中国の民族衣装と文様
中国のテレビドラマと衣裳
「中国時代劇 ドラマガイド 2021」
– 2021/4/23 (キネマ旬報ムック)
書店で、韓国ドラマやBTS ムックのあたりに、中国ドラマ(韓流に対し「華流」)の関連の本(ムック)が増えていた。
以前はあまり見かけない感じだったが、今は、韓国、中国は半々という感じ。
ここで、中国の民族衣装について、見ておきたい。
上記のムックにも、「華麗なる衣装」というテーマの特集8ページがあった。
「華麗なる衣裳の世界 唐・明・清 etc.各時代の装束の特徴をドラマとともに解説」という。
歴史を彩る豊かな服飾文化
中国時代劇:華麗なる衣装の世界
中国では王朝の交代に伴って服装に漢民族の伝統が強調されていた時代と周辺民族の影響が強い時期があり、変化に富んだファッションが楽しめる。(p26)
「衣装」と書いたが、実は表記は、「衣裳」であった。
「裳」は常用外漢字。中国ドラマでは、当然ながら、見慣れない漢字が日本語字幕でも頻発する。
そして「字を飾る」という言葉がある。
欧羅巴のような柱頭装飾ではなく、字を書いた柱が目立つ。また、結婚式に喜の字を二つ並べた双喜文Double Happinessを壁に貼ったりしているのも目に付く。
中国文化の象徴的な、特異な文字の文様・・・。
そして、 中国において文様は全て吉祥の意味を示すものだと吉田光邦氏は書いている。(「装飾の博物誌」[桃] 2001)
ウクライナの文様でみた、魔除けとは主たる意味をことにするようだ・・
以下、中国の民族衣装について、詳読を続けたい。まずは、
キネマ旬報ムック「中国時代劇ドラマガイド 2021」より引用。
(20220520)
秩序と礼のシンボルとして身分によって服装の色、デザイン、材質などが厳密に区別されていたため、服装を見るだけで、職種や地位がわかる。(p26)
皇帝や官吏たちは朝儀の場と他の公務中では服の種類を替えなければならず、TPOにも非常にうるさかった。
最近は考証がしっかりしたドラマが増え、こうしたオタクな見方が楽しめるようになった。
ドラマの鮮やかな衣装は、民族衣装がないと嘆く漢民族の人たちの「漢服ブーム」に火を点けた。
陰陽五行説や気候の変動が
中国の装束に大きな影響
伝統的な服飾を知る上で色は外せないポイント
中国には、全ての物は陰陽の二気と木、火、土、金、水の五行(徳)からなり、循環するという考え(陰陽五行説)がある。
五行には青、赤、黄、白、黒の色が対応しており、各王朝は前の王朝を引き継ぐあるいは打ち負かす意味を込めてシンボルカラーを決め、旗や服飾に使った。
隋は火=赤、唐は土=黄
唐代以降特定の黄系の色は皇帝専用になり、他の者が使用すると処罰された。
赤い服は婚礼衣装、白は喪服だが、実は時代によって変遷がある
(「明蘭~才媛の春~」:当時の習俗にならいリアリティを追及している)
唐代:温暖で大胆に肌を見せる服装が流行ったが、
北宋の頃は寒冷化で羽織物が離せなくなった。
南北朝
漢民族と騎馬民族の文化が融合して
独特な服装や髪形を生み出した
漢民族と周辺民族の服装が互いに影響しあう。
椅子の普及など生活省四季の変化が服装にも影響。
実用性重視の一方、ど派手な髪型もトレンドに。(p28)
「王女未央-BIOU-」(2016)
锦绣未央
The Princess Weiyoung
wikipedia(中文)
当時流行の襟元を抜く着付けを大胆にアレンジした上着が目につく。
ドレッドヘアは奇抜に見えるが、当時の墓からは同様の髪型をした兵士像が出土している。
「蘭陵王」(2013)
蘭陵王
Prince of Lan Ling
wikipedia(中文)
美しすぎるあまり仮面をつけて戦ったという
伝説がある。
「披膊(ひはく)」という肩当を付けている。
皇太子の衣裳や皇后の髪型など出土品をもとにしたアイデア多数。
唐
シルクロード交易による豊かさを背景に
開放的で華やかな服装やメイクが発展
胡服がモードの中心に。女性の男装も流行った。
男性は頭巾・女性はショール+ボレロ+ロングスカート。
