
口絵7 「天の窓」)「聖母の死」部分) 聖ゲオルギオス教会 スターロ・ナゴリッチーノ
Frescos in St. George's Church (Staro Nagoricane) 1317 AD 🄫岩波書店
辻佐保子『中世絵画を読む』(岩波セミナーブックス1987)
擬人像の話があるようなので読むことにした。モノクロミーの話で興味深い。
上(口絵7の)図、部分的モノクロミーの例として挙げられたフレスコ画が特に印象的であった。
このフレスコ画のある、
「スターロ・ナゴリッチーノの聖ゲオルギオス教会」をだいぶ検索した。
もとユーゴスラビア、今、北マケドニアにあった。(fr.wikipedia)
St. George Church in Staro Nagoričane, Macedonia
ぱっと見ると、廃寺イメージだったのだが、下の写真のキャプションでは「保存状態がよい」とある。
Staro Nagoricaneは、1313年から1318年の間にセルビアの王、ステファン・ウロシュ ミルチンによって建てられた聖ジョージ教会で知られている。建物は14世紀セルビア・ビザンチン様式でその内部は保存状態の良いフレスコ画で覆われている。人口約4500人。
追記
(20191003)
なお、辻佐保子関連「世界美術大全集 」の
「西洋編7・西欧初期中世の美術」(1997)は
→ 目次読書
辻佐保子・邦生 月報対談、
石棺の美術
(+巻末特集テーマ
「聖堂装飾プログラム の発生と展開」)
と見ましたが、まだ、
「西洋篇6・ビザンティン美術」はよくみていませんでした。この聖堂は、そちらで図版124・125でしっかり紹介されていました。、
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この写真のキャプション
「聖ジョージ教会は、マケドニア共和国のクマノヴォ近くのスタロナゴリカン村にある正教会です。建築とフレスコ画の両方で注目に値します。教会は1071年に最初に建設され、1313年から1318年の間にセルビアの王ステファン・ミルタンによって再建されました。
この再建期間中、教会の壁はミハイロとエフティヒによるフレスコ画で描かれ、その中にはステファンミルタンと彼の女王シモニダが描かれています。ブルガリアの皇帝マイケル・シシュマンは、1330年にセルビアの王ステファン・ウロシュ3世デチャンスキとの戦いでベルバズドの戦いで亡くなった後、この教会の壁に埋葬されました 」
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Church of Saint George in Staro Nagorichino, George slaying the dragon,
なおいろいろ興味深いフレスコ画があるようだ。本文でも引用されている。
まずは口絵写真の教会を眺めたところで、目次読書に入る。 (目次に添付の図像は中扉絵の関連)
目次
Ⅰ 不可視世界の異次元化
異次元性を表示する第一の方法:
神聖な存在に人ブスや光背を加える
金地や金彩を用いる
これと同時に、モノクロミー(単色)彩色法は、霊的世界の超越性「この世のものならぬ」気配を描出するのに役立った。
この種の作品はすでにローマの室内装飾の中で独自の役割を果たしていた。
Ⅱ 古代ヘレニズム・ローマ絵画におけるモノクロミ―表現
(a)「技法としてのモノクロミー」
(b)「部分的モノクロミー」
museocapodimonte.beniculturali.it/
「港湾風景」 ナポリ国立美術館
夕焼け空のモノクロミー→「古代印象主義」(p32)
激しいタッチのハイライトを駆使し、
影付け(スキアグラフィア)を強調した省略的技法
(ローマの壁画装飾を四様式に区分:19世紀 A・マウ~)
第二様式の盛期から第三様式にかけて集中的にみられる。
多くの場合、建築物を含む遠景風景。
もっとも直接的な模倣関係は、ファルネージの遺構の繊細なアッティカ風スタッコ浮彫の再現描法
(1) 遠景描写のモノクロミー(希薄な光線) Ⅲ 初期キリスト教時代(四―六世紀)の絵画のケルト古代伝統の継承と変質
(a)「部分的モノクロミー」の諸条件の継承
(b)モノクロミー彩色の変質と新しい意味付け

エリアナ皇女への写本献呈 ディオスコリデス薬草図鑑
(ウィーン国立図書館)
文様図形のブルー地の七区画の中に、
大人の職人の仕事をまねて遊ぶプッティがモノクロームで描かれている。(p69)
上端余白の銘:皇女の貢献を賛美している。
エリアナ皇女は「智慧(ソフィア)」をかたどり、
両側の女性擬人像は「知性(フロネーシス)」「雅量(メガロプシネア)」
「古代遺産の多くは、このような
寓意的造形表現の形を通じて後世に伝えられてゆくのです」(p69)
Ⅳ 背景の消失と金地の導入、「彩られた雲」と光背の形成
(a)自然主義的背景の無機質化と「彩られた雲」の役割
(b)黄金地の導入とその余波
(c)交配の形成とこれによる異次元化
「象徴的キリスト変容」ほか サンタポリナーレ・イン・クラッセ教会 アプシス
ラヴェンナ(→photo byM 201706)
Ⅴ 自然主義的テオファネイア
(a)「技法としてのモノクロミー」の復興
(b)マケドニア王朝の写本挿絵におけるr古代絵画技法の復興
(c)カロリング・オットー朝写本挿絵

