聖樹聖獣文様
「ライオン・マン(ウーマン)」を初めて知った時、その古さ、完璧さに驚いたものであった。→(最古のライオンマン)
これは、先史考古学の人類遺産で
、後期旧石器時代の象牙彫刻である。なので美術の始原、先史美術の範疇であるか・・
この書の「はじめに」によれば、芸術人類学とは、芸術+人類学でなく、芸術人類+学であるとしている。
また、この書の4つのキーワードは、「人類」とは誰か、「芸術」とは何か、西洋発祥の「人類学史」とは何か、「芸術人類学」の挑戦で、鶴岡真弓、椹木野衣、平出隆、安藤礼二各氏による実践講義。
芸術人類学講義 (ちくま新書) – 鶴岡真弓編2020/3/6
鶴岡真弓、※1952生、
椹木野衣 ※1962生、
平出隆 ※1950生
安藤礼二 ※1967生・・各氏による「講義」集
http://www2.tamabi.ac.jp/iaa/art_anthropology_lecture/
1インド、神智学、近代仏教
2「翁の発生」の射程
3「国栖」をめぐって
4「如来蔵」の哲学──折口信夫の「古代」と鈴木大拙の「霊性」が出逢う
5「東方哲学」の樹立に向けて
あとがき──「芸術人類」の新たな旅(鶴岡真弓)
主要参考文献一覧
(以下抜粋)
イメージ人類学 ハンス ベルティンク Hans Belting (原著), 仲間 裕子 (訳) – 平凡社2014(原著1935)
美術史の終焉? ハンス ベルティング (著), 元木 幸一 (訳) – 勁草書房1991
文化人類学20の理論綾部 恒雄 (編) – 弘文堂2006
神話学入門 (講談社学術文庫) 松村 一男 (著)– 2019
抽象と感情移入―東洋芸術と西洋芸術 (岩波文庫)
ヴォリンゲル (著), 草薙 正夫 (訳)
– 1953
虚飾の帝国―オリエンタリズムからオーナメンタリズムへ
デヴィッド キャナダイン (著), 平田 雅博 (訳), 細川 道久 (訳)
– 日本経済評論社2004
比較宗教学の誕生 宗教・神話・仏教 (宗教学名著選) フリードリヒ・マックス・ミュラー (著), 松村一男 (監修), 下田正弘 (監修), 山田仁史 (訳)– 国書刊行会 2014
装飾と罪悪―建築・文化論集アドルフ ロース (著), 伊藤 哲夫 (訳) –中央公論美術出版 1987
図版一覧
このあと、第2章の図版をもう少し見たい。
ホモ・オルナートゥス:飾るヒト(p100)
現生人類の三つの定義に続く四つ目の定義
ホモ・サピエンス=知恵あるヒト
ホモ・ファベル=造るヒト
ホモ・ルーデンス=遊ぶヒト
先史と現代に生きる「ホモ・オルナートゥス」
永遠がすべてのなかで絶えず生じる。
幸せな存在であり続けよ・・・byゲーテ『ファウスト』
装飾:幸せな存在であるための護符(p101)
「誕生の装飾」「浄めの装飾」「哀悼の装飾」
「装飾」は表面的な飾りであるどころか、「誕生・成長・成熟」「老・病・死」という人生のどのモーメントにも表されてきた荘厳なオート・デザインであった。
Canopic Coffinette (Tutankhamun)
A canopic coffinette of king Tutankhamun of the 18th dynasty of Egypt from the 14th century BCE. It was discovered from his intact KV62 tomb. This object today forms part of the permanent collection of the Cairo Museum of Egypt. This photo was taken at the King Tut exhibition at the Pacific Science Center in Seattle, Washington State, USA.
