Lucianus (fictional portrait).
Engraving of the English painter William Faithorne.
まあ、ルキアノスはこのような風貌の人であったとしよう。(en.wikipedia/William_Faithorne の17世紀の画)
2世紀の古代ローマ人といったら、こんなであろうと思うが、ルキアノスは、帝国の極東のトルコのサモサタ出身。ギリシャ語で執筆したアッシリア人の風刺作家という。
『本当の話』はアテネで執筆したとen.wikipediaにある。(20200620閲覧)
この人について見ておくべき用語としては、紀元前3世紀の「メニッポスの風刺」(Menippean satire)の模倣(ミメーシス)ということがまず挙げられている。散文での風刺、間接風刺をさすという。
マーシャルマクルーハン:「私の執筆のほとんどはメニッペ風風刺であり、私たちが住んでいる世界の実際の表面を馬鹿げたイメージとして提示しています。」
Lucian of Samosata ( c. 125 – after 180 AD) en.wikipedia
His most famous work is A True Story, a tongue-in-cheek satire against authors who tell incredible tales, which is regarded by some as the earliest known work of science fiction.(en.wikipedia/Lucian)
ここで、『本当の話』は空想と空想風刺にあふれる作品とされ、空想動物/怪物が数々出てくるので、 見てみよう。
『ルキアノス選集』(国文社 叢書アレクサンドリア図書館Ⅷ 内田次信訳 1999)の解説(p427)より引用すると、
葡萄木女(根元は葡萄の木、上体は女)に始まり、
キャベツ尻尾月世界人(耳も植物)―彼らはさらに大禿鷹や菜の羽鳥にまたがる―
雲ケンタウロイ等々が、無限のように立ち現れては消えてゆく・これらの空想的混合生物によって、詩人、歴史家や哲学者の気まま放縦な妄想を笑う。
ちなみに「本当の話」は上記『ルキアノス選集』には含まれておらず、『古代文学集』(筑摩書房世界文学大系64 1961)を参照します。
呉茂一(1897‐1977)、高津春繁(1908‐1973)訳
p87~110
The True History at sacred-texts.com
クテーシアス、イアンブ―ロス・・その他にもたくさんな人たちが好んで、自分の旅行記とか漫遊談とか称しては、巨大な動物や野蛮な人種のことや奇異な風俗などについて述べているが、こうした連中の先達とも彼らのでたらめの師匠というべきは、かのホメロスに出るオデュッセウス(p87)
※クテーシアス・・初めてユニコーンを語ったいっそのこと嘘の捏造に取り掛かろうと決心した。
私が以下に記すことことごとは、見たものでも経験したものでも他の人たちから聞いたのでもない、ぜんぜん存在もせずまたてんからありようもないといった事柄で、それゆえこれを読む方々はひらにひらにこの物語を信じてくださらぬようにお願い申し上げる次第である。 (p88)
ハハ・・〈(笑)〉
世界最初のSFとされる部分、月世界国の話などをざっと一読して、チェックに取り掛かるところであるが、ヘラクレスの柱に始まり、ディオニュソス、ダフネ―、・・雲居人馬隊・・やっぱりそれなりの勉強時間が必要です。・・続きます。(20200528)
