ウクライナの文様と自然崇拝(4)
ヨーロッパ民族衣装の伝統
民族的造形の起源
ここから、ヨーロッパの民族衣装について、メインの参照本として、 『世界の民族衣装文化図鑑』 (パトリシア・リーフ・アナワルト著 柊風舎 2017)を詳読します。
一種の「言語」とでもいうべき民衆的シンボルの造形体系は、すでに後期旧石器時代から存在してきた。
初期の人々はこうした系譜を示すシンボルを体や衣服、道具にも描き、どこに行くときにもそれを持ち歩いていた。この造形は何千年にもわたって母から娘、父から息子へと直接受け継がれてきた。
その他の古代のテーマも装飾的なモティーフの中に残っている。狩猟の儀式はその一例である。
旧石器時代の人間は、世界で初めての狩猟民であった。
捕食者と生贄のモティーフ
太陽も古代の原型的な図柄の1つであった。(p107後述))
初期人類
「石器時代」についてだが、『人類誕生の考古学』木村由紀著同成社2001)をみると、
ネアンデルタール人のネアンデル谷は、ドイツのデュッセンドルフの近くだったという。
世界最古の石器文化(つまり初期人類の文化=オルドヴァイ文化)は
タンザニアのオルドヴァイ渓谷・・
ここも谷なんだな・・?
ここで何となくムーミン谷を思い浮かべた・・ww
「旧石器時代とは、500万年前の人類の誕生から1万年前まで続いた、人類史の99%以上を占める長い時代である。」
「この間に、解剖学的な人間らしさと文化的な人間らしさが、相互に作用して進化してきたのである。」(木村由紀)
この本で、時間に関しては、180万年前?というのが、一つ頭に残った。 全世界への(ホモ)エレクタスの拡散という図の年代。 しかし、ここではそれはここまでで、旧石器時代のオルドヴァイ文化に続いたナトゥーフ文化が終わる、1万年前からをおさらいしたい。
旧世界における新石器時代
(wikipedia)
新石器時代の文化は紀元前8500年頃、レバント(エリコ、パレスチナ)に現れる。
その地域では、直接亜旧石器時代のナトゥーフ文化から発展した。
新石器時代の前期には、耕作は、一粒小麦、ミレット、スペルトコムギ、ヒツジ、およびヤギを含む、狭い範囲の野生、あるいは家畜化された作物に限定されていた。
紀元前7000年頃には、新石器時代はウシとイノシシ属の家畜化、恒久的にまたは季節的に居住する場所の設立、陶器の使用を含んだ。
Lionheaded figurine from
Stadel im Hohlenstein cave in Germany
このライオンマン(ライオンレディ) を初めて見た時には、驚きました。3万5千年前という古さ、その意外さ。そして実は、そのあたりの文化は現生人類でなく、ネアンデルタール人の創造かもしれないという事。
そういうことは論点ではないが、ネアンデルタール人も学名ホモ・サピエンスである(現生人類はホモサピエンス・サピエンス)という。それが、古い知識(進化していない原始人の原型のイメージ)からは驚きであった。
旧石器時代後期に属する文化
シャテルペロン文化 (en) 、オーリニャック文化、グラヴェット文化 (en)
シャテルペロン文化(カステルペロニアン文化とも)とは
西ヨーロッパ後期旧石器時代初期の約3.6万年前から3.2万年前に栄えた文化
「ネアンデルタール人が営んだ文化と現在は考えられている。」
フランス、アリエ県のシャテルペロン洞窟
※別のwikipediaページでは「2015年に発表された放射性炭素年代測定の改善は、ネアンデルタール人が約40,000年前に消滅したことを示しています。これは、ネアンデルタール人が24、000年前まで生きていた可能性があることを示した古い炭素年代測定を覆します。」とあるが、
「ムルシア(スペイン)における中期から後期旧石器時代への移行の正確な年代測定は、イベリアにおけるネアンデルタール人の後期の持続を支持します 37、000年前のイベリア半島におけるネアンデルタール人の継続的な存在の証拠は2017年に発表されました」 ttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/
そこからだいぶ下がってきて、青銅器時代はBC3300年頃からで、これは明確に現生人類の文化ということに。
※伝統的な三時期法
(石器時代、青銅器時代、鉄器時代)
古ヨーロッパのつながり
縄目文土器文化
縄目文土文化(戦斧文化)
縄目文土器文化の起源は、球状アンフォラ文化の発展においても中心地帯であったポーランド中部・南部