ふくよかなボディが人気、大胆なデコルテの露出も。
コトバンクより
あこふく【胡服 hú fú】
胡人の着る服の意。 胡人とは,中国の戦国時代に北方辺境で活躍していた匈奴や鮮卑などの遊牧騎馬民族を指し,彼らの着用した筒袖,左衽(さじん)(左前)の上衣にズボンという二部式の衣服を胡服と称した。 胡服は騎兵戦に適した服装であった。
「武則天」(2014)
武則天
-The Empress-
wikipedia(中文)
中国史上ただ一人の女帝を描くにふさわしい豪華絢爛な衣裳。
胸元を開けた袒露装(たんろそう)の再現はセクシーすぎて修正の憂き目に。
花簪を使った発想は秀逸。額の模様が花鈿(かでん)
「長安二十四時」(2019)
長安十二時辰
The Longest Day In Chang'an
wikipedia(中文)
徹底的な時代考証で臨場感を高めている。
「麗王別姫~花散る永遠の愛~」(2017)
《大唐榮耀》(The Glory of Tang Dynasty)
wikipedia(中文)
安史の乱を背景に才女の数奇な運命を描く本作の衣裳はなんと4000着。 はなやかだが落ち着いた衣裳スタイリングで魅せる。
ヒロインの男装や金銀の櫛、髪に花を挿す簪花(しんか)など史実をうまくアレンジしている。
北宋
「明蘭~才媛の春~」(2018)
知否?知否?應是綠肥紅瘦
The Story of Ming Lan
wikipedia(中文)
北宋の貴族・文人文化を見ることができる。衣装や風俗習慣の丁寧な考証が光る。現代中国では赤が慶事の色のため時代に関わらず赤を使うドラマが多いが、宋代の「紅男緑女」という習俗に従い婚礼衣装は緑。
また寒冷化の影響もあってか男女とも対襟(ついきん)にスリットの入った打ち掛けのような上着(褙子 はいし)が重宝された。
#知否知否应是绿肥红瘦#明蘭 ~才媛の春~ 73集 2周目完走
— ♡.🐰ラテ🦁♡. (@xzwyb_05) September 22, 2021
やっぱり素晴らしい作品ー(TT)💕
きっと何度見ても楽しめる(*≧∀≦*)
明蘭可愛い😍守りたい人の為に
強くなっていく姿はほんと格好良い💙
廷燁様の明蘭愛がほんと良いー🙌💕
【一家団欒 】😌💙
穏やかに過ごせる事に感謝🙏💙 pic.twitter.com/jnLAAX27vt
緑の婚礼衣装着用のポスター
緑色の結婚衣装のシーン
宋代は纏足(てんそく)が広まるなど保守的な時代ではあったが、科挙が重んじられるなど文治が重視され、家庭を支える女性も教養を身につけることが奨励された時代でもあった。
明
縁起のいいものを表わす吉祥文様も発展
漢服はこの時代に完成形となる
漢服の細粒形態。官服は伝統劇の衣装のモデルとなった。
大衆文化が栄え、服装も華美に。
プリーツスカートが流行し立ち襟が出現
「大明皇妃」(2019)
大明皇妃孫若微傳
-Empress of the Ming-(別名:大明風華)
wikipedia(中文)
第5代皇帝の皇后として、5人の皇帝に関わった孫若微(そうじゃくび)を描いた宮廷絵巻。ウィリアム・チョンによる衣裳はそれ自体が芸術品。
鳳冠の再現。
こっちは明・孝端皇后の鳳冠(複製品)だけど、青と緑と両方が見えるよね。カワセミの羽は部位によって色も異なるので、必ずしも一定した色系統ではないらしい。 pic.twitter.com/38PCSlAFET
— シャチョウ (@nextlevel094) October 4, 2020
鳳冠、であるが、ここで、中国における冠について補足。
「弱冠」という言葉があるように、男子は成人すると冠をかぶることが『礼記』に記されている。
基本的に、古代中国の人びとは、まず髪を切る習慣がなかった。 「身体髪膚(はっぷ)これ父母に受く。あえて毀傷(きしょう)せざるは孝の始めなり」(『孝経』)といわれ、頭髪も身体も両親からいただいたもので、傷つけるのは親不孝という考え方からである。よって長く伸ばして髷(まげ)にして結い、被り物をしてまとめていたのである。https://www.rekishijin.com/1063
