唐草図鑑
聖樹聖獣文様

 フランスのロマネスク建築の復習の饗庭孝男さんの項目からの続きで、『ヨーロッパ古寺巡礼』の目次読書です・・(第二章の抜き書き)

『ヨーロッパ古寺巡礼』の目次読書

饗庭孝男著(1995年5月新潮社)

目次読書

はじめに
第一章 中世の歴史と教会

第二章 教会、修道院の場所と機能
たてられた場所、回廊、正面玄関、柱頭彫刻、壁画

第三章 プロヴァンス地方 
第四章 ブルゴーニュ地方

第五章 ロワール地方 
第六章 ポワトゥー、サントンジュ地方
第七章 ブルターニュ地方

第八章 オーヴェルニュ地方 
第九章 アルザス地方
第十章 ラングドック、ルシヨン地方と南西部 
第十一章 カタルーニャ地方

第十二章 ロンバルディア、リグリア、ピエモンテ地方
第十三章 トスカーナ、ウンブリア、シチリア地方 

かりそめに通り過ぎた頃
十分に愛(いつ)くしむことができなった、もろもろの場所への郷愁よ
そうした場所へ、遠くから、何と私は送りたいものものだろう! とおくから、何と私は送りたいものだろう!
忘れていた身ぶりを、おぎないの行ないを!
(ある詩人の一節 p8)✳

もちろんこの詩人は中原中也かと思えたが、リルケで
「果樹園」Rainer Maria Rilke (1875-1926)

第二章 教会、修道院の場所と機能

たてられた場所、回廊、正面玄関、柱頭彫刻、壁画

正面玄関(とは)

教会正面は地上における「神の国」への入り口
ナルテックス(洗礼者志願室)
正面玄関の左右の柱に「教会を支えた」人々(「支える」比喩)ローマ的な顔貌をもつ
入口上部「半円形壁面」・・かってケルトの地に人間の精神が宿る首が並べられた
賦彩(ポリクロミー)(色当初は塗っていた)(p42)
半円=神の「宇宙」精神的な上昇性を示す
半円形壁面の周辺ヴシュール(個々には飾り迫縁=アルシヴォ―ルト)

動物の象徴について

十字架は本来エジプト起源の輪付きT字型十字=生命力
3~5世紀までは単独でキリストを意味することはなかった。
代わりにあったのは鳩や魚などであった。(p47)

鹿「死に対する力」(生命)・・「グノーシス派」では悪魔のシンボルである蛇を探して食べるから不滅の意味
(誘惑)に勝つ存在としてあがめられた。
ケルトでは森の聖獣。多義的かつ、原初的な働き

孔雀・・肉は腐らないとされ「不滅」の象徴
日本に伝えられた孔雀明王も薬効を持つとされる
『ゾディアック動物誌』によれば、その胸の青は天国への希求を、翼の赤は黙想に満ちた愛を、長い尾は未来を、広げた翼は調和に満ちた秩序を表すという。きわめて古い象徴。

ゾディアック(黄道十二宮)について

黄道十二宮はオリエントの天文学によるというが、メソポタミアで始めた用いられた。
体系化されたのはギリシャ(紀元前3世紀)
天秤宮を別にすれば全ては動物名であるから「獣帯」とも呼ばれる。ロマネスク教会シリーズの叢書を『ゾディアック』と呼ぶのもここからくる。
ギリシャ語(Zodiakos Kyklos=動物の円)
5~10世紀に及ぶ周辺諸文化の状況の変化に従い、ロマネスク期以降、再びよく用いられるようになった。
「動物誌」的なシンボル体系とともにキリスト教文化の属性、その基層部分を示す重要な記号となる。(p54‐55)

柱頭彫刻

モワサックのサン・ピエール教会回廊にある76の柱頭彫刻の比重が『旧約』に傾いているのも「千年説」になお支配されていた時代の反映
「ルネサンス」として十三世紀が迎えられ、以後次第に『新約』の主題が多くなってゆくのも一つのなりゆき(p49‐50)

以下は 私の関心の中心なので長く引用する・・・(引き続き第二章)

