『動物シンボル事典』での犬関係の項目は、
いぬ(犬、chien,dog)、グレーハウンド、ケルベロスの3つ。
以下この事典を中心に見てみます。
ルーウィンソンLewinsohn(『動物史』Les animaux1953)によれば、ローマ人は犬の野性をできるだけ保存していた。
狩りとか戦争に使うのにその方が好都合だから。
牧羊犬は昔は羊の群れを襲う猛獣を攻撃するように訓練されていた。
神話においては、犬は長い間、この攻撃的な性格を持ち続けている。神話に登場する犬でもっとも有名なのはケルベロス。
残忍な性格を持つ冥界の守り手という役割は、犬がジャッカルと同じように死人の肉を喰らうというところからきている。
ペルシアでは犬を禿鷹代わりに用いて死人の掃除をさせる。
「犬は大いなる宇宙の揺籃に死者をつれていく」存在で、医神アスクレピオスの忠実な従者であり、
死が近いことや亡霊の姿を見ることができる存在であった。
それが「中世になると、やや明るい方向に向いてきて、家畜化が完成し、忠実さのシンボルとして側に侍るようになる。」
『動物シンボル事典』p23の図
古代ギリシア・ローマ時代のもっともポピュラーな犬。家の番犬であり、地獄の入り口の守り手であった。
古代エジプト人のミイラづくりの葬儀神。
犬頭のアヌビス神。
死体を求めてネクロポリスで夜をさまよう(掘り返して食べる?)「犬の行動に触発された」神。(wikipedia)
アヌービスは香料による死体処理の発明者とされる。犬(ジャッカルではなく)の頭をもち、砂漠を徘徊し、たいていは黒く描かれている。(『動物シンボル事典』p24)
犬の頭をした人間(キュノスケファロス)は、エジプトの動物崇拝に由来する。12世紀のヴェズレーの聖堂の扉口など(『西洋シンボル事典 ―キリスト教美術の記号とイメージ― 』 p31)
※ヴェズレーのタンパン
犬頭人Cynocephal
→
2019k/june_vezlay.html
Saint Christopher (depicted with the head of a dog)
17th century
Medium painting Height: 67 cm ; Width: 35 cm
Collection Byzantine & Christian Museum(アテネ)
Kemira, Cappadocia St Christopher depicted with the head of a dog. From the 5th century on, it was widely believed in Byzantium that the saint was one of the mythic dog-heads, a barbarian race without the gift of human speech.(ebyzantinemuseum.gr/)
カッパドキアのカーミラ
Icon of Saint Christopher (249-251)
Medium painting
Collection Church of St. George Cegelkoy.
William Blake (1757–1827) https://www.ngv.vic.gov.au/
ケルベロス(ギリシア神話)
確認されていない一説によれば、語源を「クレオボロス」(肉を食い尽くす)
冥界の犬は
恐怖の三つ頭 怒れる捕食性の犬
口の中にはなんでも食いちぎってしまう鋭い黒い牙が生えている。
冥界から逃げ出そうとする亡者は捕らえて貪り食う。
ダンテの『神曲』「地獄篇」では、貪食者の地獄において罪人を引き裂く姿が描かれた。(wikipedia20190906閲覧)
ヘレニズム期エジプトの主要神の一つ
セラピス玉座のセラピス(19世紀)とエルミタージュ美術館のセラピスの像
Helena Petrovna Blavatsky's Theosophical Glossary→?
神智学(オカルト)sirius-eng.net/serapis_bey
Macrobius『サトゥルナリア』 Saturnalia
(古代ローマの)サトゥルヌスの祭り,農神祭 《12 月半ばすぎの収穫祭で,大祝宴が催された》.
セラピスは元来地獄の神、エジプトはその彫像に三つの頭を持つ怪物を添わせるようになった。
三つの頭のうち一番大きいのは真ん中のライオン、その右に愛想の良い顔つきの犬、左側に残忍な狼の頭がくびにつながっている。巻いたヘビの胴がこれらの動物を一つにつなぎ合わせている。時間を表す表象である。三つの頭のうちライオンは現在を表している。犬は、未来の約束を意味している。。
Serapis, from Athanasius Kircher, Oedipus Aegyptiacus, 1652
蛇に巻かれた3頭・・奇怪なイメージ。さらに「クロコダイル」に乗るセラピスという。(17世紀)
『三世代の寓意』 1565年 - 1570年頃
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
蔵
ティツィアーノの画である→詳しくはこちらに
→ティツアーノ、トリプルフェィスへ
✳こんなページも発見したが、eoht.info/Serapis
ここでは、犬の象徴を続ける・・
Tesem, the dog of the Pharao
アンテフ2世の墓からの犬の石碑の図。紀元前2065年頃
the Ancient Egyptian name for "hunting dog".
