唐草図鑑

西洋の芸術(中世)

「《驚異》の文化史」

ここでもう一度、「怪物」(文様)考察文献を。

〈驚異〉の文化史―中東とヨーロッパを中心に―

〈驚異〉の文化史―中東とヨーロッパを中心に―

名古屋大学出版会2015/11/10 
《編 者》 山中由里子
《執筆者》 池上俊一,二宮文子,亀谷 学,守川知子,大沼由布,黒川正剛,辻明日香,林 則仁,小林一枝,松田隆美,金沢百枝,杉田英明,家島彦一,鈴木英明,見市雅俊,武田雅哉,小宮正安,小倉智史,宮下 遼,菅瀬晶子

内容(「BOOK」データベースより)
驚異の比較研究に挑戦。アレクサンドロスも遭遇したという怪物から、謎の古代遺跡や女だけの島まで、たえず人々の心を魅了してきた“驚異”。
旅行記や博物誌が語り、絵画や装飾品に表れるその姿は、人間の飽くなき好奇心について何を教えてくれるのか。
“驚異”の「黄金時代」であった中世以来の精神史を細やかかつ大胆に描き出す。

https://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0817-4.html

序章に「驚異にとっての黄金時代といえるのが、ヨーロッパにおいてもイスラーム世界においても、11世紀から13世紀ごろであった」・・・・とある。
ここで、金沢百枝先生の
第9章 ロマネスク床モザイクに見る驚異 —— 「オトラント大聖堂の分類不能な怪物たち」 をじっくりみることにしたい。

その前に、復習しておくと、これまで見たオトラントについての記述は‥
「イタリア・ロマネスクへの旅 」(池田 健二 (著) で、
第7章 プーリア地方
トラーニ━アドリア海を背にして
モルフェッタ━十字軍とロマネスク
オートラント━驚異の床モザイク・・・・が第一であったが、
エミール・マール、尾形希和子さんも言及しているのを垣間見ていた・・

ロマネスクの美術(下)
https://www.karakusamon.com/2015k/romanesque_em2.html
サムネイル画像
オトラントとボルゴ・サン・ドンニーノにおける『アレクサンドロス大王物語』. Ⅵ. フランス 芸術は巡礼路を通じてイタリアに浸透した 説話的タンパン 彫刻された弧帯 扉口の彫刻 群 アンテラミはパルマとボルゴ・サン・ドンニーノにおいてフランス芸術を模倣した。
イタリア・ロマネスクへの旅
https://www.karakusamon.com/2014k/romanesque_ikeda.html
オトラント(Otranto). サンティッシマ・アヌンツィア―タ大聖堂. ビザンティン帝国の支配下 で ロマネスクらしいモザイク オトラント大聖堂(サンタ·マリア·アヌンツィアータの大聖堂). 第8章 カンパーニア地方とシチリア島. サンタンジェロ・イン・フォルミス━壮麗なる壁画
ロマネスクの図像 (海の豊穣)
https://www.karakusamon.com/2014k/romanesque_ogata32.html
サムネイル画像
世界樹と様々な怪物、動物、オトラント、大聖堂、床モザイク、1163-5. (尾形p55)魚の 下半身を持つサイレンが本当の意味で文献にあらわれるのは『怪物の書』のなかである 。しかし、ここでも、サイレンの二叉の尾については何の記述もされていない。 その起源  ...
ロマネスクの図像 3(教会の怪物)
https://www.karakusamon.com/2014k/romanesque_ogata3.html
サムネイル画像
2015年4月29日 ... 3.床モザイク上の怪物的民族. 世俗的世界を表す場. (p107)より多くの人に見られ、 しかも足で踏まれるもの 北イタリアのピアチェンツァのサン・サビーノ聖堂やノヴァーラの 大聖堂などにもかなり残されている。オトラント大聖堂Cattedrale di ...
建築と植物(五十嵐太郎)
https://www.karakusamon.com/2017k/kentiku_syokubutu.html
*(Horace Walpole, 4th Earl of Orford, 1717- 1797「serendipity」という言葉は、 イギリスの政治家にして小説家であるホレス・ウォルポール(ゴシック小説『オトラント城 奇譚』の作者として知られる人物)が1754年に生み出した造語)Strawberry Hill House  ...

