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『ギリシア陶器』(エリカ・ジーモン)

DIE GRIECHISCHEN VASEN by Erika Simon 1976

中央公論美術出版2021

”西洋美術の源流を知る”

エリカ・ジーモン (著), 芳賀 京子 (翻訳), 藤田 俊子 (翻訳)
全世界にちらばる名だたる古代ギリシア陶器を集成し、182件378点の図版を収めて、ひとつひとつに詳細な解説と分析を付す。刊行以来ギリシア美術鑑賞を志すすべての読者に格好の道案内となり、様々な入門書やカタログの記述に影響を与えてきた「新しい古典」の全訳。(Amazon)

me 旅のまとめで、ヴァチカンの古代ギリシア陶器,ルーブルの古代ギリシア陶器・・と見たが、全体的に見たいと思っていたところ、本書が出ました。(2021年3月25日刊)

一つ一つ見ていこう思うのだが、まず、樹木神話関連で、ローレルの冠を被るアポロンの像を‥

後期アルカイックのアッテイカ赤像式
(前525-前480)

「アンドキデスの画家」

No.85 腹部アンフォラ

Andokides (vase painter)
「アンドキデスの画家」 ■en.wikipedia


Andokides Painter ARV 3 1 Herakles Apollon tripod - wrestlers (01)
Andokides Painter ARV 3 1 Herakles Apollon tripod - wrestlers
Berlin, Antikenmuseen


No.85 A面はデルフォイのアポロンの鼎を奪うヘラクレス
■Berlin F 2159 (Vase)http://www.perseus.tufts.eduFrom Vulci、ca. 525 BC

解説(p244-248)

現存最古の、赤像式の技法で描かれた最初のアンフォラ

(エピクテトスの最初のアイ・カップ(No,93)は、このベルリンのアンフォラより幾分早いかもしれない)

ヴァティカンのエクセキアスのアンフォラ(No.77)と器形(A型)が近いはいえ、印象がまったく異なる。

黒色の光沢土から人物像だけが明るく浮き出ている。
黒い面が増加することで、器体の一体感は一段と増している。

A面:ヘラクレスとアポロンがデルフォイの鼎を争っている。

この神話は後期アルカイックに非常に好まれ、デルフォイの「シレノス人の宝庫」の破風彫刻(前525年頃)にも表されている。

ヘラクレスは神聖な神託の祭具である鼎をアポロン神殿から奪い、両手で横抱きに抱えて大股に立ち去ろうとしている。

Andokides Painter ARV 3 1 Herakles Apollon tripod - wrestlers (08)

ヘラクレス:短い巻き毛、大きく明るい目、たくましい鼻、鬚は赤い
獅子の皮をマントのように被る、獅子の開いた口を副露のように後頭部に垂らす
肩の上に蓋の開いた矢筒

背後にアテナ女神

Andokides Painter ARV 3 1 Herakles Apollon tripod - wrestlers (06)

アポロン:髪は異なる長さに編まれて垂れさがる、瞳は暗色で目は細い、鼻もほっそり、頬髯はやわらかな産毛
月桂冠を被る、短いキトンの上に細いマント、左手に弓

背後にアルテミス女神(と思われる)

Andokides Painter ARV 3 1 Herakles Apollon tripod - wrestlers (10)

アテナ女神:襞をたっぷりとったキトン、豊かな装飾文で飾られた七分丈の外衣(エペンヂュテス)、アイギスは背中側に垂れ、  横から蛇の縁取りだけが覗く、肩には薮にらみで髯の生えた大きなゴルゴネイオンがついている.

