ギリシア神話の説明は入り組んでいて、互いに矛盾すらしているのであるが、ともかくテューポーンは怪物であって、半身は巨人、半身は蛇であった。(『動物シンボル事典』p230)
※ジャン=ポール・クレベール著(大修館書店1989)
(Typhonの表記は長母音に関係していろいろある)
Typhon, from Athanasius Kircher, Oedipus Aegyptiacus, 1652
A.キルヒャー「エジプトのオイディプス」による
およそ全ての爬虫類型の怪物の祖であるのがテュポーンである。蛇と結びつく地電流からその力を汲み、その口は大地に開いた噴火口。吐き出す噴火物は天をどよもす。(p231)
『動物シンボル事典』に挙げられた図はこれであった。 私の基本イメージも天を衝く巨人ですね。
『動物シンボル事典』では初めからこのように「怪物」扱いだが、『西洋古典学辞典』ではまず「巨神」として説明。(p814)
『世界神話大辞典』でイヴ・ボンヌフォアも、「矛盾していても物議を醸さないギリシア神話(muthos)」という話を始めてから、27ページを過ぎたころに、このガイアの末っ子を登場させていたが、
(この大著は1380ページもある。)ギリシア神話は
第3章p256~p459で、そのp283の図が下のこれ。
テューポーン 紀元前540年頃-530年頃
カルキディア 黒絵式ヒュドリア(en
ミュンヘン、州立古代美術博物館(en)蔵
ヘーラーは巨人族の敗北に復讐するために、オリュンポスの新しい神々に対抗してわが子テュポーンを送った。怪物を目にすると、オリュンポスの神々は恐れをなしてエジプトの地まで逃れ去り、そこで自からの姿を動物に変えてしまったという。(アポローンは鷹に、ヘルメースはイビスに、アレースは魚に、デオニュソスは牡山羊で、ヘーパイストスは牛であった)
ただゼウスとアテーナーだけが踏みとどまって闘った。
自身、蛇でもあるゼウスは自分たち、新しい神々を防衛するために怪物を迎えうった。 (『動物シンボル事典』p232)
カシオス山でテュポーンがゼウスをしのいで、ゼウスの腕と脚の腱を断ち切り、キリキアのコーリュコスの洞窟に閉じ込めた。
腱は竜デルピュネー(✳)が守る別の洞窟に隠したが、ヘルメスとパーンが、取り戻してゼウスに返した。
ゼウスは天馬に乗ってテューポンを追い、勝者となった。
ガイアの最後の子供テュポン
その子は、強い腕、疲れを知らない足、眼から炎の閃光を放つ100匹の蛇の頭をもった怪物である。
怪物の声は、変わり、あるときは神々、ある時は野獣、あるときは自然力と同じであり、無秩序の持つ基本的な力を具現する。(『世界神話大辞典』p283)
ゼウスとテュポンの戦い、紀元前530年頃、カルキデキオの水がめ
ミュンヘン、国立考古学博物館、写真撮影 コッペルマン
『世界神話大辞典』でイヴ・ボンヌフォアは、(ティタノマキアの)「ティタンの敗北は、血統、性質、年齢によって、古い方に近い神々が持っている神性を新しい神々に結び付けて終わる。」
そして、「ヘシオドスの場合、テュポンの敗北は
統治権をめぐる戦いの終わりを示す」という。
そして、
神界の王で2代目の統治者であるゼウスの覇権は、「名誉と特権を神々に分配し、クロノスの轍を踏まずに立ち直る。」と。
この後に、偽アポロドロスの『ギリシア神話』での話と『デュオニュソス譚』での話が書かれているが、詳細は割愛する。そちらは「統治権の危機を誇張し、統治権の行使において、術策の占める位置を強調するために潤色された」(p285)物語であるという。
なるほど。そこが、私がギリシア・ローマ神話を嫌いになるというか、ダン・シモンズと一緒に、もう結構、勝手にして、と思ってきた理由なのだが・・
