ヨーロッパ古代中世美術

ドムス・アウレアの装飾


17日に、唐草図鑑サイトをリニューアル。
そのスライドイメージとして自分の写真を検索して、
1枚目に選んだものであるが、それは、
2017年5月30日にバチカン美術館で撮影した写真である。
それは、ゲーテも
「ミケランジェロを見た後に、アラベスクの才気にあふれた戯れをみるのに適応できない」と書いていたが
https://www.karakusamon.com/goethe.html
それ(その元になるドムス・アウレアの装飾)である・・
これをもう少し考えてみる・・

「グロテスク装飾のインパクト」という論考(PDF) (武末祐子氏)より以下引用

ルネサンス最盛期で最も有名なグロテスク装飾は、ラファエロ工房が手がけ
た作品であろう。1517年着工のヴァチカン宮殿 4 階にあるビビエナ枢機卿の浴
室として使われていた小部屋(スタフェッタ)、さらに1519年着工の同枢機卿の
グロテスク装飾のインパクト ロジェッタ(小型柱廊)は、
それまでのように部分的ではなく、壁面と天井すべてにおいて
ドムス・アウレアにインスピレーションを受けて構想されており、
古代装飾をルネサンスに見事に復活させた作品として名高いという。

ネロの装飾の影響は、壁面にも明らかである。古代のレパートリー(植物
人間、海の怪物、絵画を支えるとがった燭台あるいは糸状のばかげた演台)

が、偽の繊細な建物と、 4 つの季節を擬人化して着色された彫像がある偽
のニッチの間に配置されている。そこには自然の優れた動物描写もあり、
山羊、魚、さまざまな鳥たちが非常に現実的に描かれ、白地に浮彫にされ、
カラフルなスタフェッタへと接続される。

以下wikipediaから補足しておくと・・

ドムス・アウレアDomus Aurea黄金宮殿)は、ローマ帝国第5代皇帝ネロが建設した大宮殿。64年に起こったローマ大火の後に、ローマ中心部に建設された広大な宮殿で、このためネロは市民の大顰蹙を買うことになった。16世紀には地下の洞窟「グロッタ」として知られており、その室内装飾はルネサンスルネサンス美術にも大きな影響を与えた。

・グロテスク:「洞窟の」という意味と「滑稽な」「奇怪な」という意味が、すぐに張り付いてしまった
・芸術史におけるグロテスク装飾研究は、語源は、15世紀に発見されたネロ宮
であるが、壁画装飾自体は、古代ローマ時代から存在していたので、古代ロー
マ絵画研究とともに、特にイタリアおよびフランス・ルネサンス期の建築装飾、
17世紀フランス古典主義装飾、18世紀新古典主義装飾がおもな対象になってい
る。
・グロテスク装飾には、根本的に無関心性がある。あくまでも目を引き付け
ながら、物語には誘導しないポエティックな美しさをもつ。


