唐草図鑑

聖なる三角形(鱗文2)

  

幾何学的な文様

    me
  1. 『世界文様事典』
  2. 『世界装飾文様事典』(#)
  3. 『ヨーロッパの文様事典』

鱗(聖なる三角形)

me『世界文様事典』で、「青海波」→鱗文uroko.htmlの項の記述(p188‐193)を見たが、この他に、別項で「鱗(聖なる三角形)」の項がある(p262‐265)。

日本の鱗文様の一単位は三角形で、全体の意匠は連続三角幾何学文様となる。
この三角形は竜の鱗とされているが、図形的根拠はない。(西上 p262)


鱗文様(西上p264図)


花入鱗文様(西上p264図)

三角文
(『世界文様事典』より)

古墳時代から三角装飾は現れるが、単なる装飾というより、呪術性の高い魔除けの役目を持っていたらしい。
三角文は死者を悪霊から守り、近親者たちを守護するようにとの願いを込めた、古墳壁画や埋葬品に描かれた。


 『王塚古墳』六世紀中前方後円墳 福岡県嘉穂郡桂川町
装飾古墳データベース 、(wikipedia

呪術的効果を持つとされる鏡に三角文や神獣を配したもの(三角縁神獣鏡)も出土する。
また日本の死者は白布で作った三角形を額につけたり、三角の紙冠をつけて弔われた。

Mirror with Triangular Rim and Design of Buddhist Characters and Animals, Kofun period, 4th century, from Shinyama Tumulus, Koryo-cho, Nara - Tokyo National Museum - DSC06346
三角縁三神三獣鏡(三仏三獣鏡) 奈良県広陵町・新山古墳出土 宮内庁蔵(東京国立博物館展示)

弥生時代の銅鐸にも三角文は見られ、日本人の竜蛇信仰と関係があったようだ。


日本人は海の民として、海難除けに竜蛇の入れ墨をして守護を願ったといわれる。日本人の入れ墨の習慣については『魏志倭人伝』に記されている。

※刺青・文身・入れ墨→身体装飾

古墳の装飾に現われる三角文、埴輪の巫女の襷の三角文は、魔よけ、竜蛇に加護を願う形として、中国江南地方、台湾までの広い地域にまたがって見られる。
日本を含めた中国・朝鮮・東南アジア一帯では、古代、死者・祖先の例は蛇の姿で現れると信じられていた。竜は蛇の大型のものとして、その鱗とされる三角文は、魔除け・呪術性の意味を持つと考えられたのである。


埴輪 腰かける巫女(東京国立博物館収蔵)

連続三角文様

連続三角文様は鱗文様、鱗形と呼ばれる。
三角形一つは「一つ鱗」で、三角形の数によって「二つ鱗」「ミツウロコ」といいもんどころになっている」。
(『世界文様事典』)

丸に一つ鱗
Uroko mon (Japanese crests of scale)
日本の鱗文
「正三角形一つを描いた「一つ鱗」が基本形である。
それを3つ山形に積み上げたものを「三つ鱗」といい、それに丸をつけたものが多用される。」(wikipedia)

竜蛇を表わすものとしてこの鱗文様の衣装が用いられる。
八岐大蛇(やまたのおろち)伝説のある島根県佐太市神社の佐陀神能に登場する大蛇の衣装。安珍清姫伝説が主題の歌舞伎舞踊「京鹿子娘道成寺」、能「道成寺」で鱗文様の衣装は女の本性を示す。
(『世界文様事典』)

https://www.city.matsue.shimane.jp/

京鹿の子 娘道成寺 ■花柳伊奈衛

能装束としては、嫉妬に狂う女の生霊や魔性を見せて変身する鬼女といった役どころに、鱗文様が用いられる。世阿弥「恋重荷」では老庭守の怨霊が身につけ、鱗文様の衣装が正体を教えてくれる。

https://images.app.goo.gl/tHZHfe1jh5vRJWRV8

西欧では三角形は三位一体の象徴としてキリスト教会で重視され、特にゴシック美術にとっては不可欠のモチーフとなった。

聖なる三角形の不思議の最大の形は、エジプトのピラミッドである。古今、諸説が唱えられている。
上を向いた三角形は、古代エジプト人にとって火を意味したとの説があり、ピラミッドは地上の巨大な火として、天空の火(太陽)に対しているという。
(『世界文様事典』)

wikipedia)ピラミッドの語源の最も有力な説はギリシア語で三角形のパンを指すピューラミスπυραμίς pyramis ピラミス、ピラムスとも)に由来する、という説である。古代エジプト語名は「メル(mer/mr)」で、「昇る」という意味。ヒエログリフでは三角形の下に、地上を表す長方形が付いたもので表記した。 O24

