唐草図鑑
聖樹聖獣文様

怪物

Fougères (35) Église Saint-Sulpice Baie 06 Fichier 02

me今まで見てきた、怪物イメージの古典書 を3つ選ぶと以下になります。

古典書3選
1.プリニウスの『博物誌』Historia naturale (AD77)
by Gaius Plinius Secundus(23?-79)
2.ハルトマン・シェーデルの『ニュールンベルク年代記』the Nuremberg Chronicle (1493)
by Hartmann_Schedel(1440 –1514)
3.アンブロワーズ・パレの『怪物と驚異について』
Ambroise Paré,(1510-1590)

怪物関連研究書(和書)のまとめは以下です。
『《驚異》の文化史』(オトラント大聖堂のモザイク他)
『ロマネスクの図像学 (教会の怪物)』、
『イタリア古寺巡礼』(アダムと動物)
『怪物ーイメージの解読 』
『奇想図譜』

me ここで 新しめの筑摩選書(2018)の目次読書を。

魔女・怪物・天変地異

魔女・怪物・天変地異 近代的精神はどこから生まれたか』筑摩選書
黒川正剛 (wikipedia) 著、2018年8月筑摩書房刊

me 下記の著書でみると、魔女狩り(wikipedia)の方がご専門であるが、こちらでは、怪物の方にウエイトを置いて見てみます‥

帯の惹句:増殖する怪異
中世末ヨーロッパ、異形のモノへの限りない畏怖と、押さえきれない好奇心が交差する時、何が起こったのか

図説魔女狩り』河出書房新社、2011
魔女とメランコリー』新評論、2012
魔女狩り 西欧の三つの近代化』講談社選書メチエ、2014
魔女狩りという狂気』 アン・ルーエリン・バーストウ著翻訳創元社(原著)  Anne Llewellyn Barstow

ヨーロッパ中世末期。魔女狩りが激烈をきわめる中、各地で怪物、凶兆、天罰等々、怪異現象が大増殖した。前代未聞の規模で押し寄せる「異なるもの」に対して、人々は恐れおののきながらも、その異形に魅せられていく。畏怖と好奇心の交錯するなかから、いかにして近代的精神は立ち現れてくるのか。そこにどのような人間的本性が見えてくるのか―。ヨーロッパ中世怪異を丹念にたどり、近代的思考の誕生を切り出す。

me以下、目次読書・・・

目次

第一章 近世以前の驚異と好奇心
(天変地異と奇形の誕生 「前兆としての驚異」説の祖キケロ ほか)

第二章 大航海時代の幕開けと驚異の増殖
(世界地図に対するあらたな認識 新種の植物の発見と植物誌の発展 ほか)

第三章 氾濫する宗教改革時代の怪物と驚異
(「修道士仔牛」と「教皇驢馬」 カトリックの怪物解釈―宗派論争 ほか)

第四章 「魔女と好奇心」、そして近代的精神の成立
(ファウストの実像 ファウスト伝説 ほか)

「はじめに」

me以下、「はじめに」(p009~016)から引用する。テーマは、近代的精神と好奇心の関連性ということ・・

今から四、五百年前のヨーロッパ世界において、二つの出来事が集中して起こった。時代区分で言うと、中世末から近世にかけてのことである。二つの出来とは、「魔女狩りの激化」と「驚異の大増殖」のことだ。 

この二つの出来事が織りなすダイナミズムから近代的精神が生まれたのだ。

古代ギリシア・ローマ時代以来、プリニウスの『博物誌』に典型的にみられるように豊饒な内容を持つ驚異は、中世にいたってさらに内容を充実させていった。

第一章

第一章 近世以前の驚異と好奇心
(天変地異と奇形の誕生 「前兆としての驚異」説の祖キケロ ほか)

me「第一章」(p017~072)から引用する。扉絵は、「マンテイコラ」とありますが、『動物シンボル事典』での表記は「マンティコール」



エドワード・トプセル著『四足獣の歴史』(1658)より

meこの怪物自体については、別にシンボル事典を参照してもう少し詳しく。

天変地異と奇形の誕生
12世紀フランスのベネディクト会修道士ノジャンのギベール
・・ 球体(隕石?)の落下を事件(反乱)の前兆(凶兆)とみなす、
14世紀前半のフィレンツェの年代記作家・商人のヴァンニ・ヴィッラーニ
・・二つの身体を持つ男の子の誕生
(ペトラルカも言及)

