文化研究 / 蛇に巻きつかれた人物像

「時の翁」

エルヴィン・パノフスキー『イコノロジー研究 ルネサンス美術における人文主義の諸テーマ』(1987 美術出版社)
STUDIES IN ICONOLOGY:Humanistic Themes in the Art of the Renaissance by Erwin Panofsky(1962)

 目次
1.序論
2.ピエロ・ディ・コジモの二つの絵画群における人間の初期の歴史
3.時の翁
4.盲目のクピド
5.フィレンツェと北イタリアにおける新プラトン主義運動
6・新プラトン主義運動とミケランジェロ

この中で私のテーマは時の翁・・・

ルネサンス美術やバロック美術においては、「時の翁」は通常翼をもちたいてい裸である。大鎌か手鎌という彼が最も多くの場合に携えて持物の他に、砂時計、自分の尾をかむ蛇もしくは龍、黄道十二宮などが付け加えられたり、あるいはそれらが大鎌や手鎌の代わりとなることもある。松葉杖をついている例も多い。(p67)
こういった一層手の込んだイメージが持つ特徴のいくつかは、古典期や古代末期に「時間』の観念を表した美術作品のうちに見出すことができるが、しかし近代的な意味での「時の翁」の類型を成り立たせる独特の組み合わせは、古代美術中には全く見出されない。

古代美術における時間の概念とそのイメージについての二つの主要な類型・・

一つは、「時間」をカイロスとして表したもの・・

人間の人生もしくは宇宙の進行における転換点となる短い決定的な瞬間
→俗に《機会》、走り過ぎる男の姿(若者)・・両肩と両踵に翼をもつ、持物は天秤で、もともとは剃刀の刃の上に、少し後には1,2個の車輪の上に載っていた
さらに、禿頭の《機会》を捕まえるのにつかんだと言われる有名な前髪があった
この像は11世紀まで生き残ったが、その後カイロスにあたるラテン語ocasio(機会)がイタリア語のfortuna(運命)と同性であることも与って《運命》の像と混交するようになった

もう一つ、カイロスという観念と正反対の観念

永遠にして無尽蔵な創造の聖なる原理、すなわち「アイオン」というイラン人の時間の概念
→ミトラ信仰と結びつく場合は、ライオンの頭と爪を持ち大蛇にきつく巻きつかれた、どちらかの手に鍵を持った不気味な有翼像となり、
また、普通ファネスとして知られるオルフェウス教の神を表す場合には、黄道十二宮にとりまかれ宇宙的な威力を示す多くの持物を身につけ、蛇が絡みついている美しい有翼の青年像を示す

これらの古代美術作品には、砂時計、大鎌、手鎌、松葉杖、ある意は特に老齢を示す特徴などを見つけることができない
「時間」の古代的イメージは
素早過ぎ去る様や危うい釣合いの象徴によるか、普遍的な威力と無限の豊穣の象徴によるかによって性格づけられていた

「時の翁」の最も特殊な属性・・退廃と破壊の象徴はどのように導入されたのか?
その答えはギリシア人の時間を意味する言葉「くろのす」が神々のうちの最長老でしかも最も恐るべきクロノス(Kuronos  ローマのサトゥルヌス)の名と非常によく似ていたということにある
農耕の守護神であるクロノスは通常、手鎌を持っていた、ギリシアとローマのパンテオンの長老であるから、彼は当然老人の姿をしていた

宗教的な崇拝が次第に崩れてついに哲学的な思索に成り変わった時、「くろのす」と「クロノス」という二つの概念が、実際にも同一のものである証拠として、これら二つのことばの偶然の類似が挙げられるようになった(p68)

プルタルコスによると、ヘラが「大気」を、へファイストが「火」を意味するのと同様、クロノスは「時間」を意味する
新プラトン主義者は、この同一性を物理的というよりはむしろ形而上学的な立場で受け入れた
紀元後4-5世紀の博学な著作形は、自分の尾をかむ蛇ないし竜のような新しい持物をクロノスに与え、その時間的意味を強調するようになった
クロノスが自分の子らを食ったという神話は、《時》が創造したものを皆食いつくすという意味を示すものと考えられるようになった

古典美術のクロノスは多少陰鬱な人物に表わされているが完璧な威厳を与えられている
中世時代に変化が起こった

 

3年たち、ようやく継続
(2015年11月に未亡人になったため ブランクあり)

以下に続く(20180825)

https://www.karakusamon.com/2015k/panofsky.html

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2015年

2015年1月8日