ギリシャ時代、
ドーリア式では「アバカス」という方形の盤の皿に「エキヌス」という単純な横線の入った柱頭であったが、
イオニア式となると、二つの渦巻きが左右についた柱頭の下に若干の植物文様がつくようになる。(p55)

草の葉が二重に巻きつけられ、葉の間から巻き蔓(8本)や花、ある意か唐草が装飾を形作る。この草は主としてギリシャの野のどこにでもあるアカンサスの葉である。(p55)

ここで再度『図説 ロマネスクの教会堂』の葉飾り柱頭の系譜も参照しておきたい。 

次のローマ時代は
イオニア式やコリント式の混交型か無装飾であった。
ガロ=ロマン(5世紀)からプレ・ロマネスク以降になると、多様な主題が柱頭に花咲く。(p55)

聖書的主題を含め、また建てられた教会の地方性も入り、さらに民族の移動に伴う諸文化の装飾がまじりあってロマネスク期に至る(p55)

たった一人の職人によってつくられることもあり、その時は職人の「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)的創造力が展開される場合が多い。
*例 ピレネー山麓のサン・ミシェル・ド・キュクサ修道院回廊

しかし、長い時間的距離をもってすれば、表現には、「個」と共同体を超えた歴史の中の美意識が反映する。
キリスト教の高揚期というロマネスク期には、人間より神の尺度が中心、宗教的パトスが現象としての芸術の構造を決定する。(p56)

そこに多くの周辺諸文化が、具体的に写本、象牙彫刻、金銀細工、織物、聖遺物箱、それに加えて石造工法などの装飾や技法的媒介を経ながら、中心としてのキリスト教文化を支えている。

具体的には、写本の精密画が半円形壁面に用いられ、象牙細工の技法が飾り迫縁の彫刻に使われるというように。
さらにはケルトの組み紐文様が柱頭彫刻にあらわれ、逆に柱頭彫刻の図柄が他の分野に用いられ、変形されながら息づく。(p56)

植物文様

ブルゴーニュ地方のディジョンにあるサン・ベニーニュ教会地下墳墓の大ぶりな葉文様や
カタル―ニア地方のリポール修道院、イタリア、ウンべリア地方のサン・ニッコロ教会における柱頭彫刻などの植物文様は、素朴で粗い。 (p56)

フランス、サントンジュ地方のサントにあるサン・トゥトロプ教会の地下墳墓(クリプト)・・多きは古代的葉文様やブドウ蔓文様が人目を引く。こうした場所にいると太古の森の中にいる感がある。

アンリ=フォション(『ロマネスク彫刻』)が「ブドウ蔓に囲まれた小鳥、瓶から水をの葡萄などをアレクサンドリア風のテーマである」とのべているものもある。
この様式もロマネスクに多い。(p57)

アカンサスと棕櫚葉文様(パルメット)の組み合わせもよく見られる。

他の動物をも組み込む植物文様は石の柱や壁面に対する生命的な刻印ともいえる。
植物の蔓のみならず、花や果物があり、さらに人面がその間から現れているものは、石造建築の持つ幾何学的構造の生命化とも考えてよいだろう。

それは、メタモルフォーズを意味する幻想動物と同じく、アジア的な表現をも示している。

他方清楚な、ほとんど線刻に近い葉文様はシトー会修道院の柱頭彫刻にある。

カロリンガ朝の後にあらわれたロマネスクは石の壁面に対する装飾というより、石の量塊に対して作業する。

柱頭彫刻は、地方性の様式的偏差はあれど、いずれも量塊的で劇的性格が他の壁面の彫刻や装飾とは判然と異なる。

聖書的主題は柱頭彫刻に、まるで短編小説か挿話(エピソード)の様に刻まれている。
オータンのサン・ラザール教会、東方の三博士という主題を描いた中でもっとも美しい。ブルゴーニュ派の持つ繊細、精妙を究めた彫りである。(p59)

本来ブルゴーニュ地方の彫刻はリアリズムをもち、ヘレニズム的均衡の様式をもつ。
クリュニー修道院の古い柱頭彫刻は、いずれも流麗で大きく、中でも「天国を流れる四つの皮の一つ」や「アダムとエヴァの誘惑」は魅力的である。しかも人身は壁面とかかわりなく自立し、ヘレニズム的といってよい。

