「幻の唐草」とアルカイスム |
立田洋司さんの「唐草文様 世界を駆けめぐる意匠」(講談社選書メチエ 1997年刊)を丁寧に再読[再々再読?]中です。10章ある中の、その第二章、ページ数は27ページ、13段落、図版数は10。 2009-07-24 |
渦文とロータスが窮屈なその組合わせから
(エジプトではなくクレータCreteやキュクラデスの美術において)遊離する
世界で最も早くから航海術を身につけていた民族(古代クレータ人は非ギリシア系)
ミュケーナイ人は、前二千年木注用にクレータ文化を継承したギリシア人
クレータ…紀元前三千~二千年の東地中海の文化を支えてきた。立体的な地勢。地中海性気候と高峻な山。
古代クレータ美術における躍動する生命感は異彩を放っている。生命讃歌。
(
図16.A.
絡み渦連続文の刻まれたピュクシス(宝石入れ) ザクロス出土 先史時代 2600~2000BC
図16.B
.二色に塗り分けられた絡み渦文の水差し、ファイストスPhaistos - Festos出土2000BC頃 イラクリオン考古学博物館 Iraklion Archaeological Museum. 蔵
クレータのイラクリオン考古学博物館で見られる
図17.尖底のリュトン新宮殿時代(1700~1450BC)波にタコをあしらった生き生き出来栄え…図16の舞踏渦文の発展形として捉えることもできる
図18.水差し(同)イラクリオン (Iraklion) 考古学博物館
図19.二頭のイルカが柱に絡む 2000-1700BC →平面化すれば唐草的気分もにおい立ってくる イラクリオン考古学博物館 Iraklion Archaeological Museum.蔵
イーデー山に波斜面のカマレス(Kamares)洞窟
「卵殻陶器」植物文様の種類の多さと質の高さ
ファイストス…「カマレス式」陶器の先進的な意匠の中に潜在する自然のダイナミズムが、唐草の一源流を示唆している
カマレス式陶器,くちばし型の壺 紀元前1800年ころ,クレタ島ファイストス宮殿祉出土
高さ27cm
クレタ島,ヘラクリオン美術館
図21.ファイストスの陶器。ロゼットとパルメット文様が描かれている。2000BC頃。イラクリオン博物館蔵。
図22.ファイストスの大杯(同)
図23.陶製リュトン。第一の唐草と名付けるにふさわしい。1700BC頃。イラクイオン考古学美術館
ほとんど完全に「唐草」と呼べる文様ークレータ島のファイストス宮殿の工房で誕生した紀元前二千年紀前半のカマレス陶器の意匠=「第一の唐草群」or「幻の唐草群」
クレータやミュケーナイ美術の香りを今に伝える壺絵…図柄よりも器体が担っている。
斬新な唐草風文様も、それぞれが斬新なままでとどまった。
アチランティス=キュクラディス諸島のサントリーニ(テーラ)島(紀元前1520年頃)⇒クレータ島の建造物も崩壊(ミュケーナイ人占領)
→1200BC頃ミュケーナイ文化崩壊
紀元前1200年からの文化的暗黒時代…ギリシア式唐草(紀元前7世紀)までの六百年間
初期…装飾要素の欠落
200年後…前幾何学様式土器時代
前10世紀以降…幾何学様式土器時代
紀元前8世紀頃…オリエントとの再交流⇒再び曲線・波縄文、渦巻
ホメーロスらの吟遊詩人もまた暗黒時代以前に滅亡した過去の栄光を叙事詩に
第二次地中海文明(クラッシック時代)
アルカイック…ギリシア語「アルカイオス」(arkhaios)=「原初の」「古い」(古拙な)
⇒真の意味は動勢の芽生えや回復、未明や混沌からの脱却 時間の流れの最先端
紀元前第二千年紀(紀元前1000年代)の終盤は民族大移動時代。(ドーリア人やトラキア人、アーリア人など)
アッシリア帝国[新王国]が、民族移動による被害の比較的すくなったメソポタミアから勢力を張り始めた…前九世紀
表・ギリシア。オリエント略年表(BC1000~BC500)⇒紀元前九世紀初頭から同六世紀半頃までの期間が「オリエント全域における広義のアルカイック時代」
