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神話

神話学

 

神話学 しんわがく mythology

神話の研究の歴史は,古代ギリシアまでさかのぼらせることもできるが,近代的学問としての〈神話学〉は,19 世紀後半に,比較言語学の成果に刺激されてギリシアやインド,ゲルマンなどインド・ヨーロッパ語系の民族の神話を比較研究した,マックス・ミュラー(※1)やアダルベルト・クーン ら, 〈自然神話学派〉の学者たちによって創始されたと見ることができる。

自然神話学派

フリードリヒ・マックス・ミュラー(Friedrich Max Müller, 1823 - 1900)は、ドイツ・デッサウに生まれ、イギリスに帰化したドイツのインド学者(サンスクリット文献学者)、東洋学者、比較言語学者、比較宗教学者、仏教学者。Wikipedia2015年1月30日閲覧

ミュラーは神話を言語の病によって生じたと主張し、またインド神話とギリシア神話の固有名の間に対応関係が見出せるとした。さらに印欧語族神話を太陽神話として読み解くことを提唱、同様に神話を暴風神話として読み解いたアダルベルト・クーンらとともに自然神話論的な解釈を展開した。ミュラーの言語偏重ともいえるこうした学説はその後マンハルトらの儀礼を重視する神話の研究者たちに取って代わられ、両者の影響をうけたフレイザーを継いだ人類学的な解釈などによって明確に否定された。ミュラーの研究は現在では省みられないもの、一時は1学派を形成し、現在にいたる神話学の隆盛に火をつけた。

アダルベルト・クーンAdalbert Kuhn (1812‐81)

初期の人類学

すべての神話を,太陽や嵐など印象的な自然現象に結びつけて解釈したこの派の学説は,やがてアンドルー・ラングによって代表される〈人類学派〉からの徹底的な批判を浴びて鰻落した。
その後,二十世紀の前半には,タイラーやデュルケームら初期の人類学者たちの説に基づき,すべての神話が〈儀礼〉を母体として,その説明のために発生するとみなした〈儀礼説〉が隆盛をきわめた。この説も今日では,現地調査に基づく人類学の進歩によって,根本的に誤りだったことが明らかにされ,ようやく衰退した。

アンドルー・ラング
タイラー
デュルケーム

しかしその立場から著された《金枝篇》に代表されるイギリスの古典学者・人類学者 J.G.フレーザーの膨大な著作は,神話研究にとってきわめて貴重な資料の集成として,高い価値を現在でも失っていない。
現在の神話学を代表する権威の双璧は,フランスの比較神話学者デュメジルと,人類学者レヴィ・ストロースである。
デュメジルは,〈自然神話学派〉とはまったく異なる構造分析的な比較の方法と,すぐれた語学力を駆使して,インド・ヨーロッパ語系の諸民族の神話は元来,彼が〈3 機能体系〉と名づけた独特の世界観を反映し,共通の構造と内容を持っていたことを明らかにした 。

構造人類学

他方レヴィ・ストロースは,彼自身が〈構造人類学〉と名づけ,神話研究をそれまでの〈試行錯誤〉の段階から厳密な〈科学〉に革新すると標榜したきわめて斬新な方法により,南北アメリカの原住民の神話を縦横に比較しながら分析してみせ,賛否両様の多大な反響を呼び起こした。
その成果を集成した 4 巻の《神話論》は,随所に論理の飛躍や強引なこじつけが目だつが,神話学のみならず,現代の思想や文化の全般にまで及ぼした重大な影響によっても,この論著はやはり,デュメジルの膨大な著作と並び,現代神話学の二大金字塔と評価できる。

デュメジル

デュメジル 1898‐1986
インド・ヨーロッパ語系の諸民族の神話を比較研究し,その共通の構造と内容とを明らかにした業績によってとくに著名なフランスの言語学者,神話学者。アカデミー・フランセーズの会員でもある。インド,イラン,ゲルマン,ケルト,古代ローマなどの神話が,共通した〈世界観〉に基づいて組織されていることを明らかにした。それは,(1) 祭司と,(2) 戦士と,(3) 生産者のそれぞれが人間の社会で分担している役割と基本的に照応する 3 種の原理が,宇宙秩序の維持のためにも,あらゆる分野で協同しているとみなすもので,この世界観を〈インド・ヨーロッパ3 機能体系〉と名づけた。この発見を出発点にしてインド・ヨーロッパ神話を縦横に比較分析し,学界のみならず思想界にも衝撃を与えた。大著《神話と叙事詩》3 巻 (1968‐73) のほかに,単行本だけで 50 冊を超える著書がある。カフカス諸語など,言語学の分野でも重要な研究がある。 ・・『平凡社世界大百科事典1988年版』吉田 敦彦

「三機能仮説」

1938年、デュメジルはインド・ヨーロッパ語族の三機能イデオロギー、すなわち、インド神話における祭司階級・戦士階級・生産者集団の三区分と、ローマの三神(ユピテル・マルス・クィリヌス)が対応し、そのそれぞれの職分と機能が共通する構造を持っていることを発見

「支配する人、守る人、生産する人」という区分は普遍的なものであって印欧語族に特有のものではない。これに対してデュメジルは、少なくとも旧世界において三区分がイデオロギーとして諸構造に深く影響を与えているのは印欧語族以外見当たらないと反論する。また、三機能構造はデュメジルが恣意的に見出したもので、ほかの文献からそれらを「発見」するのは容易で旧約聖書からも見つかるとの批判

