ノイマンの「ウロボロス」


エーリッヒ・ノイマン


(Erich Neumann、1905年 - 1960年):ドイツ出身の心理学者。
55歳で亡くなったのですね。
「ユングの高弟ノイマンの代表作」『意識の起源史 』・・ 意識発達に関する理論体系を提起した著作。
序論に「深層心理学に基づく意識発達の元型的諸段階を検証しようとする試み、ユングの分析心理学の応用。」とあり。

(※元型(原イメージ)=ユングの用語。集合的無意識の構成要素)


蛇(龍)のイメージということで、その部分を主に見たいと思う。
(「ウロボロス」、オシリス=エジプト神話)

「神話の本質的な部分には、人類の意識の発達が無意識のうちに自己表現されている。」(p29)


「竜との戦いの神話は、自立せんとする意識を描いたもの」


なお図版は全くないものを、訳者(林道義Wikipedia)が
イメージによる理解を助けるために選んだと あとがきにあり、
改訂前の1984年、1985年の上下分冊(紀伊國屋書店刊)の表紙は以下

上巻が、「イアソンの帰還」

下巻が「ヘラクレスの夜の航海」・ともにギリシア神話から
※巨竜の口から戻るイアソン→https://www.geocities.jp/kraumjp/reisenaruto5iasonnewpage1.html
ヘラクレスの方の図像は見かけない・・→ライオンの皮


2006年の新版の表紙は、クレタ-ミケーネ文明の「蛇をつかむ女神」になっている。

しかし、この帯の文言?・・ 「病巣」って!?
たしかに「本研究の目的は個人と文化の治療である」(p26)とあり、人類を滅ぼす大衆的現象に打ち勝つ、といったことが書かれているが、こう大書されると違和感があります。・・


Wikipediaカール・グスタフ・ユング
(Carl Gustav Jung、1875年7月26日 - 1961年6月6日)
フロイトが「リビドー」を全て「性」に還元することに異議を唱え、はるかに広大な意味をもつものとして「リビドー」を再定義し、ついに決別することとなった。[2]ユングは後に、フロイトの言う「無意識」は個人の意識に抑圧された内容の「ごみ捨て場」のようなものであるが、自分の言う無意識とは「人類の歴史が眠る宝庫」のようなものである、と例えている。

Google booksで見る=英語で読むことができます
The origins and history of consciousness


表紙は ヒエロニムス・ボッシュのThe Creation of the World,
Closed Doors of the Triptych "The Garden of Earthly Delights,"
c. 1500 Museo del Prado, Madrid
Wikipediaヒエロニムス・ボスJheronimus Bosch 
wikimedia「快楽の園 世界の創造」  
英語版の表紙です・・なぜこれなのかよくわかない・・
Jheronimus Bosch 023
この本の内容紹介(カバー裏にある文言)
世界中の神話には多くの共通パターンがある。
天地創造から 原両親の分離に到る創造神話、
英雄の誕生から、母殺し・父殺し、
宝物や女性の獲得を経て、
再生と変容に到る英雄神話である。

ユングは、
神話を、人類に共通の集合的無意識がイメージの形で意識に現れたものと考えるが、
ノイマンは
個人の自我意識が人類の歩んできた意識発達の元型的諸段階を辿るという雄大な仮説のもとに、その軌跡を神話の中に探る。

母子未分化のカオスの状態から、意識が広大な無意識の海に出現し、
さまざまな危険と試練を経て自ら主張し、ついには無意識を統合していく過程が、
創造神話、英雄神話の中に見事に表現されているというのである。

こころ(※ゼーレというルビ)


