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神話

ギリシア・ローマ神話の美術表現(2)

 以下平凡社世界百科事典(1988年版)の 鈴木 杜幾子 解説を参照しての復習続き

  [ギリシア・ローマ神話の美術表現]  文字に記された最古のギリシア神話は,ホメロスの叙事詩《イーリアス》と《オデュッセイア》である。ホメロスにおいて,すでに神々は人間の姿をもったものとして現れているが,それ以来古代ギリシアの歴史を通じて,神々の物語である神話や神と人との間に生まれた半神である英雄の伝説は,数多の詩人,哲学者,劇作家などにより補足され改作されてきた。さらにローマ時代に至って,それらがローマ固有の神話との相互の影響や統合によって大きく変化したことはいうまでもない。

   このように定本をもたなかった神話や英雄伝説の解釈者として,ギリシア・ローマの造形芸術は,著述と同等あるいはそれ以上の役割を果たした。
まず幾何学様式の壺絵 (前 8 世紀中葉) に英雄の姿が描かれるようになったのを初めとして,少なくともヘレニズム期に至るまでのギリシア美術の作例の圧倒的多数が,神々や英雄の物語を表していた。
ギリシア美術に関して留意すべきは,神話や英雄伝説の美術としての表現がつねにギリシア人の宗教感情に結びついており, 単に物語の絵解きや純粋に審美的な鑑賞の対象ではなかったという点である。
われわれはキリスト教や仏教に親しんでいるために,往々にして人間的な性格を備えたギリシアの神々に神性を認めず,また近世・近代における古典古代の美術の〈復活〉がその形式的局面に重点をおくものであったために,
ギリシア美術を造形的にのみ鑑賞しがちなのである。 鈴木 杜幾子

寓意図像集 (エンブレマータ)

  しかし一方で,しだいに純然たる神話的情景も美術の題材になるようになり, 1500 年ころにはギリシアの神々や英雄の登場する作品はいたるところにみられるようになった。 16 世紀イタリアでは各種の〈神話提要〉が出版されると同時に,オウィディウスの《転身物語》やボッカッチョの《異教の神々の系譜》などの旧来の神話物語も盛んに読まれた。神々や英雄の持物,身体的特徴などに関する知識が体系化され,美術家は辞書形式の編纂物を参考にして神々や英雄を表現した。
反宗教改革期の美術においても神話は全面的に否定されることはなく,その寓意的解釈が流行した。 1593 年に初版の刊行されたリーパの《イコノロジア》は,異教的イメージに抽象概念を対応させた寓意図像集 (エンブレマータ) で広く美術家の用に供された。
17 世紀にも神話美術は盛んで,ルーベンスは豊かな古典古代の教養をもって,プッサンは古代美術やラフェロに学んだ古典的形式に従って,それぞれ神々や英雄の物語を描いた。
さらにルイ 14 世の時代には,神話は王の栄光をたたえる手段となった。
啓蒙主義の時代には神話はつくりごととみなされ,ロココの絵画には神話を人間的な物語として扱う軽妙な表現が目だつ。
それに対し,新古典主義の風土の中では神話・伝説は高邁な理想美を表現するための素材となり,
ロマン主義芸術においては人間の原初の状態への憧憬という心情が神話への関心の支え手となった。
19 世紀前半に神話主題を制作して対照的であったのはアングルドラクロアで,前者は神話の普及版テキストに従って字義的に忠実な古代世界の再現を試み,後者は神話の表面的な意味よりもその本質を絵画的表現に昇華してとらえることに成功した。
19,20 世紀を通じて,G.モローラファエル前派ルドンルノアールなど,神話主題を手がける芸術家は近代に至るまで途切れることがなかった。
これら近代の芸術家による神話表現の特質は,かつての美術でそうであったように神話がその時代の教養人に必要な知識とみなされているのではなく,芸術家をとりまく現実の裏側にある根源的世界を形成するものと考えられている点にあるといえよう。
現代美術においては神話的なものの表現はきわめて例外的であり,芸術家の個人的選択によって行われているにすぎない。それは,現代人の抱える思想的課題が,古典古代の神話的イメージを介して表しうる西欧的諸観念によっては取り扱うことのできない,全地球的な広がりをもつものになっている事実と,深くかかわっているといえよう。 by 鈴木 杜幾子
【後世とのかかわり】
ギリシア神話と後世とのかかわりは二つのレベルで考えられよう。
一つは芸術上の影響であり,今一つは神話学の対象としてのものである。
西欧世界の全面的なキリスト教化によって,
ギリシア神話の神々は宗教的崇拝の対象としては死滅するが,
前掲資料にとどめられた彼らの形姿はさらに後世に生きのび,とくにルネサンス以降は現在に至るまで文学,美術,音楽の分野で創造的な影響を及ぼしつづけている。ごく一部のとくに顕著な例にとどめるが,美術ではボッティチェリ,ティツィアーノ,ルーベンス,ベルニーニ,文学ではダンテ,ミルトン,ラシーヌ,ゲーテ,現代ではサルトル,コクトー,T.S.エリオットを,音楽ではグルック,ベートーベン,オッフェンバック,R.シュトラウスを挙げることができよう。

Wikipediaの各国版に種々の作品イメージが出ている。ギリシア神話と西欧には、「イタリア人文主義の絵画の主題だけではなくボッティチェリが更に多くの絵画を描き、ルネサンス期のレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロをはじめ、コレッジョ、ティツィアーノ、カラヴァッジョ、ルーベンス、ニコラ・プッサン、ドラクロア、コロー、ドミニク・アングル、ギュスターヴ・モロー、グスタフ・クリムトなどもギリシア神話に題材を取った絵を描いている。」とある・・モローですね・・

Gustave Moreau Prometheus
"Gustave Moreau Prometheus" by Gustave Moreau - The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2002. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons.

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