ここでもう一度、「怪物」(文様)考察文献を。
名古屋大学出版会2015/11/10
《編 者》
山中由里子
《執筆者》
池上俊一,二宮文子,亀谷 学,守川知子,大沼由布,黒川正剛,辻明日香,林 則仁,小林一枝,松田隆美,金沢百枝,杉田英明,家島彦一,鈴木英明,見市雅俊,武田雅哉,小宮正安,小倉智史,宮下 遼,菅瀬晶子
内容(「BOOK」データベースより)
驚異の比較研究に挑戦。アレクサンドロスも遭遇したという怪物から、謎の古代遺跡や女だけの島まで、たえず人々の心を魅了してきた“驚異”。
旅行記や博物誌が語り、絵画や装飾品に表れるその姿は、人間の飽くなき好奇心について何を教えてくれるのか。
“驚異”の「黄金時代」であった中世以来の精神史を細やかかつ大胆に描き出す。
序章に「驚異にとっての黄金時代といえるのが、ヨーロッパにおいてもイスラーム世界においても、11世紀から13世紀ごろであった」・・・・とある。
ここで、金沢百枝先生の
第9章 ロマネスク床モザイクに見る驚異 —— 「オトラント大聖堂の分類不能な怪物たち」 をじっくりみることにしたい。
その前に、復習しておくと、これまで見たオトラントについての記述は‥
「イタリア・ロマネスクへの旅 」(池田 健二 (著) で、
第7章 プーリア地方
トラーニ━アドリア海を背にして
モルフェッタ━十字軍とロマネスク
オートラント━驚異の床モザイク・・・・が第一であったが、
エミール・マール、尾形希和子さんも言及しているのを垣間見ていた・・
『教会の怪物たち━ロマネスクの図像学』、『イタリアのロマネスク建築』、『イタリア古寺巡礼』 、 「イタリア・ロマネスクへの旅 」
ウィキメディアも参照しつつ、見ていきます‥
Italy, Otranto, Cathedral Santa Maria Annunziata
その他の関連論考・画像検索・・
http://www015.upp.so-net.ne.jp/kiiing/モザイク年表 1163~65 イタリア、オトラントの大聖堂 教会の床全面を覆うモザイク。 オトラントにある修道院 S. Nicola di Casole のパンタレオーネという修道士のもとで作られた。彼の名前はモザイクに残されている。 テッセラの形が不定形で、並べ方も雑然としているのが特徴。しかし表現は柔らかく、一見拙いようだが、じつはしっかりしたデッサン力に支えられ、安定感のある画面構成がされている。
https://twitter.com/cari_meli/オトラント大聖堂では、とってもきれいに保存された床モザイクが一面に広がっているのも見どころ! 1160年代の作で、パンタレオーネという謎の人物が一人で制作したのだそうな。 #南イタリアはいいぞ pic.twitter.com/bduoU34lKD
— 壺屋めり (@cari_meli) September 24, 2018
http://japanitalytravel.com/
(イタリアのロマネスク「陽気なモザイク、悲劇の礼拝堂、ノルマン人の夢の痕」bySoba
彩子201705)
https://www.slideshare.net/stepbystop/
Lettura del racconto nel mosaico di otranto al 23 marzo 2015
(87ページ!画像ズームができる)
http://lecartolinedalsalento.blogspot.com/
このモザイク画は "L'albero della Vita" (ラルベロ・デッラ・ヴィータ = 『生命の樹』) と呼ばれ、よくみると、さまざまな色のテラコッタや石そしてガラスなどの小片が組み合わさって出来ています。
Pantaleone(パンタレオーネ)という名の地元オトラントの修道僧のデザインのもと、1166年に4年かけて作られました(201008)
ヨーロッパ文明学科の主任で金沢百枝先生
https://shop.kogei-seika.jp/products/「南イタリアのオトラント大聖堂には、ヨーロッパ最大のロマネスクの床モザイクが残っています。1本の大樹を軸に、人類の祖アダムとエヴァからノアの方舟、バベルの塔の建設など旧約聖書の諸場面、そしてアーサー王やアレクサンドロス大王など、理想の騎士も描かれます。講座では、そうした物語図の隙間を埋めるように描かれた動物たちや、裸の人々にも注目したい」
http://eurasia-blog.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-66e760.html2009-10年研究報告(金沢百枝)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-21820040/21820040seika.pdf
「それまで幾何学や植物文様で装飾されていた教会堂が、11世紀ごろから人像や動物、物語場面などで飾られるようになる。中にはキリスト教の文脈とは異なる民話、神話物語場面な非キリスト教的なモテイーフも含まれる。こうした変化はなぜ起こったのか。]
類似の研究
関連検索は以上にして、本題である
1 驚異とは?