「前兆としての脅威」説の祖キケロ
「卜占(ぼくせん)について」(キリスト教誕生以前)
卜占とは、「予言、また偶然に起こったとみなされる出来事を前もって知ること」であると定義
→(キリスト教誕生以降)驚異の出現は「神の怒り」や「神の警告」を意味するものとして受け取られるようになる。

アリストテレスの驚異観
『形而上学』(第1巻)「すべての人間は生まれつき、知ることを欲する」 「哲学の誕生に重要な役割をはたしているものこそ「驚異」であった」・・「知」の根源に驚異い位置づけている。
『詩学』(第24章)「悲劇においては何らかの日常性の域を脱した驚くべきことを詩的に案出して作り出すことが必要である」 「驚異とは、また、そのまま快すなわちと喜びの効果である。」
『二コマコス倫理学』(第2巻)「過剰と欠如は悪徳の特徴であり、中庸は美徳の印である。」
『動物発生論』「アリストテレスは怪物・奇形が自然の秩序から外れて存在するとは考えなかった。異種混合(ハイブリッド)の怪物の存在は認めなかった。」(p031)

プリニウスにとっての自然と驚異
『博物誌』「プリニウス(23頃―79)にとって、驚異は自然の豊饒さの証であった。」(p033)

プリニウスと天変地異・・プリニウスの場合「自然の力」を重視することで、「驚異=凶兆説」は存在感を薄められているといってもよい。(p037)

異形の種族と奇妙な習慣・・「多くの場合、わたし自身の信念をもって挑むことをせず、むしろ事実を権威者たちに帰し、すべて疑わしい点については彼らを利用することにしよう」(権威者=:ホメロス(前8世紀)、ヘロドトス(前5世紀)、メガステネス(前4世紀)、アリストテレス・古代ローマの百科全書的記述者ウォロ(前1世紀)他「選抜した百人の著者」)
東方の驚異・・とりわけ依拠したのはクテシアスとメガステネス

古代ギリシア・ローマ人と「好奇心」・・「パンドラの箱」
正負の二側面
セネカ(ストア学派前4頃~後65) 「十分である以上に多くを知ろうと欲するのは、一種の不節制に他ならない」(『ルキリウスへの手紙』)(p048)

第一章図3(p061) 
聖アウグスティヌス(ボッティチェリ作、1480)
Sandro Botticelli 050

アウグスティヌスの怪物観・・初期キリスト教最大の教父(354‐430)「人々はこれらの人種(ピュグマイオス、スキアポデス、キュノケファルス)がみな存在しているというが、それを信じる必要はない」「人間として生まれた者、すなわち死すべき理性的動物として生まれた者は、私たちの感覚にとってたとえどのように奇異的な身体の形や色を動きや音を持っていようと、またどんな力や部分や性質のものであろう、その最初の一人(アダム)に起源を有するものであることを、信仰ある人はだれも疑うべきでない」「私たちがしてはならないことは、そこ(奇形)に神の誤りを見て取ることだ。」(p51)

アウグスティヌスと驚異
『神の国』「全能なる神の意志」によって脅威が生み出されることは疑いえない。

驚異(mirabilia)と奇蹟(miracula)
互換的に使用されている。驚異と奇蹟を同一視する思考は、世界そのものを奇蹟とみなすアウグスティヌスの世界観に由来している。(p055)
『神の国』(第21巻第8章)「ソドムの地のリンゴ」(果実の表面は熟しているのに内部は灰しか入っていない)・・神の怒り