グレイハウンドの原形とされる。(英:Ancient Greyhound)
動物誌の中で、グレーハウンドGreyhoundは特殊な犬。
ラブレーが『パンタブリュエル物語』(第五之書第42章)で示すように、錬金術師の月神の足元に姿を見せる。
中世では、グレーハウンドは、夫婦の貞節のシンボルとなった。
犬の中で紋章図形にもっとも多く描かれている。
尾の先を円く曲げ、色変わりの下をもち、首飾り(つまり首輪)をつけ疾走の姿で表される。牝が首輪をつけた形であらわされることはない。(Th.ヴェラン=フォレール)
グレイハウンド(クロイスター所蔵連作タピストリー『一角獣狩り』)
ガブリエルの猟犬
霊魂を探し求めて
最後の審判の日まで天空をさまよい続ける幻の猟犬で、洗礼を受ける間もなく死んだ子供や免罪されぬ人の魂という。赤い耳をした白い犬。(『イメ―ジ・シンボル事典』ガブリエルの項p271)
Van Eyck - Arnolfini Portrait
※『 モチーフで読む美術史 』(ちくま文庫)
2013/7/10
宮下規久朗 (著)
Venus of Urbino 1538
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(伊: Tiziano Vecellio、1488年頃 - 1576年8月27日)
Dimensions Height: 119 cm
; Width: 165 cm
Collection
Uffizi Galler
『イメージ・シンボル事典』の犬の項であるが、
≪一般≫ ≪好ましい特性≫、≪好ましくない特性≫、≪民間伝承≫、その他で分けられて、約4頁で、詳細・膨大である。
※中で、≪好ましくない特性≫8.「憤怒(Fury)」のイコン、擬人像の持物とあるのは確認できなかった。チェーザレ・リーパの「イコノロギア」にでは犬をともなっていない。
その文の後、
「エウリピデスは神々の復讐を受け、イヌにずたずたに噛み裂かれた」と続くのも、どういうことかわからない。(p179) 神々が出てくる以上、エウリピデスというのは、ギリシアの悲劇作家エウリピデスではないだろうが・・??
ここは不備な箇所?
以上『動物シンボル事典』と『イメージシンボル事典』の 項ほかを見た。
「愛想のいい顔をした犬」が未来のイメージであるというあるという件、パノフスキーの下記の書も読む必要がありそうだ…
『ティツィアーノの諸問題 純粋絵画とイコノロジーへの眺望』
エルヴィン・パノフスキー、織田春樹訳(言叢社2005
)
『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』の参考文献にパノフスキーは出てこないのだが、ケネス・クラーク『絵画のみかた』(✳)やH.W.ジャンソンの『西洋美術の歴史』(✳)が挙げられていた。気分として、”ルネサンス時代には到達できない”のだが、パノフスキーに比べると安価で、気楽なお付き合いが可能そうな文献です。(20190908)
※
ケネス・マッケンジー・クラーク(Kenneth McKenzie Clark、1903-1983)
bijyutusika_en.html(イギリスの美術史家)、
ophites.html(拝蛇教)、tikuma.html(ちくま学芸文庫所収)
※西洋美術の歴史
bijyutusi_ikegami2.html(池上英洋著)
ここまでの引用参照は『動物シンボル事典』(引用灰色)と『イメージシンボル事典』ほか(引用黄色)であるが、最後に『西洋シンボル事典―キリスト教美術の記号とイメージ―』の、犬の項のある、「犬を欠いては、世界中の神話はどれ一つとして成り立たないに等しい」というセリフを以て、一応終える。
「犬を死や冥府、下界の神々や月の神性と結びつけているのは非常に複雑な象徴体系である。何よりもまず、犬は導師(プシュヒョポンポス)すなわち死の夜の中で魂を導くもの」