The w:Corded Ware culture (also Battle-axe culture) is an enormous Chalcolithic and Early Bronze Age archaeological grouping, flourishing ca. 3200 - 2300 BC. It encompasses most of continental northern Europe from the Rhine River on the west, to the Volga River in the east, including most of modern-day Germany, Denmark, Poland, the Baltic States, Belarus, the Czech Republic, Slovakia, northern Ukraine, and western Russia, as well as southern Sweden and Finland, It receives its name from the characteristic pottery of the era; wet clay was decoratively incised with cordage, i.e., string. It is known mostly from its burials.(埋葬から知られる)
(ast.wikipedia)
ピロニャのフォス・デ・ロス・カヴィオスで発見された新石器時代のヴァス。紀元前3、300〜3、000年
球状アンフォラ文化(Globular Amphora culture(wikipedia))は紀元前3400年ごろから紀元前2800年ごろにかけて、西はエルベ川西岸地方、東はドニエプル川中流域まで広がっていた銅器時代文化。インド・ヨーロッパ語族の中央ヨーロッパ、バルカン半島、ギリシャへの進出に関して非常に重要な意味があると考えられている。原ギリシャ人もこの文化に含まれる。
この範囲は、これより前の新石器時代のヨーロッパに漏斗状ビーカー文化(Funnelbeaker culture、紀元前4300年から2800年頃)が広がっていた地域(エルベ川下流とヴィスワ川中流の間の現地の新石器時代と中石器時代の技術融合によって発展)とだいたい同じ 。
Skarpsalling vessel, Denmark, 3200 BC
”バルカン半島”
”東南ヨーロッパ”
ルーマニア
ブルガリア
Category:東欧
ウクライナ
ブルガリア
ルーマニア
ロシア
スラブ人(wikipedia) ウクライナ(東スラブ人)
※ この『世界の民族衣装文化図鑑』には、東ヨ―ロッパと西ヨーロッパの民族衣装の文様の違いについての言及がある。 (後述)ここで、wikipediaの「家母長制の宗教」 Matriarchal_religion (en.wikipedia)を見ると、
難しいところに入り込んでしまうのであるが、(”フェミニズム”は保留して)、マリア・ギンブタスの考古学の、
装飾的モティーフの解明はスリリングで面白かった。
それを見たのは、
10年前なので、復習が必要です。
マリアギンプタスを読む(2012年)
土器文化区分(2013年)
上記のマリア・ギンブタスの『古ヨーロッパの神々』第3章 儀礼の衣装は、再掲吟味すべきだが、その前に、『世界の民族衣装文化図鑑』の精読を続けます・・
p107~p110の「民族的造形の起源」です。
「古代のテーマは、装飾的なモティーフの中に残っている。」
先史時代のヨーロッパ
古代のテーマ:狩猟の儀式
旧石器時代の人間は、世界で初めての狩猟民であった。
今でも狩猟儀式の名残はスぺインからシベリアまでの地域の刺繍に見ることができる。(p107)
捕食者と生贄のモティ―フ
図153(p107)
南シベリア アルタイ地方の
パジリク古墳群クルガンで発見された紀元前4世紀のフェルト製鞍の裏地の図案
※西方のスキタイ文化の系譜に連なる動物文様で飾った遺物
図154(p107)
神聖ローマ帝国皇帝の戴冠式用外衣に刺繍された、
ライオンに襲われるラクダの図柄。
1133~34
シチリア王ルッジェーロ2世のためにパレルモでつくられたものと言われる。
太陽のモティ―フ
世界中で見られるお決まりの絵柄
女性像のモティ―フ
東ヨーロッパに繰り返し登場する、神話に深く根ざした図柄としては、ざまざまな形で描かれる地母神像がある。
VenusWillendorf(wikipedia)
図155
比較的写実的な後期旧石器時代のヴィーレンドルフのビーナス
(紀元前2万3千年頃)
マンモスの牙を彫ったもの
図156
(左)図157(p108)
20世紀の東ヨーロッパの刺繍図柄。両手をあげて天に祈っているとされる地母神像
(右)図158
両手をおろして祝福しているとされる地母神像
※「オランス」ですね。但し花を持っている
女神はたいていの場合顔がないが、さまざまな特徴によって女神の神聖さと力が伝わってくる。(p108)
こうした刺繍の女神像の起源は、人類最初の彫像、いわゆるヴィーナス像に求めることができる。