中国では髪を切らず、髷を結い、そこに冠をかぶる習慣があった。前漢には儒教が国教となると冠をかぶることが規定され、以来漢民族の習俗となった。元や清などの非漢民族では冠の習慣はなく、ことに清は辮髪の習慣を漢民族に強制し、大きな抵抗を招いた。 (wikipedia)
「花様衛士~ロイヤル・ミッション~」(2019)
锦衣之下
Under the Power
wikipedia(中文)
獬豸は角が一本あり、中国のユニコーンという。
御史、按察使の礼服に見られる文様とあるが、
錦衣衛(明朝)の衣装でみられる?(中国ドラマ『花様衛士』(2019原作小説「錦衣之下」)のクリップ動画) https://youtube.com/clip
いや、”飛魚”服とか言い、確認できなかったが、獬豸は「不正な者を懲らしめる事から裁判と関係づけられ、後世にはその姿が裁判官の服に描かれた」(https://shimma.info/ 神魔精妖名辞典)より)というので、どうだろう。
また司法官がかぶったとんがり帽子を獬豸冠というと。
和漢三才圖會(1712)
卷第三十八 獸類 獬豸(かい
ち)
https://dl.ndl.go.jp/(国立国会図書館)にデータあり
https://onibi.cocolog-nifty.com/
「#花様衛士 ~ロイヤル・ミッション~」で #アレン・レン が演じる #陸繹 は #錦衣衛 という明代の皇帝直属の秘密エージェント。錦衣衛は #飛魚服 と呼ばれる制服もカッコいいので、映画やドラマに登場することが多いキャラです。本作でも飛魚服を着たアレンの雄姿は見逃せません! pic.twitter.com/w8XAXMI0cy
— 華ざかり!華流パラダイス (@NBChua) March 16, 2021
皇帝直属の特務機関・錦衣衛(きんいえい)指揮使の活躍と恋を描いた本作にはさまざまな階層の服を登場する。
錦衣衛は儀仗隊を前身とするだけにはなやか。
神獣をあしらった飛魚服という礼服は功労者に下賜され、実際は特別な場でのみ用された。
清
満州族の服装や髪形がベース
末期にはチャイナドレスが原型が生まれる
満州族の服装をベースにした独自の服飾文化。
男性は辮髪、女性は明代の遺風を残す。
清末には満服・漢服が融合、チャイナドレスの原型に。(p32)
漢民族の男性が満州族の辮髪(べんぱつ)を強要される一方で女性の服装には明代の影響が残った。
如何にも慎重らしい金属のボタン、指甲套(しこうとう 爪カバー)は明代からすでにあったもの。
身分によって服装が異なるのは過去同様。宮廷では季節や場面によって素材や色、ジュエリー、帽子のコーディネートまで事細かに決められていた。
一般男性の服装は、長袍(チャンパオ)、褲(クー ズボン)、馬掛(マーグワ 短い上着)で、礼服には馬蹄袖(ばていそで)という折り返せる袖がいた。
満州旗人(貴族)の女性は、纏足禁止だったが、花盆底鞋(かぼんていけい)という高靴をはいた。
髪型は左右に髷を結う両把頭(りょうばとう)から大拉翅(だいろうし)と呼ばれる布張りの大きな髪飾りを載せるスタイルに変化。
「瓔珞〜紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃〜」(2018)
延禧攻略
Story of Yanxi
Palace
wikipedia(中文)
舞台が宮中、しかも刺繍工房とあって、衣装や装飾品の制作は工芸技術の復元から始められ、一見の価値がある。
衣裳に使われた、落ち着いた感じの伝統色や、当時の化粧法の再現も興味深い。
「月に咲く花の如く」(2017)
那年花開月正圓
Nothing Gold Can Stay
wikipedia(中文)
清朝末期に実在した女性の豪商の一代記だけに、時代の移り変わりを反映した豪勢なファッションが魅力。
琵琶襟やズボン。前髪を残す髪型は中華民国時代にかけて人気となった。
ファンタジー
古代や異民族の文化を取り入れた