また、上向きの三角形と下向きの三角形の接合形は、「エジプト人の手」と呼ばれ、北部エジプトと南部エジプトを表わす。

meこの記述がわからない・・エジプト図像については、結構見てきたのだが。 検索でも何も出てこない。
確か、上下エジプトの統一の象徴は、二人の男(→両性具有の神)が、蓮(上ナイル)とパピルス(下ナイル)の花を結び合う 図だったと思う・・・
Luxor Tempel 15
セマァ・タァウイが刻まれています。
統一を象徴する セマァという文字に、上エジプトの象徴ロータスと下エジプトの象徴パピルスを 結びつけて、上下エジプトの統一と安定を表す、というが、
しかしそれは、別の意味を持ち、夏を表すという解釈もあったと思うが、とにかく、三角は関係していない?
Double crown〈複合 (二重) 冠〉
更に見ていると、 wikipediaによれば、ヒエログリフでは、古代エジプトの豊饒神ソプデトを「△」(三角形)で表す、というが。(しばし、おいておきます20200223)
Hapy tying
Hapi, shown as an iconographic pair of genii symbolically tying together upper and lower Egypt
ハピ(Hapi) ナイル河の神の神
「 頭の植物はナイルの象徴パピルス。 二人のハピがパピルスで呼吸を意味する文字を縛っている 上下エジプトの統一を意味する。」Wilkinson, Richard H. (2003). The Complete Gods and Goddesses of Ancient Egypt

古代インドの五大思想でも、上向きの三角形は火(アグニ)を意味する。また、上向きの三角形と下向きの三角形の組み合わせは、男性原理と女性原理の結合の象徴と考えられ、ヒンズー教一派の修法に使われている。
(『世界文様事典』)

Sri Yantra
Shree Yantra
The Lalita Sahasranama in diagrammatic form,
showing how its nine interlocking triangles form a total of 43 smaller triangles.

まったく同じ上向きと下向きの三角形の組み合わせ形がイスラエルのダヴィデの星であって、ユダヤ教の象徴となっている。

二つの正三角形を逆に重ねた六芒星(ヘキサグラム)
文字コードはU+2721(Unicode)、

聖なる三角形に、神秘な力を見ていた民族は多い。(西上p265)

me『世界文様事典』の内容では 以上であるが、もう少し検索する

三角形(シンボル)

Dragon's Eye symbol Koch
Dragon's Eye symbol Koch

The claimed "Dragon's Eye" symbol based on the depiction in Rudolf Koch's Book of Signs: An isosceles triangle, which is approximately intermediate between a right isosceles triangle (i.e. half-square) and an equilateral triangle, and which is divided by internal lines into three approximately equal areas.



マルタ十字文
Maltese-Cross-Heraldry
マルタ十字文 彩文土器 サマラ BC5000年


wikipedia)サマラ文化(Samara culture)は紀元前5千年紀に、ロシア西南部ヴォルガ川流域の銅器時代中期に存在した文化。


(『西洋装飾文様事典』より)

三角形が、地と文様に交互に入れ替わって構成する文様。
三角の図形には古くから三位一体的信仰心や尖った頂を神聖化する気持ちが随伴しているといわれる。
古くは、九州の王塚古墳や日の岡古墳の壁面や天井をはじめ、埴輪や衣、袴、帽、冠、帯などに盛んに用いられている。

だが、奈良時代や平安時代には、染織や工芸見るべきものはなく、鎌倉時代には、武士の鎧の染革や衣料に非常に多く現れて、鱗文が家紋に固定するまでに一般化してくる。 室町から江戸時代にかけて非常に多くなり名物裂や能装束の厚板、唐織、武家の陣羽織としても用いられている。
『西洋装飾文様事典』(城一夫著 朝倉書店1993)p56

世界各地でもこれに似た文様は多く、モヘンジョ・ダロ出土の彩陶や中国の半山期の彩陶、アメリカ・インディアンのバスケットに多く見受けられ、また西洋紋章の基本文様ともなっているが、19世紀に一般的となった。


木綿プリント「うろこ文の植物模様」
オーベルカンプ(1800年)ミュール―ズ染織美術館
Christophe Philippe Oberkamp(1738-1815)
Musée de l'Impression sur Etoffes (織物印刷博物館)

me1920年のE・マックナイト・カウアーの「鳥のポスター」の地文の鱗文が興味深い。
『西洋装飾文様事典』(城一夫著 朝倉書店1993)p56
E・マックナイト・カウアー「鳥のポスター」を検索したが何も見つからない。

エルミタージュ美術館(wikipedia) 鳥獣文鍍金銀皿 鱗

『ヨーロッパの文様事典』


ヨーロッパの文様・幾何学文様 幾何学―その他 p219 図
「湯槽形の陶棺」前1400年頃 クレタ島バルキアモス出土、
ギリシア、イラクリオン考古博物館

海をイメージしたのであろうか、渦巻き、波文、鱗状文がつけらている。(『ヨーロッパの文様事典』早川優子 視覚デザイン研究所 2000年刊p219)

『日本・中国の文様事典』


日本の文様・割り付け文様 鱗(p22)
三角形を交互に並べた入れ替え文様
文入り鱗
鱗文様の互いの目の中に異なる二種の文様を収める 大小の三角形の中に鱗文を充填した文様鱗文様金襴 名物裂 明

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