さらに以下にこの論考を要約参照すると、
( 1 )ネロ皇帝の黄金宮 domus aurea
ルネサンス時代(1480年頃)に発見されたネロ宮殿の遺跡は、紀元後 1 世紀
(64年から68年にかけての建設)
( 2 )グロテスク装飾のメディア性と周縁性
ドムスのグロテスク模様は、歴史画によって占められる中心部
分(『ヘクトルとアンドロマックの別れ』)を、幾何学形、人間、動物、植物が
絡み合いながらにぎやかに、帯状に周囲を取り巻く模様である。中心部分の歴
史画は、全体の比率からいうと、ほんの小さな面積しか占めていない
( 3 )グロテスク装飾の同化力
グロテスク装飾が、建築物の壁面や天井に、半人半獣、あるいは悪魔的怪物
など幻想的で非現実的な形態を繰り広げる一方、現実の動物や植物なども織り
込んでいる
「これらの自然から借りてきた美しい模範を、我々の退廃した嗜好は退けて
しまう。壁面には、自然で真実の表象ではなく怪物しかみあたらない。柱
の代わりに葦を置き、ペディメントは、縮んだ葉や軽い渦巻きで筋をつけ
られた銛や貝殻に置き換わっている。燭台がまるで根のように生え高い建
物を支えていたり、渦巻きの茎が坐像の人物を意味なく支えている。さら
に、茎から生物が生え、またそこから半生物が生まれている。あるものは
人間の顔をし、あるものは動物の頭をしている。それこそ、この世には存
在しないもの、存在不可能なもの、決してこれからも存在しないものであ
る。しかし、この新奇さは、他を凌いでいるので、消極的判断をするなら、
芸術は衰頽に向かうだろう。これら偽りのものをみても何の非難もきかれ
ない。それが可能かどうかなど、気にせずに楽しんでいる。」
(このウィトルウィウスの言葉は有名で、グロテスク装飾の否定的価値が、古
代ローマ時代にすでに確立している証拠としてしばしば引用される。
ヴァザーリは、ウィトルウィウスを参照して、その理論
を引き継ぐ形で、次のようにグロテスク模様を定義しようとする。)
「グロテスク模様は、古代に発明された自由 libre で滑稽な cocasse 絵画のカ
テゴリーであり、空中に宙づりされた形のみが可能な壁面装飾である。芸
術家たちは、自然の気まぐれ caprice、あるいは芸術家の突飛なファンタ
ジーから生まれた怪物的な歪曲物を表象していた。彼らは規則を逸脱する
形態を作り上げ、非常に細い紐にそれが支えきれない重量のものを吊るし、
馬の足を葉に変形し、人間の脚を鶴の足に変え、そのようなやり方で多く
の悪戯や法外さを描いた。最も狂気的な想像力をもつものが、最も卓越し
ていると見なされた。のちにいくつかの規則が導入され、フリーズやコン
パートメントにおいて見事な作品が作られた。」(ヴァザーリ)
( 4 )グロテスク装飾の表面性
ネロの黄金宮のグロテスク装飾について、早くから指摘されていることの一
つにそのグラフィック性がある。
植物文様と人物像がまるで一筆書きのようなす早いタッチで描
かれ、しかもすべてがつながっているような印象を与える。プッティたちは影
絵のような軽やかさをもっている。このような絵筆の運びは、文字的、記号的
印象を与える。ヒエログリフやアルファベットといってもよい。カリグラ
フィックな側面をもつグロテスク芸術は、限りなく「文字」に近づく。
( 5 )グロテスク装飾の反転力

論考の最後「葉群を古代風に回す術」ヴァザーリの言葉

ネロのドムス・アウレアにみられるグラフィック性をもつグロテスク模様は、エクリチュールとも重ね
ることができ、表面性の特徴はますます強調される。論理的意味を追求せず、
形態の創造を促すグロテスク装飾は、その様式やスタイルが生成運動を活性化
している。
この絶え間ない生成運動を支えているのが、アカンサスやブドウの木やパル
メットなどの植物群である。植物の身体は、人間や動物の身体が生殖機能を下
方に隠すようにもつのとは逆に、上方にあって露出し、周囲の環境に可能な限
り適応して再生を繰り返すように作られている。この植物が、ヴァザーリの言
葉を借りると「葉群を古代風に回す術」を使う芸術家によって、限りなく回転
され、反転されていくことで、すべての要素が重力をなくし、容易に変身する。
こうしてパラドックス性が表面化してくる。
深みを追求するのではなく、表面を滑り、回転し、ずれていく。表面にこそ、
そのインパクトがある。装飾を作る人、見る人、あるいは装飾を作る時代、見
る時代が集中し、反映する。グロテスク装飾は、過去と現在のインターフェー
スなのである。

補:「装飾というのは、純粋にスタイル論理の問題であろう。これに反してテーマ
グロテスク装飾のインパクトをもつ絵画は、その内容についての図像学さらには図像解釈学の問題になる」
フィリップ・モレル:『グロテスク模様─ルネサンス末期のイタリア絵画における幻想の表象』

 

Print, Wall Decoration, Domus Aurea, Rome, 1776–77 (CH 18438795)
Wall Decoration, Domus Aurea, Rome
50.2 x 54.8 cm (19 3/4 x 21 9/16 in. )
Design for a wall decoration. View of red colored wall with grotesques above a rendering of a marble wall with inlaid squares and circles. Grotesque motif consists of open framework compartments surmounted with figures at left and right and draped material at center.
「象眼細工の正方形と円の大理石の壁のレンダリングの上にグロテスクのある赤い色の壁のビュー。
グロテスクなモチーフは、左右にフィギュアが上にあり、中央にドレープ素材が置かれたオープンフレームワークコンパートメントで構成される」
コレクション:クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館 (NY)