「シンボルとしての樹木」を読む
内容(「BOOK」データベースより)
ヒエロニムス・ボッスの作品を例に、象徴の狩人・ルルカーが描く夢みられた樹々の世界
内容(「MARC」データベースより)
樹木は、人間の象徴的な思考にとって、太古より重要な役割を演じてきた。ボッスの絵に描かれた樹木象徴の解釈をよこ糸とし、民俗や信仰におけるそれをたて糸として、夢みられた樹々の世界を描く。
以下でルルカーを精読します・・
表紙の絵は第2章のなかの「樹木と性」p38で解説されている
図9 「アダムから哲学の樹が生い立つ」
訳註によれば、Ashburnham アシュバーナム(1797-1878)
(=イギリスの写本・古書収集家)写本コレクション
ボッスの生涯
秘教徒
芸術家
モチーフとシンボル
ボッスの作品の三区分(byフセベ・デ・シグエンサ 1600年ごろ)p11
(1)キリストの生涯と苦悩を描いた絵
(2)誘惑される聖者と地獄を描いた絵
(3)「深淵なモラルに満ちた、象徴的で神秘的な絵」
図1 ヒエロニムス・ボッス:悪魔(リスボンの『聖アントニウスの誘惑』から(p13)
逆さまのじょうごは、不妊、不毛の象徴象徴(byフレンガー)
注ぎ口から出ている枝は「枯れ果てた生命」を暗示
比喩としての樹木
世界樹
逆さまの樹
樹木と性
誕生の場所
死の木
図2 ダリの『溶解する時間』(ニューヨーク、近代美術館蔵)
「20世紀の芸術はそれなりのやり方で、元型的なものを明らかにしようと努めている。」「偏執狂(パラノイア)的、批判的創造活動」1本しかない小枝は「果実」として曲がった時計板をつけている(p19)
図3 ササン朝ペルシア風の銀の皿 右側にプラタナスの樹
(北アジアの遊牧民が模倣したもの)
「古代ペルシアでは(宝石できた)垂れた房をもつ(黄金の)プラタナスの樹は支配の象徴」(p23)
ここ 意味不明!?プラタナス??
出典 A・アルフェルディ 『王の幕屋 支配者のシンボル三千年史』(1952) というが
図4 ヒエロニムス・ボッス『耳を澄ます森と見つめる野原』(p26)
三角形の木の空洞(うろ)に悠然と止まっている梟―人間を暗示
「人間はその精神のおかげて自分自身を超えて成長し、大地に向かって根付くと同時に天に向かって聳え立つが、天には到達できない」このような人間の自我を象徴する世界樹
図10 ヒエロニムス・ボッス「快楽の園」における枝の突き出た板状のフォルム(p41)
誕生の場としての樹に関する伝承のあとで、この特異な形を論ずる・・「婚礼の部屋」(ジャック・コンブ)「板と棘のある枝からなる半ば植物的な形象」(ヴェルトハイム・エメ)→新たな生命の始まり ここでも元型的な誕生の場の意味が込められている
カール・コッホによる樹のスケッチのテスト
木の根と根もと
樹の瘤と切り株
自己・全体・変化のシンボルとしての樹木
ボッスの作品に根の描写はほんのわずかしかないが、『荒野の洗礼者ヨハネ』(p56)の小さな根は
道を拓くキリストの一部とみなすことができる:右手は根と並んで横たわる子羊を指している(p56)
自己の象徴としての樹の形象
『錬金術師』、トリプティック『快楽の園」における樹木人間、『聖アントニウスの誘惑』(ブラド美術館)等・・雨や要綱を遮っている樹 本来の使命を果たす状態にない(p60)
装飾文様としての樹木
古代における樹木描写
弁別的特徴
樹木のパターン
ボッスの特徴的な樹木
ボッスの特徴的な樹形(p86)
幹を過度に強調する
樹冠を強調する
異常にほっそりした、ほとんど蝋燭のような幹は、
均整の取れた葉叢の美しい樹幹を戴いている
長すぎる樹木
フォーク状樹木も特徴→「鹿の角」のような形に近づく
楽園と庭
林と森
樹と岩
内的空間としての風景
聖書の内容
生命の樹
生命の樹と生命の水
認識の樹
原罪
図38 ヒエロニムス・ボッス『十字架を担うキリスト』(祭壇画『アントニウスの誘惑』の右翼パネル外側 リスボン国立美術館蔵)