ドラマ独自の世界観が楽しめる
年代不詳の時代劇は、どう古風に見せるかが腕の見せ所。
ファンタジーを見れば、
中国ではどういう要素を幻想的と思うかが垣間見える。
本場の仙侠もの(※)は、着物風の襟、広くて長い袖、ゆったりした袍などの伝統的な服装に、現代では見られなくなった床に座る生活様式をプラスした、南北朝以前の風俗を取り入れるのがお約束。
ここの仙侠ものという言葉に違和感があった。
仙境譚から、仙境ものかと。しかしwikipediaなど見ても、この字が定着しているようだ・・
古代では身分の高い成人男性は髪をまとめて冠を被り、庶民は布で包むのが一般的で、ファンタジーによく見られる長髪スタイルは私的な空間か世捨て人、周辺民族などに限られた。
もう一つの手は物語の舞台を西域や草原に設定すること。この場合、毛皮の小物や髪のビーズ飾り、額に垂らすアクセサリーやヘッドバンドなど、エキゾチックな要素をアイコニックに取り入れることができる。
「永遠の桃花~三生三世~」(2018)
三生三世十里桃花
Eternal Love
wikipedia(中文)
万年単位の時間と天界・人間界を行き来するスケールの大きさ。主演のヤン・ミーとアーク・チャオの美しさだけでも十分ファンタスティックだが、エピソードの舞台に合わせた衣装の変化も楽しみたい。
このドラマは私が初めて見た中国のファンタジー時代劇で、非常に惹かれました。さすがの中国の文学伝統の奥行の深さ。シリーズ3作すべて見ました。
出てきたのは、胡蝶の夢でしたね。
「東宮~永遠の記憶に眠る愛~」(2019)
东宫
Good Bye, My Princess
wikipedia(中文)
架空の世界にもかかわらず、吐蕃(とばん チベット)や唐など実在の地域の建物や服装を参照し、リアルにしてエキゾチックな世界観を作り上げている。
”4000年の歴史を彩る「服装」の変遷”
続いて、『中国時代劇がさらに楽しくなる!皇帝と皇后から見る中国の歴史』辰巳出版 2021刊 菊池昌彦.関眞興著の)
【内容】(Amazonの紹介)
2012年に放送された『宮廷女官 若曦(ジャクギ)』以降、中国時代劇は日本でも多くのファンを獲得し続けています。今の中国時代劇は、韓流時代劇の影響を強く受けており、華やかな王宮絵巻、そして皇帝と皇后の恋愛を絡めた作りのものが少なくありません。
【構成】
■第1章 これは必見! 中国時代劇10選
「ミーユエ 王朝を照らす月」「コウラン伝~始皇帝の母」「三国志Secret Of Three Kingdoms」「武則天-The Empress-」「如懿伝 〜紫禁城に散る宿命の王妃〜」ほか
■第2章 サクッとわかる中国4000年の王朝史
三代(夏・殷・西周)〜清
■第3章 中国歴代王朝 皇帝・皇后たちの真実
【殷】紂王と妲己/【後漢】光武帝 (劉秀)と光烈皇后/【唐】玄宗(李隆基)と楊貴妃/【元】世祖(フビライ・ハーン)とチャブイ/【清】康煕帝(ヒョワンイェイ)と孝誠仁皇后ほか
■第4章 図解で解き明かす中国歴代王朝の文化
服装/食事/文化/社会制度・身分制度
第4章 ”4000年の歴史を彩る「服装」の変遷” (p184~193)
ファッションを巡っても「百家争鳴」
漢の代で定まった袍と庶民の服装
南北文化の集合で胡服を取り入れ新たなモードに
瑞祥をあしらった縁起の良いデザイン
満州族の服や髪形を強制されながら定着
以上の5つのタイトルに従って、記述されていた。
時間があれば、後ほどページを改めて、追記します。
下の文献はお高く、図書館にも見当たりません。
(20220525)
中国古代の服飾研究
京都書院1995/5/1
沈 従文 (編集), 王 【ショ】 (編集), 古田 真一 (翻訳), 栗城 延江 (翻訳)
中国服飾史図鑑 –
国書刊行会 2018/12/15
黄 能馥 (原著, 著), 陣 娟娟 (原著, 著), 黄 鋼 (原著, 著)
次の頁では、ドラマを離れ、、、 『世界の民族衣装文化図鑑』 (パトリシア・リーフ・アナワルト著 柊風舎 2017)を参照します。