序文

「序文として一言書いて欲しいという著者の希望に、私は喜んで応じることにした。 なぜならこの稀にみる労作は大いに私の意に叶ったからである。
本書の原稿を読んで、私は開拓者の仕事がいかに不利であるかを思い知らされた。
彼は関連の網の目を組み立て、全体を構築することに成功した。それは開拓者では決して成し得なかった。
彼の研究は、私がかって思いもかけず未知の大陸にぶつかってしまった箇所、すなわち母権制のシンボル体系から始まっている。
しかもそのシンボル体系の中に見られるものを抽象的に把握するために彼が用いているシンボルは、私の最近の研究である錬金術の心理学の中で初めて私にもその意味が幾分明らかになってきたシンボル、すなわちウロボロスなのである。」 1949年3月 C.G.ユング


序論

   神話は集合的無意識の投影である
    意識発達の元型的諸段階	
      発達史の観点	
      意識の創造的な性格	
      超個人的要因と個人的要因	
      意識発達は人類史的かつ個体発生的な出来事である
      方法について
      本研究の目的は個人と文化の治療である
      

第1部 神話に見られる意識発達の諸段階


A 創造神話

  Ⅰ  ウロボロス (※1)ouroboros.html
ウロボロスとは原初を宇宙論的・人類史的・系統発生的にシンボル化したものである。

E・カッシーラーは、あらゆる民族、あらゆる宗教において、創造が光の創造として現れていることを証明し、その内容を記述した。

要するに、無意識の暗黒に対立する光として現れてくる意識の成立こそ、創造神話の本来の「主題」なのである。
意識の発達の始まりを、世界の始まりとして神話的に表現したものが光の生成であり、この光の生成があってはじめて、世界生成がそもそも目に見えるものとなるのである. (p37)

始源のシンボル群━完全な円・胚芽・対立を含むもの・永遠に静止せるもの。 円の二つの意味━子宮と両親。

フロイトが窪んだものをすべて女性的なものとみなした時、それらをシンボルとみなしていたなら、正しい見方になったであろう。それを「女性性器」と解釈する時、彼は大きな間違いを犯す。なぜなら、女性性器は原母元型のわずかな部分にすぎないからである。 (p46)

母ウロボロスと自我-胚芽━良き母。

人間の意識はこの母なるウロボロスに対して自らを胎児的だと感じる。というのは自分がこのシンボルの中ににすっぽり包まれていると思われるからである。(p47)

ウロボロス近親相姦とは始原の一体感へ戻ろうとする傾向である。

近親相姦とはもちろん象徴的に理解されるべきであって、具体的-性的に理解されてはならない。(p50)

互いに結合した原両親
父性的な性格を持つウロボロス-自己授精による生成の始まり
ウロボロスの段階における世界以前の知
身体図のシンボル体系
食物ウロボロス━最初の出来事を語る摂取-排泄シンボル群
ウロボロス段階における自足
ウロボロスからの分離-自我が世界や無意識と対決する基礎としての中心志向
ウロボロスは個性化の完成シンボルでもある

  Ⅱ  太母 (※2)

    一 太母、すなわちウロボロスの支配下にある自我    
    二 恐ろしい太母の支配領域としてのエジプト、カナン、クレタ、ギリシア
    三 太母に対する少年=愛人の関係を表す諸段階
 
 Ⅲ  原両親の分離、すなわち対立原理

B 英雄神話


Ⅰ  英雄の誕生
Ⅱ  母殺し
Ⅲ  父殺し


C 変容神話


Ⅰ  囚われの女性と宝物
Ⅱ  変容、すなわちオリシス

第二部 人格発達の心理的諸段階―心的エネルギー論と文化心理学のために (第二部序論)
     コンプレックスとしての自我
     解釈の構造的な側面と発生的な側面
     時系列としての元型的諸段階

ウロボロスは太母段階の「前」、太母は「竜との戦い」の「前」に位置するが、これを時間の中に絶対的な形で位置づけることは不可能。
クレタ-ミケーネ文化は、太母崇拝が優位を占めたいらところから、太母(段階)ということになる
自我と意識の最初期の発達はウロボロスおよび太母のシンボルのうちに現れる。(p421)
      