アウグスティヌスと前兆
「しるし」にあたるmonstraというラテン語が「怪物・奇形」の意味を持っており、「警告する・戒める」という意味のmoneoという動詞を語源としている。「モンスター」の語源である。
「予示」にあたるprodigiaというラテン語もまた、「怪物」の意味をもっている。
→アウグスティヌスが怪物や奇形の誕生について触れているわけではない、しかし、近世にはパレの『怪物(monstresu)と驚異(prodiges)について』の書名にあるように、怪物や奇形の誕生は、驚異、および神からの人類への警告を伴った前兆の代表格として位置づけられることになる。(p059)

「欲望の病」としての好奇心
好奇心断罪の根拠は旧約聖書のアダムとエヴァ(原罪)
旧約聖書外典『シラ書』「お前の力に余ることを理解しようとするな。また、手に負えないことを探求しようとするな、お前のために定められていること、それを熟慮せよ」
新約聖書「コリント信徒への手紙一)「神は知恵あるものに恥をかかせるため、世の無学なものを選び、力る者に恥をかかせるため、世の無力なものを選ばれました」

『告白』(400年頃)第十巻30~34章 「肉の誘惑」、35章 第二の誘惑=「好奇心の誘惑」、情欲である、高慢と結びつけられる、神を試すものである。

中世における好奇心の断罪・・アウグスティヌスの批判は、中世を通して引き継がれた 
7世紀前半のセビリャの大司教イシドルス『罪深き魂の嘆きの書』(『語源誌』:百科全書的著作)
13世紀初めの教皇インノケンティウス三世 学者批判
1402年ジャン・シャルリエ・ジェルソン『学者の好奇心を戒む』

自然研究と好奇心
自然研究に没頭する学者の生きざまに疑念を呈するのが一般的な趨勢で、13世紀のトマス・アクィナスをはじめ自然哲学に関心を持つ神学者たちは、好奇心批判と自然研究養護との折り合いをつけることが重要であった。
研究のモチベーションをあげるのが、「好奇心」なのか「熱心さ」なのか、その線引きは極めて主眼的。アクィlナスは結果的に、好奇心に対してより好意的な評価を与えることになった。(p069)

増殖する驚異
12・13世紀の転換期、驚異に関する関心が高揚・・「驚異の増殖の第一波」
その理由 (ル・ゴフによる)
①教会の異端者に対する統制に弛緩がみられた
②宮廷世俗文化が農民の民間伝承を好意的に受けいれた
③知の領域を拡大することを目指して科学的・文学的な努力がなされた
④現世の魅力を探求しようとする新しい関心が芽生えた
→異常で驚くべきことを解釈する中世のシステムが作動するに至った
「中世の驚異の輪郭」の三分割(ルゴフ)
神に由来する「奇蹟」「魔術あるいは悪魔の術」との両者の間に「驚異」が位置付けられる」

「驚異は、宗教的にもイデオロギー的にも中立の超自然」
13世紀初めの聖職者・政治家・法学者ゲルウァシウス『皇帝の閑暇』「驚異という言葉でのは、自然のものでありながら、私どもの理解を越えた物事を指すととらえています。しかるに実は、驚異を創るのは、ある現象の原因を説明することのできない、私たちの無知なのだというべきです。」。
12・13世紀には驚異を論じた著作が多くあらわされた。内容の源流は古代・中世所為の先達たちにさかのぼる
14.15世紀は驚異熱がやや和らいだ時期
14世紀中頃、黒死病 の大惨事・・キリスト教徒殲滅の陰謀の濡れ衣でユダヤ教徒が各地で虐殺された。一方、正統のカトリック信仰に刃向かう異端者たちに対す審問と迫害も熾烈に行われてうた。
1420年、30年代の西方アルプス一帯で、魔女の集団が暗躍しているとのうわさが広がり始める。当時のヨーロッパ社会の周縁者の負の要素を一身に凝縮した存在として、魔女がヨーロッパのキリスト教徒たちの創造会を占拠し始める
1486年ドミニコ会修道士ハインリヒ・クラマー『魔女への鉄槌』刊行
その6年後、コロンブスがスペインのバロス港を西に向かってアジアを目指して出港。・・「驚異の増殖の第二波」

