Aussenrelief (Barock) "Lazarus" St. Marien Laer Holthausen
"Remember the Poor and the Leper"メインの入り口の隣にある
ラザロを描いた「バロック様式」のレリーフ
ラザロとは
『新約聖書』の「ルカ伝福音書」(16章19~31節)および「ヨハネ伝福音書」(11章1~46節)に登場する人物の名。
前者のラザロは、イエスのたとえ話に出てくる人物で、全身できもので覆われた貧乏人である。たとえでは、来(きた)るべき世の救いに関連し、ラザロとある金持ちとが対照的に語られる。
後者のラザロは、ベタニアのマルタとマリア姉妹の兄弟であり、病死したのちイエスによって甦(よみがえ)らされた。
[定形日佐雄](『ニッポニカ』)
『西洋シンボル事典』によれば、このラザロは、「金持ちに過酷な扱いを受けた癩病の貧しい男」で、「後に病人、特に癩病人の守護聖人となった」とある。
十字軍遠征を通じて癩病が広がり、13世紀にいたるまで盛んに病院が設立されたが、それらが彼の名に因んで「ラザレッテ」と命名されたのはこの為である。『西洋シンボル事典―キリスト教美術の記号とイメージ―』(ゲルト・ハインツ・モーア著 野村太郎ほか訳 2003八坂書房)
初めの図のラザロは、オータンのサン・ラザール聖堂の「聖人のラザロ」とは別で、「貧乏人の喩えのラザロ」の方だが、その人というより、まさに癩病の守護聖人という感じの像であった。
モワサックのポーチの図像をもう一度見ると、
ラザロは死んで、天使に連れ去られるが、金持ちは死んで悪魔に運び去られる、というたとえ話とのことであるが、
・・・犬は貧乏人のラザロを嘗めている。
その意味はすでに、貧しさや病への慰めを意味していたのだろうか?
ラザロという貧乏人が全身でき物でおおわれて、この金持の玄関の前にすわり、
その食卓から落ちるもので飢えをしのごうと望んでいた。その上、犬がきて彼のでき物をなめていた。」
(聖書本文※)
この表現では、犬はラザロを慰めているわけではなさそうだ。
『動物シンボル事典』によれば、
「犬は大いなる宇宙の揺籃に死者をつれていく:」存在で、医神アスクレピオスの忠実な従者であり、
死が近いことや亡霊の姿を見ることができる存在であった。
それが「中世になると、やや明るい方向に向いてきて、家畜化が完成し、忠実さのシンボルとして側に侍るようになる。」
「犬に食われろ」という言葉がある。犬は肉食動物である。
『イメージ・シンボル事典』では、後述のペストの守護聖人ロクスの付き従う犬から見て、
「犬がラザロの傷を嘗めたこともその傷を治そうとしたからだと考えられる」とする。「おそらく治癒と関係がある」と。
しかし、まとめとしては、「2、3の例外を除いて聖書においてイヌは常に忌み嫌われる存在である」とある。
上の図は、17世紀のものというが、このラザロは病者の守護聖人というより、金持ちに比べられる貧者のラザロの図に先祖返りしているというか、犬が2匹もいて、ラザロは、傷を嘗めてもらっているというより、傷口を、腐肉を、食べられているような感じがしないでもない。
(^-^;
下は、古代エジプトの犬頭の神。
古代エジプト人のミイラづくりの葬儀神。
犬頭のアヌビス神。
死体を求めてネクロポリスで夜をさまよう(掘り返して食べる?)「犬の行動に触発された」神。 →犬のイメージ
テル・ブルッヘン 1624年 ユトレヒト中央美術館
Hendrick Jansz ter Brugghenまたは Terbrugghen(1588- 1629)
高さ167,70 mm; 幅 207,50 mm
同じ世紀でもイメージは全然違うわけだが、犬は痩せている・・
The Bernward Column (German: Bernwardssäule)
also known as the Christ Column (German: Christussäule)
『キリスト教美術図典』(柳宗玄・中森義宗 吉川弘文館1990)
図196 ベルンヴァルトの聖堂円柱浮彫、11世紀、ヒルデスハイムの大聖堂
キリストの物語をレリーフにした青銅製のコラム。1020年頃。
Hildesheim Cathedral (en.wikipedia)
(German: Hildesheimer Dom),
スタイル ロマネスク様式(オリジナル)
ゴシック様式(側面のチャペルと北の楽園)
バロック様式(交差塔)
この浮彫図像にも、装飾写本にも,ラザロと金持ちの寓意は描かれていて、犬もいる。上の犬は巨大で、下の犬は小さいが2頭。
Codex Aureus Epternacensis (Golden Gospels),
Illuminated Manuscript;
Parable of the Rich Man and the Beggar Lazarus, Folio 78 recto
Date circa 1035-1040
Dimensions Height: 30.9 cm; Width: 22.4 cm
Capital in cloister of the Abbey of Cadouin:
Parable of the rich man and Lazarus (Luke 16:9-31).