『教会の怪物たち━ロマネスクの図像学』『イタリアのロマネスク建築』『イタリア古寺巡礼』  「イタリア・ロマネスクへの旅 」

ウィキメディアも参照しつつ、見ていきます‥

The Cathedral of Otranto

Otranto BW 2016-10-18 16-31-00
Italy, Otranto, Cathedral Santa Maria Annunziata

Otranto facciata della cattedrale xilografia
この絵では、外壁に唐草文様があるようにみえるが・・

その他の関連論考・画像検索・・

http://www015.upp.so-net.ne.jp/kiiing/モザイク年表 1163~65 イタリア、オトラントの大聖堂 教会の床全面を覆うモザイク。 オトラントにある修道院 S. Nicola di Casole のパンタレオーネという修道士のもとで作られた。彼の名前はモザイクに残されている。 テッセラの形が不定形で、並べ方も雑然としているのが特徴。しかし表現は柔らかく、一見拙いようだが、じつはしっかりしたデッサン力に支えられ、安定感のある画面構成がされている。

https://twitter.com/cari_meli/


http://japanitalytravel.com/
(イタリアのロマネスク「陽気なモザイク、悲劇の礼拝堂、ノルマン人の夢の痕」bySoba 彩子201705)

https://www.slideshare.net/stepbystop/
Lettura del racconto nel mosaico di otranto al 23 marzo 2015
(87ページ!画像ズームができる)

http://lecartolinedalsalento.blogspot.com/
このモザイク画は "L'albero della Vita" (ラルベロ・デッラ・ヴィータ = 『生命の樹』) と呼ばれ、よくみると、さまざまな色のテラコッタや石そしてガラスなどの小片が組み合わさって出来ています。 Pantaleone(パンタレオーネ)という名の地元オトラントの修道僧のデザインのもと、1166年に4年かけて作られました(201008)

https://europastdblog.wordpress.com/2015/12/11/43/

ヨーロッパ文明学科の主任で金沢百枝先生

https://shop.kogei-seika.jp/products/「南イタリアのオトラント大聖堂には、ヨーロッパ最大のロマネスクの床モザイクが残っています。1本の大樹を軸に、人類の祖アダムとエヴァからノアの方舟、バベルの塔の建設など旧約聖書の諸場面、そしてアーサー王やアレクサンドロス大王など、理想の騎士も描かれます。講座では、そうした物語図の隙間を埋めるように描かれた動物たちや、裸の人々にも注目したい」

http://eurasia-blog.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-66e760.html


首輪をつけた犬のモザイク

https://www.kogei-seika.jp/news/tour2018.html

2009-10年研究報告(金沢百枝)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-21820040/21820040seika.pdf 
「それまで幾何学や植物文様で装飾されていた教会堂が、11世紀ごろから人像や動物、物語場面などで飾られるようになる。中にはキリスト教の文脈とは異なる民話、神話物語場面な非キリスト教的なモテイーフも含まれる。こうした変化はなぜ起こったのか。]

 

類似の研究
瀧口美香(明治大学)
PDF「オトラント大聖堂舗床モザイクの図像解釈について」(明治大学人文科学研究所紀要 20160331)


初期キリスト教・ビザンティン図像学研究 –創元社 2018/1/31 
こちらは、シリア、ヨルダンの聖堂装飾= 神の庭を飾る ―初期キリスト教の舗床モザイクなどについて・・・

関連検索は以上にして、本題である

『〈驚異〉の文化史―中東とヨーロッパを中心に―

序 章 驚異考 ……………… 山中由里子

1 驚異とは?     
2 驚異と中世一神教世界     
3 先行研究     
4 比較研究の可能性と問題点     
5 ジャンルの問題    
6 驚異の定義     
7 歴史的展望


第Ⅰ部 驚異とは何か
第1章 ヨーロッパ中世における驚異…… 池上俊一
第2章 イスラームにおける奇跡の理論…… 二宮文子
第Ⅱ部 驚異の編纂と視覚化
第1章 亀谷 学,
第2章 守川知子,
第3章 大沼由布,
第4章 黒川正剛,
第5章 辻明日香,
第6章 林 則仁,
第7章 小林一枝,
第8章 松田隆美,
第9章 金沢百枝
第Ⅲ部 驚異のトポス(略)
第Ⅳ部 驚異の転生(略)
名古屋大学出版会にある詳細目次

第Ⅱ部 第9章 ロマネスク床モザイクに見る驚異

オトラント大聖堂の分類不能な怪物たち …… 金沢百枝

(p184-p200)
はじめに
1.謎を読み解く試みの数々
2.オトラント大聖堂の床モザイク
3.偉人の驚異譚
(Ⅰ)「アレクサンドロス大王の飛翔」
(Ⅱ)アーダー王とパリグの怪猫
(Ⅲ)ソロモン王、シェバの女王とヤマガシラ
4.分類不能な怪物たち
5.おわりに

はじめに

1980年代から始まった聖堂地下の考古学調査によってロマネスク期の床モザイクが次々と発掘されたが、いまだオトラント大聖堂ほど大規模な現存例は知られていない。
1163~1165年に制作された。(p184)
Otranto BW 2016-10-18 16-33-03
1.謎を読み解く試みの数々

オトラントの床モザイクの受容史と研究史:M.A.Coppola 2005
研究の主題 その後の図像研究の先鞭 Frugoni 1968
驚異譚の文脈で読み解くM.Castiiieras2007
→判別可能な人物像との関連での研究にとどまって、統一的解釈に至っていない。