西洋学芸の礎この時代に集中・
インドの宗教・学問の展開期
フェニキア植民市カルタゴ紀元前814年、
オリュンピアの競技紀元前776年開始
アルカイスム…唐草が生まれる土壌
褐色の中の緑が重要な意味を持つ
この時代に様式感を獲得した「パルメット唐草」…パルメット=メソポタミアのナツメヤシの葉
オリエントにおける「生命の樹」という考え方の源
アッシリアの生命の樹の浮彫(大英博物館)(紀元前九世紀前半)…
ギリシア・エーゲ海世界における文化復興に比べて早い。
花喰鳥文様(咋鳥文)も、その概念の固定化が認められる
旧約聖書「創世記」第六章、鳩がオリーブの若芽をついばんでくる→オリエントにふさわしい
唐草の概念に「生命の樹
」や「花喰鳥」を含ませることができるとすれば、この時代のこの地域が唐草に対しても様々の種子を宿していた母体であったということになる
クレータ美術が豊かな自然の中で育まれたおおらかな生命讃歌だったとすれば、アルカイック時代のオリエント美術におけるそれは、生命存在そのものを強く意識した生命讃歌といえる
オリエントの風土に最も適した果樹=
葡萄のレリーフ
新ヒッタイトの図像(紀元前750年ごろのアナトリア)…
初めての神聖な表現
図24.イヴリーズ 岩壁 巨大なレリーフ
タウルス山脈の北側の麓の
イヴリーズという山村の岩壁に、植物の神(収穫神)が葡萄の房を持って登場
⇒詳しくはこちらへ…ぶどう唐草幻想
(*ブドウそのものの表現は前15世紀のエジプトのナクト墳墓の葡萄酒づくりの壁画が有名)
(*葡萄を主題とする美術制作…100年後の「アッシュル・バニパル王の葡萄の下の饗宴」など)⇒唐草図鑑 葡萄の項も参照ください
2009-08-02ここ暗礁に乗り上げました。
地名や神名がなかなかWEB上にありません。古称、歴史的な地域名or表記のゆれ(^^ゞ…
タウルス山…https://plaza.rakuten.co.jp/azure77/diary/200509170000/によれば、(以下引用)
昔、レオナルド・ダ・ヴィンチが理想郷として憧れを込めて書いた空想旅行記にでてくる「タウロ山」というのは、オリエント・タウルス急行が通過するバルカン半島のコーカサス山脈のタウルス山のことである。=== 引用終了 ===
タウルス⇒『ウィキペディア(Wikipedia)』トロス山脈 …トルコ南東部
コーカサス⇒ 『ウィキペディア(Wikipedia)』カフカース山脈
『ウィキペディア(Wikipedia)』アナトリア半島文明の発祥地
『ウィキペディア(Wikipedia)』ヒッタイトヒッタイト王の称号は、タバルナ
『ウィキペディア(Wikipedia)』アッシリア美術
補:『ウィキペディア(Wikipedia)』 古代メソポタミア 古代オリエント
*ディオニュソス神(葡萄栽培および葡萄酒の神) 古代ギリシア芸術・神話の遺産
ここで参考文献を確認して、森豊さんの著書2冊が出ていたので、後ほどみてみます。
その2冊とは…
★ぶどう唐草幻想 (1974年) (シルクロード史考察―正倉院からの発見〈4〉)
⇒「ぶどう唐草幻想」を読むへ
★花喰鳥文様展開 (1974年) (シルクロード史考察-正倉院からの発見〈2〉)
単一渦文[絡みの部分を持たない渦巻]
Spiral unit
一本の紐から形成されうる渦巻
(a) 前4000年世紀のハジラル、エジプトにわずかに |
(b)キュクラデス諸島のアリュバロス、紀元前二千年前半のクレータ文化カマレス陶器 | (c) 「トロイアの [プリアモス]の宝物」の金製品(プーシキン美術館蔵) |
図25.3種のスパイラル・ユニット
装飾的に用いられた例は数少なかった
単一渦文の連続文がなかなか登場しなかった理由…
原始的で呪術的色彩濃い
図25のモチーフを備えた文様の出現年代のばらつき、使用された地域の狭さ