2 驚異と中世一神教世界
3 先行研究
4 比較研究の可能性と問題点
5 ジャンルの問題
6 驚異の定義
7 歴史的展望
はじめに
オトラントの床モザイクの受容史と研究史:M.A.Coppola 2005
研究の主題 その後の図像研究の先鞭
Frugoni 1968
驚異譚の文脈で読み解くM.Castiiieras2007
→判別可能な人物像との関連での研究にとどまって、統一的解釈に至っていない。
驚異譚と大きくかかわる主題が床モザイクでどのような役割を演 じているか、キリスト教主題と驚異譚の間を埋めつくす、判読不明な動物や怪物について分析したい。(p186)
「中世の驚異の目録」として、 ル=ゴフが挙げた7つのカテゴリー(地理的に特別な場所、巨人など特殊な人類、実在及び幻想の動物、半人半獣、魔法の指輪などのアイテム、偉人伝)のほとんどを見つけることができる。(p188)
背中合わせに寄り添う二頭の象の背に大樹の根。
枝は身廊全体を包み込むように左右に伸び、幹は聖堂の中央を貫通して、梢は交差部に達する。(p189)
ノアの箱舟の下で、魚が泳ぎまわっている「水中」としての床は、同時に、大樹の枝を伸ばし、バベルの塔が高くそびえる「空中」なのである。(p190)
↓「アーサー王とパリグの怪猫」譚か?オトラント大聖堂の床モザイクをめぐる金沢百枝論考は図表も楽しい。
— せんだい歴史学カフェ (@SendaiHisCafe) October 29, 2015
山中由里子編『<脅威>の文化史 中東とヨーロッパを中心に』 pic.twitter.com/YXf6BO6GcO
掲載の図は以下であった。
以上のように15図あったが、興味深い表も2つ。
表1(p196)オトラント大聖堂床モザイクにみられる動物たち
表2(p196)オトラント大聖堂床モザイクにみられる怪物たち
私には今は表2がメインである。(以下引用)
表2(p196)オトラント大聖堂床モザイクにみられる怪物たち
人魚もケンタウロスも1だけ・・!
モザイクに満ち溢れる豊饒のエネルギーに改めて驚嘆
中には首輪をつけた犬や、片足だけ靴を履いた猫もいる。
モザイクの怪物たちは、トポグラフィカルな象徴ではない。(p197)
キリスト教美術において、動物や怪物は意味の二面性を持つ。
オデュッセウスの一行を美しい歌声で死へと誘う人魚は「誘惑」の象徴とされる一方、豊饒の水の象徴とされる。
オトラントとその周辺に残るロマネスクの床モザイクには、あたかもその場の気まぐれで作り出されたかに見える怪物が多い。(p198)
アルプス以北のモザイク装飾の作例は少ないが、たとえば南フランスのガナゴビ―の例を取ってみても、双頭の竜などの怪物は描かれているものの、南イタリアのような気ままさはない。(p199)
また、アドリア海の北方域やポー川流域でも、たいてい特定可能な形を持つ。
「定型外の怪物たち」は全ての役割から解放されているのだろうか。
そうともいえないことがオトラント大聖堂の怪異の定量的分析で明らかになった。
これらの奔放な輪郭を持つ動物や怪物たちは、裸体の人間たちと大樹とのみ関わりを持っている。
裸人たちは、怪物たちばかりでなく、身廊に聳える大樹の餌食となる。
裸人たちはときに枝に絡まり、もがき、首を絞められる。
木の枝に食らいついていたり、口から枝が出ている動物はいるが、人間のように締めつけられることはない。
「定型外の怪物たち」を欄外に導入することによって、作者パンタレオーネは何を表現しようとしていたのか。
樹を登っている裸人を「魂の上昇」の象徴とする解釈もあるが、ならば動物や怪物の口から草木が燃え出江うのはなぜなのか。(p200)
欄外に描かれた裸人・動物・怪物の相互的な関係の
謎は深まってゆくのである。(p200)
http://www.tokainewspress.com/view.php?d=745「基本的に中世のキリスト教美術は、不特定多数の人に向けたメッセージです。そのため、わかりやすく親しみのあるデザインが多い。キリスト教とは直接関係のない、奇想天外なものもたくさんあるんですよ」
研究途中ということであるが、「わかりやすく親しみ」があり、着眼を楽しめる・・
怪物「文様」であるが、まさに唐草に絡まる怪物であるか、もう少し‥(続く)20200330