meフゴフの目次読書はこちらへ

第二章

第二章 大航海時代の幕開けと驚異の増殖
(世界地図に対するあらたな認識 新種の植物の発見と植物誌の発展 ほか)

me第二章の扉絵は「海の怪物アルゴス」オラウス・マグヌス著『ゲルマン海の怪物』(1537年)より
→第二章の怪物自体についてはこちらへ

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第一章では引用は3図だけであったが、第二章では18図、第三章では12図ある。
第二章は、(図11~16)テヴェの『南極フランス異聞』と、 (図17~21)パレの『怪物と驚異』からで、第二章の結び(p126)に、

アンドレ・テヴェ(Thevet Andre, 1503-1592)フランス(en.wikipedia
オラウス・マグヌス(Olaus Magnus, 1490-1558)スェーデン(wikipedia
アンブロワーズ・パレ(Ambroise Paré, 1510-1590)フランス(wikipedia

パレが『怪物と驚異について』において意図的ではなく知らず知らずに成し遂げたこと、それは『怪物』の領域を前兆に関わるものと自然にかかわるものとの二つに分離したことだった。


第三章

第三章 氾濫する宗教改革時代の怪物と驚異
(「修道士仔牛」と「教皇驢馬」 カトリックの怪物解釈―宗派論争 ほか)

me第三章の扉絵は「七頭のドラゴン」コンラドゥス・リュコステネス著『驚異と前兆の年代記』(1557年)より

meコンラドゥス・リュコステネス著『驚異と前兆の年代記』(1557年)
コンラドゥス・リュコステネス(Conradus Lycosthenes, 1518- 1561)ドイツの学者(wikipedia
第三章の怪物図についてはこちらへ

第四章

第四章 「魔女と好奇心」、そして近代的精神の成立
(ファウストの実像 ファウスト伝説 ほか)

me 「好奇心の表象としての女性」(p216)→これについては、本来は別テーマ(女性論)であり割愛します。
ここでは、中世の聖堂扉口の擬人像の関連で、若桑みどりさんの「寓意と象徴の女性像」を見ていました。時間があれば、後ほど。(20200412)


「おわりに」

meこちらの本は2018年刊で、冒頭に挙げた怪物テーマの関連書の中では新しい文献で、
参考文献には、山中由里子編著もあったが、

中世の夢 』 ジャック・ルゴフ (著), 池上 俊一 (訳) 名古屋大学出版会 (1992/6/1)
コレクション―趣味と好奇心の歴史人類学』クシシトフ ポミアン , Krzysztof Pomian (原著), 吉田 城他 (訳) 平凡社 (1992/5/1)
などなどが多数挙げられている・・

その中で、ルゴフ著の翻訳を見ていて、、 『絵解き ヨーロッパ中世の夢(イマジネール) 』Jacques Le Goff (原著), 橘 明美 (訳)原書房2007刊も発見したので、次に見てみます。→こちらに続く
(この本掲載のイメージ・図についてはこちらで展開しています)

meギリシアの怪物に次いで、中世ヨーロッパの怪物を見てきた。
ギリシアではゴルゴン、中世では一角獣が、劇的な存在とされていたが、 一角獣の方は、そんなに大きな存在であると認識できなかった。蛇にあまり関係しておらず、馬に関係している、その点で。
逆に言えば、そこに「中世」の特色があったということである。
なお、ギリシアの馬の怪物?といえば、ケンタウロス。中世においても、「怪物」であり続けた・・・このあたりをなお考えてみよう。

ギリシア特有の空想的創造物は、人頭馬身のケンタウロスと牛頭人身のミノタウロス。(『ギリシア神話の空想動物とその図』 前田正明著よりの引用(2015)を再掲

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