自分の心が落ちつかずなんか変わったことをしてみたい、新奇なものに接したいという要求に燃え、その果てが、一つこの大洋の際涯をきわめてその向こうにはどんな人種が住んでるかしらべてみたいという考えを起こした。
年頃も同じ気分気心もあい似通った若者50人と最上の舵取りを高い給金でやっとすかして乗り組ませた。(p88)
嵐に見舞われた80日後、初めの島に
青銅の柱「ヘラクレス及びディオニュソス神来島の地点」
たくさんの魚のいるぶどう酒の河、その魚の腹には酒粕が詰まっている。(p88)
ぶどう酒の河の浅瀬を渡ってゆくと、とほうもない種類のぶどうの木に出くわした。
地面から出はじめの、根元はしっかりとよく育った幹であるのに、上の方は女の姿で、腹のところからすっかり人そのままの形をしている。わが国でもアポロンにつかまりかけて桂の木に変わりつつあるダフネ―をそんな風に描く。
ついひかされて近寄っっていった二人の程の仲間の者は、さわるともう離れようにも離れられず、しっかりと取りつかれてしまった、というのは見る見るうちに一つの木になってそこへ根を下ろし、その指先はみな小枝にかわってたちまちに蔓で取り囲まれ、そのうえに葡萄の房さえもう見えようというばかりのありさまであった。(p89)
禿鷲隊:エンディミオン国(月)の軍勢。
大きな禿鷲にまたがってちょうど馬みたいに使う人たち。
禿げ鷲はとも大きく頭が三つある。その鳥の持っいてる羽の一つ一つが大きな荷物船の帆柱よりもずっと長く丈夫。
兜は蚕豆(そらまめ)、胸甲は羽団扇豆(うちわまめ)は盾や剣はギリシアのものと同様(p90)
月世界には蜘蛛がたくさんいて、それがまたとても大きく、キュクラデスの島々より大きい。(p91)
月世界と明星との間の空に糸をかけさせ、その上に歩兵隊を配置した。
敵軍:パエトーン(太陽の住民ども)
左翼に乗蟻隊 とてつもなく大きい蟻馬 羽根を生やしている、5万
右翼に天虻隊(てんあぶ) 巨大な虻にまたがった弓射隊、5万
天手踊隊 徒歩の隊、遠方から大きな辛子大根を石投げで投げる、1千
茎茸隊(くさたけ) 接近戦、茸でできた盾を用い、槍としてアスパラガスの茎を使う、1千
犬団栗隊 天狼星(セイリオス)から派遣された同盟軍部隊、犬の相貌をして羽根の生えた団栗に載ってたたたく戦士、5千
銀河から派遣された雲居人馬隊(ネベロンケンタウロイ)
羽の生えた馬と人間がくっついたもの、人間部の大きさは例のロードス島の巨人像の上から半分くらい。
大将は黄道十二宮の射手星
パエトーン王は、凱旋ののち月と人のあいだの空中をすっかり城壁(雲でできている)で取り囲んで、太陽からの光線が一条たりとも月へ届かないようにした。
(講和条約で取り壊す)
月世界では、人が年を取ると、死ぬということはせず、煙のように溶けて空気になってしまう。
食物は、蛙、飲料は空気を圧縮して杯に入れ、そこから出る梅雨のような水分を飲むので、排泄もせずその機関も持っていない。
好男子とは禿頭
お腹は開いたり閉めたりでき、袋や鞄になる。中に腸(はらわた)がなくびっしり毛が生えている。
目は取り外しができる。耳は鈴懸の木の葉っぱ。
衣服は、金持ちは柔らかいガラス製、貧乏人は青銅を折ったやつ。
王宮の井戸とその上に掛けられたの大きな鏡がある。井戸のなかでは地球上の国の物事がなんでも聞こえ、鏡ではなんでも見える。
彗星ではこれと反対に髪の長いのが器量よし 膝のちょっと上にひげをはやし、足には爪がなく1本指 、臀部の上にしっぽみたいに長いキャベツの柄がくっついている。
鼻汁は蜜、汗は牛乳
船もろとも巨鯨に飲み込まれる。腹の中には人がいて、畑があった。千人以上いて敵対しているのを退治して、鯨の腹の中で1年8カ月暮らす。
高さ50間の 巨人が山を船にして、島合戦をしていた。舵取りは、8町余りも長さのある青銅の蛇を手にしていた。船首の方で、甲冑を着て戦をしている者は、髪の毛だけ火焔で茫々と燃えているので兜はいらない。