テュポンはエジプトにおいて、『ギリシア語魔術文書』でイシス(ヘルメスの子、「魔人」とされる)の呪文に登場する。
「あなたは神なきテュポンを焼き尽くす」(p141)
エジプト神話はギリシア風な潤色が生じ、中世から、セトがテュポンに同一視された(p150)
なるほど。
1551年のナタレ・コンティはNatale Conti(1520–1582)
『神話、或いは物語の解説書』で、 セト=テュポンを、tとpの2文字を置き換え、ピュトンと同じだと考えていた。 (アルチアーティの『エンブレマータ(寓意図像)』(1531)からの影響)
マクロビウスMacrobius(5世紀)の恐ろしい描写から借用。(羽に覆われ、マムシに囲まれ、火を吹く多頭の怪物として描く。)
ヴィンチェンツォ・カルタ―リ Vincenzo Cartari(16世紀)『古典神像図』に影響した。
ちなみに、この『世界神話大辞典』において、ピュトンの名が出てくるのはここだけである。『動物シンボル事典』には、図もあり2ページを割いているのだが→下へ
悪い要素と力が雑然とし混乱している、 マクロビウスが記述し、ザルティエリが描いた怪物じみた神の様相。(p159)
ギリシア神話の東方の先祖たちの問題:
キリキアとシリア起源のテュポンの神話はどのような道筋を経てヘシオドスとアポロドロスに伝わったのか(p240)
(愛によって結合することなく出産した怪物的な子供、神々の王の絶対的な位置に歯向かうために懐胎された)
鍛冶の神ヘファイストスは、火と風を支配する印としてねじれた両足、曲がった両の足を持つ。
テュポンもやはり火と風を支配する。
もっと密接な関係は、彼らを生み出した無精卵(風に運ばれる卵、ゼピュロスの卵」)(p336)
この卵の話はちょと分からないが
Typhoon 台風とTyphus,チフス ~>゜)~~~
テタノマキアならぬ、
Typhonomachyというlことばもあるようだ。
wikipediaでは
en.wikipedia/Typhonがgood
テュポンの体から生まれた猛り狂った息は人間い不幸と悲惨をもたらす(ヘシオドス)(p411)
Macrobius's Saturnaliahttps://www.wdl.org/en/item/11612/松原國師『西洋古典学事典』では、「古代の作例としては、アテーナイのアクロポリス博物館所蔵のアテーナー古神殿破風を飾っていた「青ひげのテュ―ポ―ン」と称されるアルカイック期の石造彫刻(前7~前6世紀)が良く知られている」とある。(p815)
Même fronton- Typhon Musée de Acropole
たしかにテュ―ポンと書かれているのだが、訪れた方のブログでは「胴体が三つの怪物」※とか、「三身の半魚人」(※)という紹介。下の左側は半魚人かもしれない。しかし左は蛇である。もう少し見ることにする。
Triple-Bodied Monster on the west pediment of the Old Temple of Athena. It's about a creature composed of three male figures joined at the waist. The first figure holds in its left hand water, the second fire, and the third a bird (symbolizing air). The monster ends in a body with shape of serpent. West pediment of the Old Temple of Athena or perhaps of the Hekatompedon. Lenormant fragment.