 

驚異譚と大きくかかわる主題が床モザイクでどのような役割を演 じているか、キリスト教主題と驚異譚の間を埋めつくす、判読不明な動物や怪物について分析したい。(p186)

2.オトラント大聖堂の床モザイク

「中世の驚異の目録」として、 ル=ゴフが挙げた7つのカテゴリー(地理的に特別な場所、巨人など特殊な人類、実在及び幻想の動物、半人半獣、魔法の指輪などのアイテム、偉人伝)のほとんどを見つけることができる。(p188)

背中合わせに寄り添う二頭の象の背に大樹の根。
枝は身廊全体を包み込むように左右に伸び、幹は聖堂の中央を貫通して、梢は交差部に達する。(p189)

ノアの箱舟の下で、魚が泳ぎまわっている「水中」としての床は、同時に、大樹の枝を伸ばし、バベルの塔が高くそびえる「空中」なのである。(p190)

3.偉人の驚異譚
Otranto

長くビザンティン支配下にあった
海峡を挟んだ対岸(現アルバニア)との距離はここで最も近い(p186)

掲載の図は以下であった。 

図1(p187)はオトラント大聖堂の床モザイク全図・・
図2(p188)楽園の扉
図3(p188)大樹の頂とアダムとエヴァと堕落
図4(p189)「ノアの大洪水」
図5(p189)「バベルの塔」とアレクサンドロス大王
図6(p192)アーダー王と怪猫>
図7(p194)シェバの女王とソロモン王とヤツガシラ
図8(p194)ヤツガシラ
図9(p195)円環枠の並ぶ交差部
図10(p196)木の上に首を締められた人
図11(p197)首輪をつけた犬と奇妙な怪物、枝に食いつく獣
図12(p197)片足のみ靴を履いた猫
図13(p198)ハービー?
図14(p198)人面多頭四足獣と口から枝を吐く獣
図15(p199)ブリンディン大聖堂の床モザイク断片。片足だけ靴を履いた怪物、片足だけブックになった鹿。

以上のように15図あったが、興味深い表も2つ。
表1(p196)オトラント大聖堂床モザイクにみられる動物たち
表2(p196)オトラント大聖堂床モザイクにみられる怪物たち

私には今は表2がメインである。(以下引用)


表2(p196)オトラント大聖堂床モザイクにみられる怪物たち

人魚もケンタウロスも1だけ・・!

4.分類不能な怪物たち

モザイクに満ち溢れる豊饒のエネルギーに改めて驚嘆
中には首輪をつけた犬や、片足だけ靴を履いた猫もいる。
モザイクの怪物たちは、トポグラフィカルな象徴ではない。(p197)

キリスト教美術において、動物や怪物は意味の二面性を持つ。
オデュッセウスの一行を美しい歌声で死へと誘う人魚は「誘惑」の象徴とされる一方、豊饒の水の象徴とされる。

オトラントとその周辺に残るロマネスクの床モザイクには、あたかもその場の気まぐれで作り出されたかに見える怪物が多い。(p198)

アルプス以北のモザイク装飾の作例は少ないが、たとえば南フランスのガナゴビ―の例を取ってみても、双頭の竜などの怪物は描かれているものの、南イタリアのような気ままさはない。(p199)

また、アドリア海の北方域やポー川流域でも、たいてい特定可能な形を持つ。

5.おわりに

「定型外の怪物たち」は全ての役割から解放されているのだろうか。
そうともいえないことがオトラント大聖堂の怪異の定量的分析で明らかになった。
これらの奔放な輪郭を持つ動物や怪物たちは裸体の人間たちと大樹とのみ関わりを持っている

裸人たちは、怪物たちばかりでなく、身廊に聳える大樹の餌食となる。
裸人たちはときに枝に絡まり、もがき、首を絞められる。
木の枝に食らいついていたり、口から枝が出ている動物はいるが、人間のように締めつけられることはない。

「定型外の怪物たち」を欄外に導入することによって、作者パンタレオーネは何を表現しようとしていたのか。

樹を登っている裸人を「魂の上昇」の象徴とする解釈もあるが、ならば動物や怪物の口から草木が燃え出江うのはなぜなのか。(p200)

欄外に描かれた裸人・動物・怪物の相互的な関係の
謎は深まってゆくのである。(p200)

http://www.tokainewspress.com/view.php?d=745「基本的に中世のキリスト教美術は、不特定多数の人に向けたメッセージです。そのため、わかりやすく親しみのあるデザインが多い。キリスト教とは直接関係のない、奇想天外なものもたくさんあるんですよ」

研究途中ということであるが、「わかりやすく親しみ」があり、着眼を楽しめる・・




イタリア古寺巡礼―シチリア→ナポリ (新潮社 とんぼの本) – 2012/11/1

怪物「文様」であるが、まさに唐草に絡まる怪物であるか、もう少し‥(続く)20200330

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