劇的で物語性に満ちた柱頭彫刻といえば、ピレネー山麓のサン・ジュスト教会入り口の聖エレーヌほか四人の聖人が重要。人像柱で頭の各々の上にその挿話が描いてある。
彫刻というイメージ言語の見事な勝利というべき。(p61)

回廊の柱頭彫刻
モワサックのサン・ピエール教会回廊にある76の柱頭彫刻は、聖書的主題と、抽象的、あるいは植物や動物文様、組紐文様の交替のリズム感の中に、イメージ言語としての啓蒙性を発揮して見るものを飽かせない。(p61)

植物の迷宮的繁茂がもし生命化のエネルギーを示すものであれば、組紐とは、結ぶという意味において呪術的であり、したがって人為的なものだ。生命化と呪術は、石の即物的な物質性を変容し、壁面をその素材性から遠ざける。

他方、メタモルフォーズはヘレニズムにおける「人間化(アントロポモルフィック)」な動きに対する抵抗であり、、生命の輪廻、相互交換性の無限化、自由化のあらわれであろう。それはまた、人間の想像力が、有限なもの、明確なもの、あるいは合理的なものへの反動として息づいているといってよい。(p62)

地方別の古寺巡礼のうち、今回行く予定の地方、
第四章 ブルゴーニュ地方
第十章 ラングドック、ルシヨン地方と南西部 の教会名を 以下に・・

饗庭孝男著『ヨーロッパ古寺巡礼』から(1995年5月新潮社) 

第四章 ブルゴーニュ地方
サン、ベニーニュ教会(ディジョン)
サン・フィリベール教会(トゥルニュ)
クリュニー修道院
ベルゼ・ラ・ヴィル礼拝堂
アンジ・ル・デュック教会
パレ・ル・モニアル教会
シトー修道院
サン・タンドォシュ教会
サン・ラザール教会(オータン)
サン・マルタン教会(シャぺーズ)
サント・マドレーヌ教会(ヴェズレー)
フォントネ―修道院

第十章 ラングドック、ルシヨン地方と南西部
サント・フォア修道院付属教会(コンク)
サン・テチェンヌ教会(カオール)
サン・ピエール修道院付属教会(モワサック) 
オピタル・サン・ブレーズ教会
サント・クロワ教会
オロロン・サント・マリー教会
サン・サヴァン教会
ノートル・ダム・ド・レスカ―ル教会
サン・ジュスト教会(ヴァルカブレール)
サン・ベルトラン・ド・コマンジュ教会
サン・タヴァンタン教会
サン・マルタン教会(ウナック)
サン・ミシェル・ド・キュクサ修道院
サン・マルタン・ド・カニグー修道院
セラボンヌ修道院
サン・セルナン教会(トゥルーズ)
サン・ギレーム・ル・デゼール修道院
サン・マルタン・ド・ロンドル教会
サン・ピエール・ド・レッド墓地教会

フランスロマネスク→の旅計画2019に戻る

  あとがき(1995年3月)に、日本の「近代」の成立と密接にかかわっている「西欧」像への検証を促す機運となった専攻のフランス文学での「回心者」たちの話、それから、吉川逸治、柳宗玄、辻佐保子各氏らの中世美術に対する学殖にあふれた業績に接するようになり、特に1967年の留学以降、各地の教会や修道院を歩くようになったこと、「もとより、私の専門は美術史ではなく、中世美術史家の諸業績から計り知れない恩恵と啓示を受けるばかりの人間である」が、明治以降の日本「近代」における「西欧」像の修正に、わずかに寄与できれば、とある。「なにより自然の中に息づいている教会を眺める時、私はいい知れぬ安らぎと喜びを憶えるようになった。」というのが沁みる。

図版の一部をアンリ・フォションの著書から転載させていただいたとある・・(p390) →アンリ・フォションに戻る

これ以前の(この書の24年前の)饗庭さんがヨーロッパについて最初に書いた本『石と光の思想』の目次読書はこちらに・・

 

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