(『芸術史と芸術理論』青山昌文著(2010 放送大学テキスト)P101
ゴシック建築の創始者といわれるシュジェール修道院長・・パリのサン・ドニ大聖堂・・スティンドグラスのマリア像の足元にその姿が見られるという話であったが・・
実をいうと・・確認できなかった。たくさんのステンドグラスを見て、下のような掲示も見たのだが・・
13の部分の説明
「シュジェ大修道院長の後陣は、1140~1144年に聖殉教者の聖遺物箱を展示するために建てられた重要な作品で、上部は13世紀に修復されました
祭室間の壁がなく、切れ目のない光の壁が生み出されています。」
16の部分の説明
「シュジェ大修道院長のステンドグラスは、5つの大ステンドグラスの一部のみが現存しています。
革命時には被害を免れたものの、のちに重度の破損を受け、19世紀に再構築されました。」
ゴシック建築(英語:Gothic Architecture)
12世紀後半から花開いたフランスを発祥とする建築様式。
最も初期の建築は、パリ近くのサン=ドニ(聖ドニ)大修道院教会堂(Basilique de Saint-Denis)の一部に現存)
もともと蔑称である。15世紀から16世紀にかけて、アントニオ・フィラレーテやジョルジョ・ヴァザーリらが、ルネサンス前の中世の芸術を粗野で野蛮なものとみなすために「ドイツ風の」あるいは「ゴート風の」と呼んだことに由来する (Wikipedia)
ゴシック建築は、尖ったアーチ(尖頭アーチ)、飛び梁(フライング・バットレス)、リブ・ヴォールトなどの工学的要素がよく知られている⇒用語
『図説西洋建築の歴史』P11より引用
(佐藤達生著河出書房新社 2005年刊)
⇒建築―美と空間の系譜へ
(馬杉宗夫『ロマネスクの美術』p260)
「汝、何人にもあれ、諸々の扉の誉れを讃えんとする者よ、黄金にもあらず、奢りにもあらず、技の苦しみを讃えよ。貴き技は輝く、されど輝く技は、諸々の真の光を経、唯一の真の光に達せんとする人々の心を輝かすものならん。
かしこにては、キリストこそ真の門戸、その内側いかなりや、黄金の扉これを限る、愚かなる心は物質を通して真実に高まり、沈める心は、真の光りを見て再び起きあがる」
(Mens hebes ad verum permaterialia surgit)
神を信じようとしない大衆の心(=愚かなる心)を教化するには、象徴的で抽象的なものより、自然の現象の方が、分かりやすい=ゴシック精神
(馬杉宗夫『ロマネスクの美術』p260)
前時代のロマネスク美術「美は物質的な塊のなかに求めてはならない」(聖アウグスティヌス353-431)
サン・ドニのシュジェール・・今まで否定されていた物質的な塊(自然・人間の外観)を持って真理・美を表現しようとする
聖なる都、新しいエルサレムは、神の栄光に満ちてその輝きは水晶の如く透明なジャスパーのような、値のつけようのない宝石のようであった。城壁の土台は、あらゆる種類の宝石で飾られていた。(『ヨハネ黙示録』)
多彩な宝石の美は、時々、私を外的な煩わしさから連れ去ることがあり、そうして私は、物質的なものから、非物質的のものへと移されながら、様々なる聖なる徳へと更に移されてゆくのである。」(シュジェール 青山訳 p104)
「物質に内在している価値を称揚し、物質の重要性を力説している」ゴシックは物質的なるものにおける本質的なるものの内在という点において、アリストテレス的な芸術である(シュジェール 青山訳p104)
「人間は、この世界に[内在している〕、物質的な〔諸々の真の光〕の中を通って、〔キリストがその真の入口であるところの《真の光》に向かって[登高〕する。」のである。 斑岩の壺:《シュジェールの鷲》
(photo ルーブルの代表作品300点p65より)