古アテネ神殿かヘカトン神殿かという記述がある。
下の想像図もこれとは少し違うようだ。
en.wikipedia.org/Hekatompedon_temple
Murray, A. S. (Alexander Stuart), 1841-1904
ヘラクレスがティポーンを征伐しているとある
「世界美術大全集)vol.3エーゲ海とギリシアアルカイック 」では、古アテナ神殿の両破風の復元案は、W.H.シューフハルトが1935年に提唱したものが決定的な権威とされたとある。シューフハルトを拠り所として、I・バイアによって1974年に最新の復元案が試みられたとして、図も挙げられていた。
シューフハルトの学説と対立する、W.B.ディンズモアの1956年の学説では、古アテナ神殿の存在を認めず「百足長神殿ヘカトンぺドン」 (原パルテノン)が想定された。(両破風の復元案はシューハルトの復元案を適用)現在はこの考えが有力。(下の図vol.3-229179図
Pediments of the old temple of Atena
restored by W.H.Shuchhardt and I.Beyer
※
Walter-Herwig Schuchhardt(1900-1976)
Wast pediment of the Hekatompedon (Athens, acropolis museum)
「世界美術大全集」(小学館)vol.3- 394~395
「線刻の羽模様を持つ翼の一部が残り、一対の大きな翼を翻していたことがわかる。また左手に走り去る少女(?)の肘と衣の一部が残っている。日時を曲げた怪物のそれぞれの手に不思議な事物が握られているが、頂部を欠き、この怪物の道程にはあまり役に立たない。対の三角隅に《ヘラクレスとトリトン》が配されることから、変幻自在の海のネレウス説がある。当
また有翼蛇体の怪物はゼウスの敵対者テュフォンとして陶器画にしばしば登場することから、テュフォン(テュポエウス)説もある。
A.フルトベングラーは、ボレアス(北風の神)の図像学を発展させて、アッティカ地方の風神トリトパトレス説を提唱した。「曾祖父」の意で、人間の元素であると同時に出産(安産)と多産(豊饒)を司る神で その場合、その三つの持物は左から、水流、穂、鳥の継承で、特に鳥は空気、すなわち人間の命をもたらすシンボルとなる。
(「世界美術大全集」(小学館)vol.3- 394~395福部信敏)
ん~~。頭が、いや胴体が三つでは、テュポーンと断定するには課題があるようだけれど‥‥。
"Etruscan mural typhon
ギリシャのタイフォンを描いたエトルリアの壁画
→(2015k/sarcofago_etrusco.html)
Apollodor(Mythological Library、I.VI.3)およびHesiod(Theogony、820)によれば、古代ギリシャ神話ではTithonまたはTyphoonとも呼ばれるTyphonは、ガイアとタルタロスの子である角竜である。(bg.wikipedia)
Wenceslas Hollar - The Greek gods. Tryphon
テューポンは:ガイアの末子で、一説によるとタルタロスとの間の子。エキドナ(※)の夫で、キマイラやケルベロス、オルトロス、ラードーン、ヒュドラーなどの怪物の父でもある。また、多くの風の神々の父でもある。
ギリシア神話に登場する怪物の中では最大最強の存在。(Wikipedia)
上のポマルツォの公園には、2017年6月13日にいきました→italy/roman.html
さらに文献参照
神話伝承事典(バーバラ・ウォーカー著 大修館書店1988)
エジプトのロバ神セトのギリシア名。セトの息は疫病(発疹チフス)をもたらすと考えられていた熱風であった。この名称は全アジア的広がりをも、東南アジアではtyphoonであった。この風の神の名はおそらくヴェーダのロバ神ラーヴァナに由来するものであろう。すべての古代世界では疫病をもたらす砂漠の熱風は「ロバの息」と呼ばれた(p808)
図説世界シンボル事典(ハンス・ビーダーマン著 八坂書房2000刊)
キマイラは古代ギリシアの怪物の名で、ライオンと山羊と蛇を合わせた姿をしていると考えられた。
キマイラは、上半身が女性、下半身が蛇の姿をしたエキドナと冥府の怪物テュポンの間に生まれた娘で、地獄の犬ケルベロスはその兄弟であるとされる。
イメージシンボル事典(アト・ド・フリース著 大修館書店1984)
探したが何もない。
ここでは、蛇の項の中の「大蛇ピュトンPython」のみ??