「イザヤの祈り」パリ詩篇(パリ国立図書館)
Requesting Isaiah, Nyx on the left is represented according to hellenistic conventions
「夜汝をしたい曙に汝を求む」(イザヤ書26章9節)
優雅な身ぶりのメランコリックな「夜」の女性擬人像 。
「夜」 火の消えた(?青い灯明)を伏し目がちに下に向け、肌も衣装も完全に青紫色にそまっている。背後の木も心なしかやや色を失っている。それにもかかわらず、背後の空間は完全に無機質な金地で埋められいる。理論的には一種の自己撞着。
「曙」の少年と対をなす点も含めて、古代末期の石棺浮き彫りにしばしば表わされた眠るエンディミオンを良いるごとに訪れるセレネ―(月の女神)を姿を連想させる。(p111‐113)
Ⅵ 不可視世界のモノクロミーの完成(東方キリスト教圏の中期、末期)
(a)「天の扉」と天使たち
(b)「楽園の扉」とケルビム
(c)天地創造をかたどる光背、光背の中の天使と四象徴
(d)地獄の光源と地獄部屋
(e)「最後の審判」の定型とその伝播
(f)西欧中止絵の地下界
(g)その他の図像の中の悪魔

「智慧の七つの柱の神殿」イコン トレチャコフ美術館 モスクワ
下部左の円内「智慧」の女性擬人像
右上 聖母子像
ソロモンの箴言 第9章
1 知恵は自分の家を建て、その七つの柱を立て、
2 獣をほふり、酒を混ぜ合わせて、ふるまいを備え、
3 はしためをつかわして、町の高い所で呼ばわり言わせた、
4 「思慮のない者よ、ここに来れ」と。
また、知恵のない者に言う、
5 「来て、わたしのパンを食べ、わたしの混ぜ合わせた酒をのみ、
6 思慮のないわざを捨てて命を得、悟りの道を歩め」と。
Ⅶ 中世絵画におけるモノクロミーのその他の用例
(a)水中のモノクロミー
(b)火中のモノクロミー
(c)ガラス、金工細工、彫像のモノクロミー

「異教の彫像」アトス山エスフィグメヌー修道院の写本
Esphigmenou(希臘) (en.wikipedia)
Ⅷ モノクロミー彩色の新たな展開(西ヨーロッパ中世末期)
(a)モノクロミー彩色の新たな展開
(b)夜景の活用
(c)大気に染まる天使と悪魔
(d)金彩並びに白色のモノクロミー
(e)グリザイユ絵画
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「キリスト逮捕」ジャン・ピュセル ジャンヌ・デヴル―の時祷書
The Hours of Jeanne d'Evreux by Jean Pucelle
Heures de Jeanne d'Evreux; 15v/16r クロイスター美術館NY
あとがき(p289)
図版目録
ざっと一読して、
こちらのテーマの擬人像関連をもう少し見ることにします。
Ⅱ(7)(p39)擬人像や架空の生物(天然モノクロミー)
オデュッセイ風景画
船を岸に送り付ける風神たちが、暗灰色の運紺の中で同色で描かれ、禿山の上に横たわる山岳の擬人像が同じく茶褐色に塗られている。
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Landscape with Odysseus, fresco from Via Graziosa
(c. 60-40 BC, Vatican Museums)
Römischer Meister um 125 v. Chr.

柳宗玄「自然景―東と西」『東西の風景画』静岡県立美術館、1986年
越宏一『ヨーロッパ風景画の出現』岩波書店、2004年(✳)
Ⅲ 写本挿絵における部分的モノクロミーー
図9 「冥界の入り口で諸悪の擬人像を眺めるアエネ―アスとシビラ」 ウエルギリウス・ヴァティカヌス(ヴァチカン図書館) (5世紀ころ)
「万物の色は黒夜にうばわれて」モノクロミーと化す、諸悪の擬人像(老年、恐怖、貴金、窮乏・・8体の女性裸体像)は、「霊」、「沈黙の影」であり、「空しき宮殿、仮象の国」に住む。8なお、画面下半分にはヘラクレスが退治した怪物たちが並んでいるが、なぜかポリクロミーで描かれている)
Greco-Roman mythology, Aeneas
デジタルアーカイブVat.lat.3225
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San Marco interior
「光と闇、昼と夜の創造」サン・マルコ大聖堂ヴェネツィア
「光と闇の天使}(p73)口絵3 🄫岩波書店
二体の擬人像でなく
一体の 天使の体が明暗に染め分けられている。
」光の側に比重をかけた天使の着想に
深い精神性を帯びている。」(p75)
Ⅲ モノクロミー彩色の変質と新しい意味付け
プッティと擬人像(p68)
「天然モノクロミー」(しばしばピンク一色)

Ⅳ 「パリ詩篇」の紅海渡渉の挿絵(口絵4)(p110)
上半部:照明された夜景の微妙なモノクロミー、星のついたヴェールをかざす夜の擬人像「ブルーのモノクロミー」しかし奇妙に不自然(マケドニア王朝の観念性を示す)
地面に腰を下ろした「砂漠」、櫂を肩にかつぐ「紅海」、身を屈めるファラオの腕を海中に引き込む「深淵」など数多くの擬人像が登場している。(しかし、モノクローム化していない)
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アトス山の想像図:アレキサンダー大王の記念碑、
ヨハン・ベルンハルト・フィッシャー・フォン・エルラッハによる彫刻、
Entwurff einer Historischen Architektur、ライプツィヒ、1725年
- アトス山:ビザンチンキリスト教の不思議、アンドレ・パレオログ、コレクション
Jean Pucelle:
The Hours of Jeanne d'Evreux, Queen of France
Book of Hours; Manuscript; Manuscripts and Illuminations
Date circa 1324 –28
Medium Grisaille,
tempera, and ink on vellum
Dimensions
9.2 × 6.2 cm
Metropolitan Museum of Art
非常に興味深いが、ここまでとする。
→用語グリザイユgrisaille(高橋裕子『美術のことば』)
→大聖堂のグリザイユ窓
→池上英洋『よくわかる名画の見方 読み解くための100のキーワード』