香を焚いていた)

Sistine Chapel ceiling - Brazen Serpent

Michelangelo Buonarroti 024
Michelangelo  (1475–1564) 
ミケランジェロがシスティナ礼拝堂に描いたモーセと青銅の蛇のエピソード

Miguel ángel inventor-La serpiente de bronce-BNE

Michelangelo, Brazen Serpent 03

権杖の蛇

権杖(けんじょう)(東方正教会)は?・・・
*『ウィキペディア(Wikipedia)』より

正教会の主教が奉神礼の際に用いる杖。十字架を頂いたT字型のものや、『民数記』(21:8-9)でモーセが旗竿の先に掲げた青銅の蛇にちなんだ、蛇が十字架を中心にからみあった意匠のものが使われる。)

一大テーマの…杖の蛇ですね…そして、 青銅でなく、いうなれば聖堂の蛇になるか…⇒


蛇崇拝のイメージは、予型論(*1)的なイメージのつながりのなかで、磔刑図そのものにまでもちこまれる
モーセは民が黄金の雄牛を崇拝したという理由で掟の板を打ち砕いた。
クロイツリンゲンの教会の天井画(*2)の中で、「この掟の板との関連のもとで、紋章学上の盾持ちの役割を果たす形になっている」
(*1 新約聖書における事柄や出来事が、旧約聖書の中にすでに予示または象徴されているとする教説 )
(*2 「蛇儀礼」の表紙


表紙は  クロイツリンゲンKreuzlingen(スイス)の
ザンクト・ウルリヒ・ウント・アーフラ聖堂

聖書では、蛇はあらゆる邪悪の原因とされ、楽園からの追放という罰を受けた。
にもかかわらず、蛇は、不死身の異教的シンボルとして、つまり、治癒の神として、聖書の章の一つに再び忍びこんでいる

古代世界でも最も深い苦痛の本質を形象化。
その一方で、蛇の神性が持つ豊饒性をイメージに変えることにも成功

…蛇=苦痛というのは、今まで私が見た蛇に関する論にはなかったように思う。どうなのだろう。
蛇にかまれる=苦痛→


中世の神学においても、運命の神として再び登場することに成功
高く掲げられた蛇の姿は、進化の途上にある克服された段階であることは明言されてはいるものの、磔刑の場面と同等の扱いを受けていた
…「進化の途上にある」と明言されている?のであるか。
この世に最初から存在する破壊と死と苦しみはいったいどこから来たのか
蛇はこの疑問に対する答えとして国際的に通用する象徴
蛇についての一章が(ファィヒンガーの)「かのように」の哲学*の中に与えられてもしかるべき

*(数学、自然科学から道徳的宗教的知見に至る人間のすべての営みを生活のために有用な虚構であり、実在との一致としての真理とは無関係とする )

…これは結び…ヴァールブルクの鬱の原因であるか結果であるかがこのあたりにあるのかと思う。
…って、彼は、
「ユダヤ教の伝統的な偶像否定の教義に逆行するイメージ研究家」だったのね。

訳者の解題では…
「イメージ(イコン)の偶像性とその破壊(イコノクラスム)を扱う「青銅の蛇」をめぐる記述に複雑な思いが込められている 」
しかし蛇儀礼の結びに太陽をもちだすのもなんか納得いかない~
それも古代からの崇拝の対象でしょ?あれ??? 何かまだ読み足りてない思いです、σ(^^ゞ


上記「西洋シンボル事典」で取り上げられているイメージのWEB検索
(1)11世紀のブロンズ扉 サン・ゼノ ヴェローナ
(2)13世紀のレリーフ ヴェクセルブルクの説教壇
(3)13世紀のキリスト教論のフリーズ ストラスブールの大聖堂
(4)16世紀システィーナ礼拝堂 ヴァチカーノ宮殿
(5)ティントレット  16世紀  スクオーラ・ディ・サン・ロッコ ヴェネチア
(6)ヤン・ヨースト 16世紀 ザンクト・ニコラウス、カルカル/下ライン
(7)アンソニー・ヴァン・ダイク 17世紀 プラド美術館 マドリード
(8)青銅の蛇 ヘームスケルク

(1)11世紀のブロンズ扉 サン・ゼノ ヴェローナ
Verona, Basilica di San Zeno, bronze door 004
Details on the right panel of the Bronze door. Basilica of San Zeno

?(2)13世紀のレリーフ ヴェクセルブルクの説教壇
Wechselburg 独逸ザクセン州 

?(3)13世紀のキリスト教論のフリーズ ストラスブールの大聖堂

(4)16世紀システィーナ礼拝堂 ヴァチカーノ宮殿
Sistine Chapel ceiling - Brazen Serpent‎ 

(5)ティントレット  16世紀  スクオーラ・ディ・サン・ロッコ ヴェネチアScuola Grande di San Rocco little-puku.travel.coocan.jp/

(6)ヤン・ヨースト 16世紀 ザンクト・ニコラウス、カルカル/下ライン

(7)アンソニー・ヴァン・ダイク 17世紀 プラド美術館 マドリード

(8)青銅の蛇 ヘームスケルク 


おまけです:[魔法の杖]=アロンの杖(独逸語で「アーロンシュタープ」)というのがある。
英語でジャック・イン・ザ・プルピット(説教壇の中のジャック) ⇒Arum maculatum almond.html  

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R・ウィトカウアー (著), 大野 芳材, 西野 嘉章

Aby M. Warburg.
『アービ・M・ヴァールブルク―ある学者の肖像―』
(ガーリッツ/ライマース編)
Robert Galitz und Brita Reimers. Aby M.Warburg.
'Ekstatische Nymphe... trauernder Flussgott':
Portrait eines Gelehrten Hamburg:
Dolling und Galitz, 1995. 3-926174-87-0