壺は古代エジプト時代ないしローマ帝国時代
装飾部はサン・ドニ 1147年頃
赤色斑岩、銀ニエロ象嵌、金メッキ
高さ43.1㎝.幅27㎝
以下解説は
ルーブル美術館のページ より
執筆:
Marie-Cécile Bardoz
==以下引用===========
サン・ドニ修道院修道院長シュジェール(在位1122-1151年)は、国王ルイ6世とルイ7世の顧問を務め、王国を支配した。
この人物は、自身が再建を指揮したサン・ドニ修道院を豊かにする一連の計画に取組んだ。見事な典礼用の壺をいくつも制作したことは、なかでも注目に値する。
シュジェールは、当時聖ドニと混同されていた偽ディオニュシオス・アレオパギテスの理論に想を得て、財宝を観想すると人間の魂を超越し、神に近づくことができると考えていた。
シュジェールは、修道院の櫃の中で発見したこの古代の斑岩の壺用に鍍金した金具を作らせて鷲の形にしたが、その理由は知られていない。
展示場所 ルーヴル美術館のリシュリュー翼の2階の工芸品部門 : 中世
(馬杉宗夫『ロマネスクの美術』p266)
シュジェール・・・光に対する賛美、宝石、黄金、ステンドグラスなどの、光り輝くものに対する偏愛。それらは物質でありながら、高貴な光や精神的な輝きを発する。光は純粋に精神的性質を持っておりそれが人間を神に近づけることを可能にする。
(馬杉宗夫『ロマネスクの美術』p268)
三世紀以来、「光の美学」というものが自覚されていた。発端はプロティノス(204-269)であった。彼は、古代ギリシア美術を特徴づけている線、形態、均衡、比例関係では、規定できない異質の美が存在していることを主張したのである。
すなわち、それらは、輝く黄金、燃え上がる赤い炎、暗闇に光る稲妻などの、光り輝くものであった。
こうした「光の美学」は、シュジェールによって、最初に勝利を得た、そこではゴシック建築において重要な役割を演じたステンドグラスが、一役買っていたのである。
単に太陽光線を通す美しい窓なのではなく、それ自身が輝く物質としての壁である
(青山昌文P106)
ゴシック教会は「神の恩寵によって、神秘的な方法で、この劣った世界から、あのより高き世界へと移されることができるように思わせてくれる」力を持った大きな宝石としてのステンドグラスを持つ
(青山昌文P107)
20180622
photo byM
ゴシックの特徴とされている、リブ・ボールト(Rib vault)
、ヴォールト(英語:vault)とは、
アーチを平行に押し出した形状(かまぼこ型)を特徴とする天井様式および建築構造の総称である。
日本語では「穹窿(きゅうりゅう)」と訳される。
リブ・ヴォールト(Rib vault)は
、
交差ヴォールトの稜線をリブで補強した形状とも言える。
天井部分の軽量化が可能で、後期ロマネスク建築において使用が認められるが、特にゴシック建築において決定的な空間の特徴の1つとなった。(Wikipedia)
ゴシック建築の始まりが、サン・ドニであるならば、その発展と極地は? ゴシック建築その2へ(スコラ哲学、アミアン大聖堂)へ
豪華絢爛たる大聖堂について、今までは、それが、聖職者の権力意識の表れとか、世俗的な欲望の面だけから考えていたが、その面がぬぐいがたいものでなかったとは言えないが、一面、宗教的に純粋なものではなかったとも言えないことを知った。
神の家である・・・神の家の荘厳である・・・
それをいえば、『イメージの博物誌』シリーズには「神殿」という巻がある。
表紙はクリヴェッリの作品だった。
その作品から、ゴシック建築を⇒少し視点を変えてみてみたい
アンリ・フォシヨンの「ロマネスク彫刻 形体の歴史を求めて」(辻 佐保子 訳)の第一章 も参照したい