「キリストの左下に一本の樹が地面から突き出ており、その一方の枝先には、人間の頭(あるいは仮面)が串刺しになっていて、もう一方の枝先には、一羽ののカラスが止まっている。この樹とキリストを結ぶ直線を引くと、ほとんど地平線上に建つ教会に突き当たる、死への道は、実際には生への道なのである。教会の左側に、葉をつけた岩山が鋭くそびえたっている。」(p123)樹と神との結びつき
動物
果実
太陽・月・星
幸福と力の象徴
杭とフォーク
柱
帆柱
十字架としての樹、樹としての十字架
図57 ヒエロニムス・ボッス『悪魔の船』(ウィーン)デッサン
(p180)
「否定的な力を表すしるしへと意味がずらされている」
大きなボートが、拍車のついた靴を履いた巨大な悪魔によって運ばれている
一滴の水もなく、その船は本来の使命を奪われている
系統樹
罪と苦しみの樹
再生の樹
植物への変身
仲介者としての樹
(p216)ボッスのトリブティック『快楽の園」・・楽園で神々によってつくられた人間の均整の取れた美しい肉体は、罪によって樹の怪物になり、その標識として、猥褻(バグパイプ)やふぃ信心(三日月)のしるしが書き込まれている。「清らかな前景における、楽園の人物描写」から「世界を裏側から見る歪んだ視点」への転換がなされる。
フレンガーは、両足を大きなボートに乗せた樹木人間を、認識の樹と死の樹の観点から描かれた「生命の樹のモチーフの退廃型」とみなしている。
トルネによれば、樹木人間の顔は、自分の周囲に広まっていた地獄のヴィジョンを心に刻み込んでいたボッスの自画像である。
図67 ヒエロニムス・ボッス 『瞑想する男の空想』
マドリード、ラザロ・カルディアノ美術館) ボッスの初期作品
中央の降ろは魂の清めの場所(byヴェルトハイム・エメ)
Hieronymus Bosch - Tree-Man -
ウィーンの アルベルティーナ 蔵 c. 1505
「左右の切り株が卵型の胴体を突き破り、細かく枝分かれして、上に突き出ている」
「人間が仮象を超えて彼岸へと入っていくように」(ポイケイト)、樹木人間は、主観的世界から客観的世界へと越え出ていく試みと解釈できる(p218)
「樹木と十字架はたんに万物の象徴であるのみならず、世界の矛盾を克服したいと願う人間の願望の中心的シンボルである」(p224)
上の一文が本書の結語であるが、私としては、いまいちここで終えられないと思うのであった・・
原題は『信仰と美術における樹木–とりわけヒエロニムス・ボッスの作品を顧慮しつつ』(1960)
マンフレート・ルルカーの別の著書「聖書象徴事典」を読むページはこちらへ
その他のManfred Lurker( 1928~1990)の著書
〇『美術における象徴・神話・伝説』(1974年第2版)
〇『古代エジプト人の神々と象徴』(1977年第3版)
→ 「エジプト神話シンボル事典」 山下 主一郎 (訳) 1996大修館書店
●『聖書における形象・象徴事典』(1978年第2版)
→邦訳「聖書象徴事典」(池田紘一訳人文書院1988年)
●『象徴としての円』―人類の思想・宗教・芸術における表現 →邦訳 竹内章訳(叢書・ウニベルシタス)1991
〇『象徴・象徴概念・象徴研究論集』(1983年編集責任者)
●『鷲と蛇』―諸民族の震央と世界像における動物象徴(1983)
→邦訳(叢書・ウニベルシタス) 1996
〇『神々と魔人の事典』 (1984年)
■『シンボルのメッセージ 』(叢書・ウニベルシタス) – 2000/11, 林 捷, 林 田鶴子 (訳)
:内容(「BOOK」データベースより)「象徴の狩人」最後の著作。その思想的・概念的・歴史的な位置づけに始まり、神話やメルヒェンや夢における象徴の意味を探るとともに、太陽・月・星・円・数・樹木・花・動物・仮面・巡礼・舞踊・水と洗礼・十字架等々におよぶ多彩なシンボルのメッセージに耳を傾ける。
■ミルチャ・エリアーデ編『宗教事典』をはじめとして諸事典の象徴関係の項目を分担執筆
こちらの絵はマンテーニャTriumph of the Virtues by Andrea Mantegna(ルーブル蔵) ミネルヴァと木の男、これについても後ほど詳しく見たい