図2-2 「ツタンカーメンの棺型容器」(p102)
人類史を貫く「荘厳」芸術としての「装飾」
【アール・デコ】が噴出した西洋「近代:モダニズム」の状況を人類学の学説的背景とともに検証
【シベリア】における先住の人々の装飾の知と信
非西洋の「他者」に保持された装飾芸術の普遍性を浮き彫りにしたデザイナー・思想家【モリス】(p103)
速度と効率によって全てを数値化するモダンな社会では、「装飾」は迷信にみちた怪しいもの、野蛮なものとして忌避された。・・装飾は罪悪だ・・モダニストの建築家アドルフ・ロース(1870‐1933)({装飾と罪悪」1908)p105
:Casa Milà
図2‐3 (左:)ガウディ「カサ・ミラ」 1905-1907年 (p106)
Adele Bloch-Bauer's Portrait
図2‐3 (右:)クリムト「アデーレⅠ」 1907年 Gustav Klimt
(1862–1918)
両脇の渦巻き文様
Maud Stevens Wagner(1877-1961)
図2‐4 モード・スティーヴンス・ワグナー 1907年(p107)
女性で初めてタトゥ―イスト(刺青彫師)となった曲芸師
ウィーン学派の美術史家アロイス・リーグル(1858‐1905)は、文様」や「抽象」に人間的な『芸術意思』を認めた。(『美術様式論』1901 )
古代ローマ末期から中世への「移行期」は芸術の「退廃期」ではなく、そこに現われた装飾の芸術には、時代精神と民族精神がもたらした独創性があるとして、ゴットフリート・ゼンバ-による唯物論を覆した。(p108)
「鑑賞者が関与しなければ芸術とはならない」とする、視覚受容や情動反応を心理学から考察する道も開いた。
この理論を継承したのが、ヴィルヘルム・ヴォリンガー(1881‐1965)の『抽象と感情移入』(1908)
西洋の造形芸術 論のパラダイム・シフトといえる大きな転換をもたらしたリーグル、ヴォリンガーの抽象・装飾。文様研究は、20世紀の抽象芸術と知覚心理学・認知心理学とクロスし、世紀の幕開けを画しました。(p109)
図2‐5 サリーン 『古ゲルマンの動物文様』1904年より(p110)
北欧の考古学者ベルンハルト・サリーン(1861‐1931)
命名「アニマル・スタイル」北方ユーラシアからヨーロッパへの流れを示唆
図2‐6 フランツ・ボアズ「プリミティヴ・アート」表紙 1927年
人類学者(1858‐1942)
※https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/、言叢社ブログ
Paris 1889 plakat
Exposition Universelle (1889)
パリ万国博覧会 (1925年) - 「現代産業装飾芸術国際博覧会」として開催された。
アール・デコ博覧会との略称
図2‐7 1889年と1935年のパリ博ポスター
Paris-FR-75-Expo 1925 Artsdécoratifs-pavillondes Galeries Lafayette
図2‐8 1925年パリ万博「ギャルリー・ラファイエット」百貨店パヴィリオン(p117)
シベリア(=著者のフィールドワークの始まりの地)(p117)
日本列島とユーロ=アジア文明の連続性を民族の芸術から他我を見定めようとした。(日本列島は、2300年前―530万年前にユーラシア大陸と分離した)
インターフェースの皮
シベリア神話:人間(界)と動物(界)
の「入れ替わり交換」
フランスの民俗学者E・ロット・ファルク(1918-74)『シベリアの狩猟儀礼』
人と動物の未分化 動物は皮を脱いで人になる。(逆もアリ)
生き物同士の交点が「皮」(p126)
魂を包む皮
「装飾」の細胞・核となっている「文様とは:極限の形象
大自然から人間が認知するものは生命であり変化・変動であり死ですが、「文様」はそれを循環させる護符のような力を持つ形象(抽象)であり、
大自然という「マクロコスモス」と対応する装飾という「ミクロコスモスです。(p130)
「装飾・文様」は「成長感覚」をもたらすものでなくてはならない.それを実現したのが1860年代初頭からモリス・マーシャル・フォークナー商会の「壁紙」(p133)
彼の壁紙は、単位自然御描写なのではなく、今ここではない時空に連れ出すものでなければならない。(p136)
アカンサスは古代ギリシャを思わせ、柳は18世紀ロココk時代に西洋に入ってきた中国庭園術を想起させる。
(覇権国ヴィクトリア朝イギリス)植民地帝国が直接支配することになるインドと中国 モリスの震源地
印度からもたらされたデザイン・・
チンツ(更紗)のテキスタイル、・・南国の風に揺れて繁茂する植物文様が主役
(インドのカシミール地方)カシミヤ・ショールの文様「ブータ」(イギリスでは「ペイスリー」→「インディア」という壁紙
中国の「琺瑯」の文様
図2-16 (右)モリス「柳の枝」 1887年(p139)
図2-16(左)ビュージン 「タイル」
前世代のデザイナー・ゴシック・リヴァイバルの建築家
Augustus Welby Northmore Pugin
オーガスタス・ピュージン(1812-52)
厳粛な宗教空間、唯一神の創造したコスモスを再現する装飾
モリスは冷たいレンガに温度を与え、「西洋という石壁」に皮膚のような温度と艶を与えた。(p139)
(モリスが)根源的な循環構造を思い描けるのは、「装飾」という、死からの再生を祈る芸術を探求し、太古から営まれた「人類の芸術」に生涯クラフトマンとしてかかわったことによる。(p145)
(モリスは)「ホモ・オルナ―トゥス:飾る人」としての人類が作り上げてきた、「分節されない(一つの途切れない)世界」を途切れなきオーナメントに籠(こ)めて表したと考えられる。(p146)
装飾主義:オーナメンタリズムへ
新しい装飾論に向けて(p146)
20世紀の後半、「ポスト・モダニズム」時代に「装飾の復権」が到来し、古典的に「確立されてもの(エスタブリッシュメント)」に異を唱える現代思想に影響を与える。
人類史を貫いてきた「装飾」の創造は、強制力によって「文節される社会」に抗してきた『芸術人類』の営みの根源にあるもの(p148)
”「文節される世界」に抗してきた「芸術人類」の営みの根源にあるもの” ・・というのは 、そうなのか!?と思いましたが、(「分節」という用語に抵抗があるので)、「荘厳の装飾」のまとめの歴史を見たのは、整理がついて、この本を読んで良かった。
また、モリスが良いのはもちろんだけれど、実は今回、初めて見たピュージンのデザインもよいと思ってしまった・・ (20200902)
A・ウェルビー・N・ピュージン『対比』(原著1836 )を 、見てみたいと思っている。→Augustus_Pugin.html