鯨を燃やして殺して、脱出。
島々・・キルク島 球形のキルクの上に建てられた国
かぐわしい香りの神仙の島。(幸福者の島)
英雄たち、勇士アキレウス、詩人ホメロスや七賢人ソクラテス、半神オデュセウスやなどが歓談。プラトンだけはいない。クレタのラダマンテュスが統治者(エリュシオンの野の統治者)。(ゼウスとエウロパの子)
ピュタゴラスも七回の転生をすまし、七通りの生き物になって世を過ごし輪廻を終えてやってきた。
葡萄など一年に十二度収穫がある。饗応。「笑い」と「楽しみ」の泉
ヘレネ―がキュニラスと恋仲になりチーズ島(牛乳の海)に逃亡するのを仲間が助けた咎で追放に。
わめいたり泣いたりして、このような幸せを後に残しまた再び漂流の旅に出なければならないことを嘆いた。そこの人々はそれでも幾年もたたないうちに、私がまた彼らのもとへ帰ってくるだろうと言って将来の私の椅子や臥床を上席に近いところで指し示して、大いに慰めてくれた。
ラダマンテュスは地面から錦葵(ゼニアオイ)の根を引き抜いて、いよいよという大難にあった際にはそれに祈れと教えてくれた。に7カ月滞在
灯明魚のいる罪人のいる島、門番はアテナイのティモン。一番ひどい刑を受けているのは嘘つきや本物でない歴史を書き記した者ども、クニドスのクテーシアスだのヘロドトスなど。
私は自分の行く末にいよいよ明るい希望を抱くことになった。私は一向に嘘をついた覚えがないからである。
夢どもの国 罌粟の木や曼荼羅華樹の森、島にすむ鳥類は蝙蝠だけ。
カリュプソーの島
「糸瓜の海賊」15間ほどもある糸瓜(へちま)の種子の中をうつろにして艀(はしけ)に仕立てる。敵は胡桃船人。
牛頭族(プケパロイ)蛮民の島 ミノタウロスの姿
自分自身が船、水面に横たわって腹にまっすぐな棒を立てて、帆布を張り両手で帆足を掴んで、そこに風をはらませてゆく。
そいつらの後にキルク板の上に座り二匹の海豚をつないでかけさせていく人種。
「驢馬の脛(はぎ)」と称する海の女ども。足が驢馬の形。旅人を餌食にする。水と化して逃げる。
あちらの大陸に行きつくまでの、海上或いは島々のあいだや空中での船旅において、またその次には鯨の腹中で、そこを逃れた後では英雄たちの島や夢の国や、しまいには「牛頭人」や「驢馬の脛」のところでもって私の身の上に起こった一部始終である。
これで、ルキアノスの「本当の話」という嘘の捏造??の一読終わりである。空想動物は、「とてつもなく大きい生物」というのが、みそかな?
ルキアノスは自分が神仙の国の上席が約束されているというのは、よかったですね・・たぶん「事実」に近づいた(;'∀')
サモサタのルシアン(ルキアノス)を記念する記念碑
ドイツ、ノードキルヒェンNordkirchen
内容(「BOOK」データベースより)
これは単なるパロディスト?それとも、じつは、深刻過烈な思想家か?ローマ時代の作家中、ぬきんでて独創と構想力ゆたかな作家といわれるルキアノス。現代に生きても、卓越したジャーナリストたりえたにちがいないルキアノス。神々を含め、人間世界そのものの矛盾や撞着、愚かしさを笑いとともにほうり出してみせる、その凄さ、手際よさ!地獄・極楽はもちろん、鯨の胎内の世界、ランプの国、キルクの島…「ガリヴァ旅行記」や「月世界旅行記」の先駆となった表題作他9篇でおくるルキアノス諷刺文学の粋。
怪物(まとめ)
「《驚異》の文化史」(オトラント大聖堂のモザイク他)
『ロマネスクの図像学 (教会の怪物)』、
『イタリア古寺巡礼』(アダムと動物)、
『怪物ーイメージの解読 』、
『奇想図譜』
LastModified: 2020年 …