A 始原の一体性 - 中心志向と自我形成

         (神話的段階 - ウロボロス、および太母)
    一 始原状態たるウロボロスに包まれた自我・胚芽
    二 ウロボロスからの自我の発達
    三 生物体における、およびウロボロス段階における、中心志向
    四 中心志向・自我・意識
    五 自我発達のその後の諸段階

 B 体系の分離 - 中心志向と分化

  
         (神話的段階 - 世界両親の分離、および「竜との戦い」)
    序論
     無意識を防御する中での自我体系の強化
     無意識の攻撃傾向を自我活動へ転用する
     自我が無意識にたいして積極的に対決し、個性が生まれる
    一 元型の分解
    二 情動的要素の解体、および合理化
    三 付随的個人化
    四 快-不快-要素の変転
    五 人格の判断中枢の形成
    六 自我の総合機能

 C 意識の平衡と危機

    序論
    一 体系分離の補償 - 平衡状態にある文化
    二 体系分離から体系分裂へ - 危機にある文化

 D 中心志向と年齢 - 年齢段階の意味

    序論
    一 小児期の延長と、人類の意識分化の個体発生的反復
    二 思春期における集合的意識の活性化と自我の変化
    三 人生後半における中心志向の自己意識化

      補 遺
    付録Ⅰ 集団、偉大なる個人、および個人の発達
    付録Ⅱ 大衆人間の形成と集合化現象


(※1) ウロボロス Wikipedia( uroboros,ouroboros)

始原に位置するものは完全性と全体性である。
始源にはいつもある一つのシンボル[=ウロボロス]が置かれるが、このシンボルは恐ろしく多様な意味をもち、規定されず、規定し得ないものであることが最大の特徴である。
始源の原初の状態は、神話において宇宙に投影され、世界の始まりとして、すなわち創造神話として描かれる。(p36)


ウロボロスを描いたおそらく最古のものは二ップール出土の皿であり、
テンの蛇としてはすでにバビロニアに見られ
その起源についてはマクロビウスがフェニキア人に伝えている。
ウロボロスは《全は一なり》の元型としていたるところにみられ、
例えばりヴィアタン、アイオーン、オケアノス、それに
「私はアルパでありオメガである」と自らを明かした原存在として現れている。 (p42)

古代[エジプト]のクネフは「原蛇]すなわち[太古の最も古い神の姿]である
このウロボロスは、ヨハネの黙示録、グノーシス、それに諸派混合期のローマに見られ、その絵は、
ナヴァホ・インディアンの砂絵やジォットーの絵画に、また錬金術の文献やジプシーの魔よけの護符などにも描かれている。。 (p43)

ニップール→ニップルNippur (Iraq)
Incantation bowl, Nippur, terracotta - Oriental Institute Museum, University of Chicago - DSC07067
(※2)     太母

https://en.wikipedia.org/wiki/Mother_goddess
Carl Gustav Jung suggested that the archetypal mother was a part of the collective unconscious of all humans, and various Jungian students, e.g. Erich Neumann and Ernst Whitmont have argued that such mother imagery underpins many mythologies, and precedes the image of the paternal "father", in such religious systems. Such speculations help explain the universality of such mother goddess imagery around the world.

(1955)グレートマザー:アーキタイプの分析

Cagnacci Allegoria
Allegoria della vita umana, by Guido Cagnacci (1601–63).
The Ouroboros is visible in the upper left


内容(「BOOK」データベースより)
人間のこころには、フロイトのいう個人的な無意識だけでなく、人類に共通の集合的無意識がある―ユングの独創であり、卓見である「集合的無意識」とそのパターンとしての「元型」をめぐるユング自身の理論的文章をすべて収録した決定版。古今東西の該博な知識に裏づけられたユングの名文を、長年の研究に基づいた丁寧な訳註・解説を付け、日本語に再現する。ユング思想を理解するのに必携の一冊。

https://charm.at.webry.info/200702/article_9.html

(2011年8月5日)

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