「デルポイのアポロ神殿の青銅の三脚台とオムパロスは大蛇ピュトンの墓場であった」(p565)
Wikipedia(20180410閲覧)によれば、ピュトンはテュポンの乳母だが?(「ホメロス風讃歌」による)
『神話伝承事典』(バーバラ・ウォーカー著 大修館書店1988)
母神ヘラからゼウスの助けを借りずに生まれた「大いなるヘビ」
このことは、創造女神エウリュノメの夫であり、また子供である「大蛇オピオン」と同じように、ピュトンが全ての父親-神が存在する以前の時代に母神から生まれたヘビ(serpent)であったことを意味する。
またルシフェルと同じように、女神を豊饒にするために「深淵」に降りて行った稲妻ヘビでもあった。(Guthrie,W.K.C.The Greeks and Their Gods,1955 archive.org/details/in.gov.ignca.2927/)
母神ヘラはまた、いかなる男性の神の助けも借りずに、ヘパイストスを生んだ。ヘパイストスも、「天から堕ちた」同じような稲妻神であった。
ピュトンはデルポイ神託所の予言を行う霊の化身であり、神殿の巫女たちは、神殿がアポロンに引き継がれた時でさえ、つねに変わらずピュトネス(神託を受けて予言する巫女)と呼ばれた。
ピュトンは大地の子宮に住み、その秘密を知った。彼が神託ヘビであった理由はここにある。
いくつかの神話では、アポロンがピュトンを殺したということから、ピュトンは「死の神」であったと述べている。しかしし他のすべての光と闇の双子神のように、アポロンとピュトンは本当は同一の神であった。(p661)
動物シンボル事典(ジャン=ポール・クレベール著(大修館書店1989)
ドラゴンに匹敵する大蛇。ピュトーンはデルポイの神託所が立つ大地の割れ目の番をしていた。これをやはり聖所を守っていた別の大蛇デルピュネーと混同してはならない。(✳)
グリマルによれば相次ぐ二つの時期を代表し、ピュートーンは、デルピネーより後たっだらしい
この巨大なヘビは、大地ガイアによって、ヅカリオーンの大洪水がもたらした泥土から生み出された。アポローンの母レートーが身ごもった時、ヘーラーはピュートーンを彼女のもとにやり、彼女をかみ殺させようとした。やがてアポローンが生まれて幾年がたった後、彼は洞穴に行って矢で射止めた。
異説によれば、アポローンがピュトーンを退治したのは、もっと後に彼がデルポイの神殿を立てようとした時だといわれる。ピュートーンは、洞穴の番人であるドラゴンたちと同様、予言する力を備えていた。そこで、アポロ―ンは、この競争相手を亡き者にする必要があった。大蛇の死体は神殿の下に埋めた。
ピュートーンという名は、たぶんギリシア語のΠύθων( 腐らせる,悪臭を放つ)からきているのであろう。大地の割れ目から漏れる瘴気のせいであろう。神託を受ける巫女ピューティア―の名は、蛇ピュートーンのちなんでつけられた岩ピュートーからきている。
ユングは、太陽神アポローンがまだ生まれる前に自分を脅かしていたヘビを殺すという事実を重視した。その精神分析学的解釈は、西洋文明になじみ深いエディプス・コンプレックスを用いると簡単である。
python,次いでpytonissa という名詞は古代ローマ人が、占者、予言者を指すのにつかされた。
(✳wikipedia20190929閲覧では、意図的にか?混同している文献もあるようだ)
『動物シンボル事典』p297
Atlas & Typhoëus & Prometheus:
The three heads of the insurgency are shown while
they are being punished (Laconic bowl ~550 BC).
これでテュポーン、ピュートーン、ギリシアの蛇についてはほぼ見終えた?・・ゼウスがまた、蛇であるというところはを見てないが・・
→greece_hebi.html
追記であるが、wikipediaにはクリムトのベートーベンフリーズもテュポーンを描いたように挙げられていた。
The Beethoven Frieze is a painting by Gustav Klimt
on display in the Secession Building, Vienna, Austria.1901
追加であるが、
『怪物―イメージの解読』(河出書房新社1991刊)の初めに、「知られざる土地、テラ・インコニータ」という 吉田 敦彦三の論考があり、目次読書はこちら。(201911128)