唐草図鑑

鱗文様 (青海波2)

  

幾何学的な文様

me先に書いたように(青海波 seigaiha.html)、シルクロードの果ての日本の文様を見るところまでは到達していないのだが・・ ここでは鱗文様(scale)ということで・・

青海波/文様

『世界文様事典』(西上ハルオ著 創元社1994)p188‐193 

4~5世紀のころから日本で用いられているが、青海波の名称が与えられたのは平安時代らしい。
同心の半円形を積み重ねていく波文様で、その繰り返しが規則正しいリズムを作り出す。
格調高い文様。

江戸時代の通貨にこの文様が使用され、通称を波銭といった。

M4-1768-Kaneitsuho-21NamiMeiwa
青海波寛永通宝4文銭
江戸時代の銭貨のうち裏面に波の模様がある四文銭。寛永通宝(真鍮銭と鉄銭)・文久永宝の称。


日本の紋・・Mon_(emblem)には挙げられていないようだ。

丸に一つ鱗
Uroko mon (Japanese crests of scale)
「正三角形一つを描いた「一つ鱗」が基本形である。
それを3つ山形に積み上げたものを「三つ鱗」といい、それに丸をつけたものが多用される。」


近世以後、能装束、小袖の地模様、各手工芸品、建築装飾によく使用されたが、規則正しすぎて単調になるきらいがあるので、他の吉祥文様の地にも用いられることも多い。(西上ハルオ p188)


鹿の子文様の青海波に四季の花
引用(西上ハルオp189図)

古くは埴輪の衣服にも刻まれていて、日本では最もポピュラーな伝統文様であり、変化形も多い。
日本という島を取り巻く、海がもたらす幸福への祈り、海の向こうから吉祥が運ばれてくるようにとの期待がこめられて、大いに発展したと解釈できる。(西上ハルオ p189)


e国宝で見られる女性埴輪の意匠の文様
「 上着・裳には線刻で、それぞれ鱗状と縦縞状文が施される。」


青海波に波頭


菱青海波


(西上ハルオp191所収の青海波のバリエーションの図)

鱗文様(スケール)


古代オリエントの聖なる松かさ文様(パイン・コーン)

オリエント社会にこの文様の占める位置は大きく王宮のタイルにも描かれている。
西欧人は鱗(スケール)文様と理解している。
日本の青海波のように波頭が立ったりすることは一切ないので、鱗状という表現がふさわしい。(西上p192)

半円の繰り返しがリズミカルに空間を占める点は同じであるが、抽象的植物文様であるアラベスクを活かすことに重点が置かれている。


白釉多彩花卉文皿  トルコ イズニーク 16世紀後半

16世紀半ば


ペルシア陶器(スヌヴァル男爵コレクション)

me上記のコレクションについて、en.wikipedia./Iznik_potteryを検索したが、 不明

Plate, Iznik, Turkey, c. 1575 AD, stonepaste painted under glaze - Freer Gallery of Art - DSC05417
Plate, Iznik, Turkey, c. 1575 AD, stonepaste painted under glaze - Freer Gallery of Art -(wikipedia)アメリカ合衆国首都ワシントンD.C.スミソニアン博物館群


Dish with a spray of two saz leaves and scale pattern, Turkey, Iznik, 17th century AD, composite body, underglaze-painted - Huntington Museum of Art - DSC05018
Dish with a spray of two saz leaves and scale pattern, Turkey, Iznik,
17th century AD, composite body, underglaze-painted - Huntington Museum of Art(wikipedia)米国ウェストバージニア州



Iran, isfahan, forse qumisha, piatto con gallo, 1580-1630 ca.
Ceramics of the Islamic art collection in the Louvre


ゲッティイメージズGetty Images fish scale pattern 

日本とオリエントの中間地、中国では、鱗状文は、西周(BC11?~8世紀)に現われるというから非常に速い。(西上p192)