アルテミス女神:アポロンと同じく髪を整え、葉冠を被る、豪華な耳飾り、長いキトンとマント

衣の文様やヘラクレスの獅子の毛皮の斑点模様には、もはや刻線は用いられていないものの、黒像式ととのつながりは強く残っている。
人物の髪には、髪の細部を描き込むために部分的に刻線が用いられている。(p246)

女神が両手に持つ2本の長い巻き蔓
植物の生育を司る力を表わす

Andokides Painter ARV 3 1 Herakles Apollon tripod - wrestlers (11)

meこれである!
この形がギリシアの唐草の形の原点にある・・

~~~以下続く~~~
B面割愛。

この陶器の写真キャプション(wikimedia)
object type / vase shape: attic red figure amphora type A with lid -
description
side A: Athena, Herakles and Apollon struggling for the tripod, Artemis -
side B: young coach in fine dress smelling a flower, holding a switch, two wrestlers, piece of cloth hanging, amphora, two wrestlers -
production place: Athens - potter: Andokides (signed on the foot) -
painter: Andokides Painter - period / date: late archaic, ca. 525 BC -
material: pottery (clay) - height (including lid): 66,7 cm - findspot: Vulci -
museum / inventory number: Berlin, Altes Museum (Antikensammlung) F 2159 -
bibliography: John D. Beazley, Attic Red-Figure Vase-Painters, Oxford 1963(2), 3, 1

me次ページへ・・アポロン・月桂冠に続き、このNo.85のアンフォラに関連してあげられていた、No77のギンバイカのあるギリシア陶器(「アンドキデスの画家」の師でもあったという、エクセキアス作)。

ギリシア陶器の研究概略

meエリカ・ジーモンは1927-2019 ドイツの考古古典学者であるが、
少し、ギリシア陶器の研究史を見ておきます・・(wikipediaと、本書の訳者の解題等を参照)

ドイツの先駆的研究

ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマン(Johann Joachim Winckelmann, 1717 - 1768):18世紀ドイツの美術史家
winckelmann.html

フリードリヒ・ヴィルヘルム・エドゥアルド・ゲルハル ト
Eduard Gerhard
(1795– 1867):19世紀ドイツの考古学者
「東方化」、「黒絵式」、「赤絵式」といった今も使われている時代区分は Gerhard が作った。

オットー・ヤーン Otto Jahn (1813– 1869年):ドイツの考古学者・哲学者
1854年、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークのカタログ Vasensammlung を
制作した。これにより古代ギリシアの陶器についての科学的記述法の標準が確立し、形状や銘など詳細な記述をするようになった。

Corpus Vasorum Antiquorum

公にされているコレクションに含まれる陶器の網羅的な記録を作成する努力から Corpus Vasorum Antiquorum が生まれた 。
Corpus Vasorum Antiquorum(「古代の花瓶のコーパス」;略してCVA)は、古代の陶器を記録するための国際的な研究プロジェクト
(61ヶ国参加。ルーブル美術館のあるフランスは顧問。)

様式分類

Giovanni Morelli  (イタリアの美術史家・政治家)の様式分析から漏れた多数の絵付師の名前は、
John Beazley の Attic Red-Figure Vase Painters(1942年)や Attic Black-Figure Vase Painters(1956年)で明らかとなった。

■サー・ジョン・デイヴィッドソン・ビーズリー(John Davidson Beazley, CH, MA, LittD, DLitt, FBA、1885 - 1970)は、イギリスの古典考古学 (classical archaeology)、美術史研究家で、古代ギリシアのアッティカ(アッティケー)系の陶器の壷について、様式による分類を提示したことで知られる。
オックスフォード古典学部 (the Oxford Faculty、 of Classics) のサイトに、ビーズリーアーカイブ (The Beazley Archive) がある
https://www.beazley.ox.ac.uk/index.htm

考古学研究

Arthur Dale TrendallHumfrey PayneDarrell A. Amyx がそれまで見過ごされていたアプリア( イタリア)やコリントスの系統を年代順にまとめた。
■アーサーデールトレンドオール
(1909– 1995)は、ニュージーランド生まれのオーストラリアの美術史家・古典考古学者。ギリシャの陶器に描かれた個々の芸術家の作品を特定する仕事で国際的な賞を受賞した。
ハムフリー・ギルバート・ガース・ペイン(1902– 1936):英国の考古学者
ダレル・アーリン・アミックス(1911– 1997):アメリカの古典考古学者

me訳者は「解題」で(p537)、「現在のギリシア陶器研究は、どちらかというと考古学や歴史学に傾斜している」とし、本書は作品そのものに向き合うものであることをいっている。


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