ヴィーナス像は地母神、命の源、豊穣の象徴として初期の人類があらわしたものだと言われている。(p109)
図159
「カラパチア山地やロシアでは、女性たちは今も、ベルヒニアと呼ばれる、前キリスト教時代の力強い偉大なる大地母神像を、守り神や豊穣の象徴として衣服に刺繍している。」
「女神の両方の手には、それぞれ眷属の鳥が止まっている。」
「こうした抽象化された神像によくあるように、顔は描かれていない。」(p108)
考古学者のマリア・ギンブタスは、カラパチア山地の東に位置する東ヨーロッパのモルダヴィアで自ら発掘した、様式化された女性像に関連付けながら、偉大なる女神について書いている。
ギンブタスは、強力な豊穣神への信仰はけっしてなくなることがなく、後期旧石器時代から新石器次第、青銅器時代まで、古ヨーロッパの母系社会に残ったと確信している。(p109)
※モルダビアの西半分は現在ルーマニアの一部であり 、東側はモルドバ共和国に属しており、北部と南東部はウクライナの領土
攻撃的で父系主義のインド=ヨーロッパ人が馬を駆って侵攻し、文字通り征服地を踏みつけにして、もともとあった文化を覆したあとでも、それは変わらなかった。ギンブタスは、2つの文化の信仰体系は実質的に異なったものだったが、古ヨーロッパの神聖な象徴的イメージが根こそぎに察ることはなかったと主張している。
それは生まれながらの工芸家であった女性たちが女神像を使い続けたためである。たとえば、新石器時代の陶器と20世紀のロシアとウクライナの儀式用衣装のどちらにもヨーロッパの女神像を表わした女性像が見られると、ギンブタスは指摘する。
今日でも、「守護女神」を意味するベレヒニアという全キリスト教時代の大地母神の力強い像を衣服に刺繍して、魔よけと多産のお守りにしている。(図141)
図160(p109)
「パジリク 紀元前4世紀頃の大きなフェルトには、座った女性が繰り返し登場している。
おそらくは女神で聖なる枝を持っている。崇拝者と思われる騎士が近づいてきている。」
着席した女神タビティとライダー、パジリク・クルガン5、アルタイ、ロシア南部の装飾されたタペストリーc BC241
南シベリアのパジリク文化アルタイ パジリクのクルガン
サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館蔵
この図像を見た時
アルテミスの持つ形との類似を思った。
女神が両手に持つ2本の長い巻き蔓は 植物の生育を司る力を表わす.
(※『ギリシア陶器』byエリカ・ジーモン)
、
女神像の刺繍の権威である、シーラ・ペインが女神とみなす像を配した現存最古の織物は、パジリクにある遊牧民の支配者の凍った墓壙で出土した。
おそらく、後述する生命の樹に関連する女神だろう。
この女性はスキタイ以前のロシアで崇められていた、炉の女神を表わしていると考えられる。後代のさまざまな国の刺繍では、女神はしばしば馬に乗った男とともに描かれている。
シーラ・ペインについては、後ほど著書を参照します。
(左)図161
誕生、結婚、死にまつわる重要な儀式で聖具として使われていたウクライナの儀式用の布には、様式化された生命の樹が雲のような形状の大地から伸びている姿が描かれている。(p109)
(右)図162
やはりウクライナの儀式用の布の図柄は、生命の樹を表わしたもので、抽象化した女神像ともされる。中心から突き出した「頭」と、上に挙げた「腕」が特徴的。
豊穣の女神のモティーフは、ときに生命の樹に変形する。
生命の樹はもっとも一般的で重要な 刺繍図柄の一つである。(p109)
同種の生命樹の図柄では、崇拝者か守護者が側面を固めていることが多い。
ヨーロッパの民族芸術で好まれるモティーフである。
図163(p109)
1780年頃のモラヴィアの布の刺繍図柄
生命の樹を女性のような花瓶に置きかえるのは、古代シュメール芸術に見られた。花瓶からは多産に関連する、女神を思わせる花が咲いている。この図ではチューリップとザクロの実が描かれている。
古代シュメールの芸術では、木は時として擬人化された花瓶からはえた植物に置きかえられた。
花瓶の花はしばしば女神の多産性を暗示し、チューリップやバラ、ザクロが加えられることもある。(p109本文)
図164(p110)
刺繍にその土地独特の図柄を取り入れている国もある。
左は双頭のワシの写実的な図柄、右は19世紀のウクライナの抽象的な図柄。
ワシは天空神の力を表わす古代の太陽系の象徴。
双頭のワシはのちにヨーロッパのハプスブルグ家などの紋章となり、スペインやロシアの刺繍では木のかわりに描かれる。
中央ヨーロッパ。東ヨーロッパの刺繍のハート文と同様である。(p110)
続く(20220406)
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