これはどうだろうか。ラザロは右側に着衣で、足もとに犬がいるようだ‥
それにしてもユニークな円柱だ‥下のも、初めて見た。
Cadouin Abbeyカドゥアン修道院(12世紀シトー会修道院) とは・・廃寺の雰囲気があるが・・
Sculpture du cloître de l'abbaye de Cadouin.
The parable of Lazarus and the story of Job.
circa 1520 Medium
tempera and oil on wood
Height: 114.5 cm ; Width: 150 cm
National Museum in Wrocław
上では、犬は傷を嘗めているというより、従者のようにみえる。
Saint Lazarus. Colour lithograph. Iconographic Collections
https://wellcome.ac.uk/
まさに頭に光輪を持つラザロ(いつのものか不明だが)。犬も小型でかわいい。→犬のシンボル(グレイハウンド)
最後に犬を伴うペストの聖人の話を。ここに犬が嘗めることを「治癒」という言葉で書かれていたのだが・・
聖ロクスSt.Rochusは犬を伴った姿で表彰される。この犬は主人がペストにかかり、進んで流浪の身となったときにも、忠実に彼に付き従って、主人の傷をなめている姿で示される。
このことから犬たちがラザロLazarusの傷をなめたことも、その傷を治そうとしたからだと考えることができる。おそらく治癒と関係がある。
ローマのユノの寺院にある自分の傷口を嘗めている実物大の犬を参照(プリニウス34,17)(『イメージシンボル事典』p176)
ペストかなんじゃを治癒し、みずからも天使に救われる。
全財産を貧者に分け与え、当時大流行していたペスト患者を助けながら、ローマへの巡礼の旅に出る。
帰途みずからもペストにかかってしまう。
森に身を潜めて死を覚悟したが、毎日パンをくわえて犬が彼のもとに通い、更に天使が現れて彼を治癒した。
下界、農民、障がい者などの守護聖人。
8月16日(亡くなった日)が記念日
(『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』p151)
古典的なイメージでは、St.Rochは原則として、
彼の左脚のペスト潰瘍を示しています。
また、多くの場合、口にパンを入れた犬で描かれる。
別の特徴的な図像属性は巡礼者の杖
聖ロクスの代表的な持物は、太ももに残るペストの傷跡・杖、貝殻、パンをくわえた犬。
Dog of Saint Roch of Montpellier
at the side altar of the parish church Maria Anzbach,
マリアアンツバッハ教区教会の像(下オーストリア)
聖人の属性の1つは、彼にパンを与える犬です。
犬は、やっぱり一番に食べることに関係がある、ということか。
Arles rue du Quatre-Septembre (9月4日通り)
以上、足もとに犬がいる人物を見てきた。
→犬の象徴
→善悪の象徴
↓金持ちと貧乏人ラザロの例え話
モワサック(1)サン・ピエール修道院 エクステリア
モワサック(2)インテリア
モワサック(3)柱頭・獣頭人身
モワサックと聖人
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