徐々に鱗状文から波状文に変化し、唐、元、明と多くの文様を日本に輸出する。中には日本の青海波とそっくりの形があり、波間から蓮華が咲いているものもある。

me参照中の『世界文様事典』(西川)のこの項には中国の文様の図がないので、視覚デザイン研究所の『日本・中国の文様事典』(早川優子)の方を見ると、中国の方では、2つ挙げられていた。 清の鳳凰で、「体は羽毛が青海波のようにきちんと並べられ、長い尾が優雅に翻る」景徳鎮の壺

Moon flask with paired phoenixes, China, Jingdezhen kiln, Qing dynasty, Qianlong period, 1736-1795 AD, underglaze blue and overglaze pink enamel - Matsuoka Museum of Art - Tokyo, Japan - DSC07358
青花双鳳文 松岡美術館(p230図)
Moon flask with paired phoenixes, China, Jingdezhen kiln,
Qing dynasty, Qianlong period, 1736-1795 AD,
underglaze blue and overglaze pink enamel - Matsuoka Museum of Art

meもう一つはやはり景徳鎮の「地文に青海波・四方襷・七宝繋ぎなどの幾何学文様が使われている、明の皿。「五彩桃果宿禽文皿」東京国立博物館 (画像検索)


Fuliang, Jingdezhen, Jiangxi, China - panoramio
景徳鎮Fuliang, Jingdezhen, Jiangxi, China - panoramio

me『中国の文様』(小学館)からの鱗文様を見ておこう。。魚(双魚)そして皇帝のドラゴンの鱗。

me『世界文様事典』(西上)に話を戻すと、中国の青海波(鱗文)についての記述の後は、西欧についてであったが、
それは以下へ・・

一方、西欧では、古くはギリシア文化の中に現われて発展するが、オリエントと同じ鱗(スケール)状の文様である。(西上p192)
下のガチョウの胸の鱗状羽毛などが古い遺物


ガチョウ型香油入れ 陶製 エトルリア BC4世紀
図p193)

レキトス(注入壺)ギリシア
※Ancient Greek lekythoi「レキュトス」Lekythos
me幾何学文様のものは見たことがないので、少し検索したい・・
Handbook of ornament; a grammar of art, industrial and architectural designing in all its branches, for practical as well as theoretical use (1900) (14784109542)
こちらの図13がこれであった

また、魚が初期キリスト教においてイエス・キリストのシンボルだったこともあり、鱗状装飾は教会の中に現われる。


「聖霊と四天使」の一 ルカ・デルラ・ロッピア(wikipedia)作
ポルトガル枢機卿礼拝堂天井
イタリア、フィレンツェ 15世紀
Cappella del cardinale di portogallo 07 tondi di luca della robbia e affreschi di alesso baldovinetti 02
フィレンツェのサン・ミニアート教会ポルトガル枢機卿礼拝堂の、琺瑯細工したテラコッタの天井(1466年)

「鱗(スケール)文様は波のような反復文様でもあるが、少しづつ重複する文様の連続系であって、重なり合う、重ねることの尊さを主張している」(西上p193)

ロマネスクからルネッサンスにけては、建築装飾や工芸品に優れた例が現れる。東方貿易によってペルシア文様が入ってきてからは、ペルシア風鱗文様も取り入れられた。


ステンドグラスの中の双魚宮
シャルトル大聖堂13世紀

Chartres-030-d Médaillon 1

19世紀、ジャポニズムの流行の際に、日本の青海波文様も多く海を渡ることになる。

me『世界文様事典』の記述はここまでだが、もう少し画像検索をしてみる・・・。
シャルトルのステンドグラスに見る、鱗文あるいは波文は・・

Chartres - Vie de Charlemagne
Chartres - Vie de Charlemagne
Chartres - Vitrail de la Vie de saint Thomas -2

me『世界文様事典』(西上ハルオ著 創元社1994)では、別項に(p262‐265) (聖なる三角形)がある→続ける。 

また、別文献『世界の文様歴史文化図鑑青銅器時代から現代までの3000年』(ダイアナ・ニューオール/クリスティナ・アンウィン著  蔵持 不三也 (監修), 松平 俊久 (翻訳) 柊風舎2012)から「鱗」を検索→鱗文その2として続ける・・・ 


おまけ photo byM 20190603シャルトルの入り口にて撮影

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