多くの神話学者や宗教学者は三機能仮説を受け入れ、それに沿って研究を進めている。たとえばエリアーデ、スティグ・ヴィカンデル、スコット・リトルトン、ブルース・リンカーン、日本でも吉田敦彦や大林太良が積極的に紹介し、日本神話解明に利用している。歴史家のジョルジュ・デュビイも三機能説を中世史研究に応用している。 ほかに、ミシェル・フーコーなどもデュメジルからの影響について言及しており、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著「千の高原」などでもデュメジルの理論が用いられている。

レヴィ=ストロースのいう「構造」とは人間の心性の働きに含まれる普遍的な規則であるが、しかしデュメジルにとって「構造」とは印欧語族の文献学的な研究によって導き出される可能性としてのプロトタイプであり、決して人類一般に見られる構造ではない。

fromWikipedia2015年1月31日参照

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
デュメジル,ジョルジュ:「新比較神話学」を確立し、バンヴェニスト、レヴィ=ストロース、フーコーらとともに人間科学全般の革新に寄与した

アマゾンのレビューによれば エリアーデの「世界宗教史」でも大幅に引用されているジョルジュ・デュメジルの比較神話学の業績をまとめた「デュメジル・コレクション」全四巻 ・・ということだ。

他に 「 デュメジルもファンタジーの源泉になってしまう時代なんだなあ、…と何気に感慨深い。 」というレビューもあり・・。 ( 一応出しておきますが、背表紙眺めるくらいで。 )

復習

ミルチャ・エリアーデ(Mircea Eliade,1907- 1986年シカゴ):ルーマニア出身の宗教学者・宗教史家、民俗学者
エリアーデの思想(学問的な流れ)は、ルドルフ・オットー、ヘラルドゥス・ファン・デル・レーウ、ナエ・イオネスク、伝統主義派(Traditionalist School)の業績に部分的な影響を受けている。エリアーデは、ヨアン・ペトル・クリアーヌなど多くの学者たちに決定的な影響を与えた。宗教史に関する業績では、シャーマニズム、ヨーガ、宇宙論的神話に関する著作においてもっとも評価されている。シャーマニズムにおいては、憑依ではなく、脱魂(エクスタシー)を本質と説いた。wikipedia2015年1月31日閲覧

スティグ・ヴィカンデル
スコット・リトルトン
ブルース・リンカーン
ジョルジュ・デュビイ(Georges Duby, 1919-1996)

吉田 敦彦(よしだ あつひこ、1934- ):日本の神話学者で多数の著書がある、学習院大学名誉教授。byWikipedia2015年1月31日閲覧)
大林 太良(おおばやし たりょう、1929(昭和4)年- 2001(平成13年):日本の民族学者。東京大学名誉教授。世界中の神話の中で太陽や月、星、王権や死などがどのように語られているかを項目ごとにまとめる壮大な作業に着手,志半ば Wikipedia

 以下平凡社世界百科事典(1988年版)の  嶋村 誠三解説より追記

エウヘメリズム

ギリシア神話についての解釈もギリシア自身に始まる。 前 6 世紀の自然哲学者クセノファネスはその擬人観を批判したし ,同じ世紀のテアゲネスは神々を擬人化された自然力または倫理的原理とみなすことで神々の栄誉を救おうとした。 寓意的解釈の濫觴 (らんしよう) であった。
今一つの有力な神話の合理的解釈であるエウヘメリズムeuhemerismも ヘレニズム時代のギリシア人エウヘメロスEuh^merosに由来する。 神々といっても,もとは有力な事績を残した人物にすぎなかったとするこのエウヘメリズムは,後のキリスト教教父たちが異教の神々をおとしめるかっこうの武器となったものであった。
神話研究の萌芽はこのようにギリシア自体にあって,以来長い歴史のうちにさまざまな理論が提示されてきたが, 神話を神話の地平で, つまり宗教的な現象として取り扱う視点が開かれてきたのはやっと 19 世紀のロマン主義の時代,とりわけシェリングにおいてのことであった。 以来,神話の意味はますます見直され, 単なる未開心性の発現とか,芸術的空想力の所産としては済まされなくなった。 ギリシア神話へのアプローチは現在も多様であるが, 人類学民族学的研究,デュメジルの印欧比較神話学, ユング流深層心理学の立場, W.F.オットーの文献学的解釈, それらはそれぞれに神話のうちに自然, 人間本性,人間集団についての大きな真実の現れを認めようとするのであって, 今日ほど真摯 (しんし) な関心が神話に寄せられた時代はなかったと言えよう。by 嶋村 誠三 (平凡社世界大百科事典1988年版)

以上、神話学のアウトラインでしたが・・1990年代以降の展開については、まずWikipediaに、現代の神話研究と神話学があり、ユングaion.htmlと、カール・ケレーニイ(Karl Kerenyi, 1897- 1973)の名があります。tikuma.htmlにちくま学芸文庫の文献表をだしていますが、それでだいたい網羅できるようです
( キュモンroma/cumont.html、キャンベルroma/campbell.htmlの名が欲しい)

話をギリシア・ローマ神話の美術表現に戻します・・

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