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美術様式論


リーグル美術様式論―装飾史の基本問題」
長広敏雄訳 岩崎美術社、1970新版)

リーグル(ギリシア美術における植物文様)

6 唐草蔓絡み文様


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「美術様式論」p201

ギリシア初期の植物文様発展史を述べる上でひどく障害になること・・研究対象が容器に限られること
古代において容器装飾には、純装飾的な、ひたすら飾ることを目的とした、非対象的な文様の使用を制限しようとする努力がなされ、そのかわりに画像(人物・動物像)━その内容は英雄的・神話的な物語による━が描かれた。

「美術様式論」p202

われわれの観察に提示された陶壺材料では、主として唐草文様は縁飾り風の長い帯状に押し込まれている。
無制限な平面に対して、より単純な形式としての、この帯状デザインから次の発展の出発連が始まる

「美術様式論」p202


図83 アエギナ出土陶鉢の彩描 唐草絡み文
古アッチカに起源がある。これと同一のデザインはアテナ出土アムフォラ(Antike Denkmaler Bd.Is .46)にも見られる

  全体として花文様と唐草波型から成る

花文様:一つは両側葉が長く伸びたロータス花、他はパルメット扇形
大きい部分は無論ロータス花で、パルメット形の方はパルメットに不可欠な渦巻形萼を欠く点でも劣勢
ロータス浜文はパルメットとともにその花冠が上列下列にたがいちがいにしめされる。ここにS字形(間断的)な波状唐草が暗示されている。
この結合を取り持つのは蔦絡み唐草線による


ロータスを貫いている線を消し、パルメットの両側にある単なる地間充填の渦線を消しとって見ると、あらわなS 字形波状唐草の図式が得られる。この唐草の山と谷の部分にロータス花がおかれているわけである。
パルメットは唐草が作る萼のたんにアクセサリー的な地間充填にすぎない

「美術様式論」p197

図84 ベルリン考古美術館蔵銅小板片

あらわなS字形(間断的)唐草図形
ロータス花が単純に上または下におかれ、渦巻および萼形の萼による仲介はなくて、左右からくる二条の茎によってむすばれている。左右に走る茎がロータス花を切る前に形作る蔓絡みは、その文様の豊饒化であり、それは全文様によって追求された目的をあきらかにする。 

「美術様式論」p205


図85 ベルリン考古美術館蔵青銅製飾り板(テーベ出土)

このモチーフとそれと対蹠的パルメット・ロータス帯との関連 ・・ホルヴェルダ(Holwerda Arch.Jahrb.1980,S.239f)は金属技術に目をつけた。「ここに施された蔓絡みは金属線の模倣である」


「美術様式論」p206


図86 彩描唐草文様(ギリシア式)

「美術様式論」p207


図87 紐編み装飾(ラグサより将来)
バルカン半島の 南ダルマチア 一都市の小市民が着用するチョッキのおくみ

急な波状線のカーブは83図を想いださせる。古代の対蹠的パルメット・ロータス帯の亜流。 イタリア・ルネサンスはこの文様を知らなかった 問題の83図の古代アッチカ文様と、この類似の文様が(近代の)織物技術によって施行された・・

「美術様式論」p210

古代美術家の創造活動の基本は線描的なものだったに違いない。人間の手によって運用せられたもの。 人間の手は、芸術的な教示によって導かれる。
芸術的な教示はすでに獲られたものと精神的省察とをとけあわし、そこから抗しがたい衝動によって新たなものを構成するのである。

「美術様式論」p210


図 88 いわゆるカルキディケ陶壺

地間充填用の花文様をもった蔓絡み唐草帯のモチーフが生まれたので、連続的な長い帯状形式はとびこされてしまった。
そしてその文様を用いてまとまったコンポジションをそこから構成した。例えば88図である。

唐草帯は固定した中心から出発して、一部では結節帯を用いつつ絡み合い、上下に枝分かれする。
器の上部の文様帯では、いわゆる常春藤の葉をさきにつけ、
また器の下部の文様帯では間断的唐草式にそれは常春藤の葉に結ばれ、さらに渦巻型萼に流れいる。
だが、その地間充填用パルメット扇形の上には、鳥がとまっている。 。

83図との差異は、83図では構造的に縁取りの役をなすべき連続的縁飾り(ボルデューレ)を作ることが主眼であったのに対し、88図では独立的な広幅文様が、換言すればそれ自身でもすでに、まとまりを持ったものが表される。
両側から茎の落ち合う点における常春藤の葉は、83図から88図への橋渡しを示している。

「美術様式論」p211

この文様の批評に、不当に影響したのは、っ文様の両側に左右相称的に対置する動物像である。
上部には二匹の向き合った獅子が見られ、下部には獅子と表がにらみあり、前述の鳥は向き合い、首は振り返っている。これは前に見た紋章風様式の型である。
動物像が決定的なオリエント的特徴を新すことは認めてもよい。
しかし唐草絡みは、オリエント的原型と結び付けられないであろうか。

一説にはこれをアッシリア風とみる。「聖なる樹」からである。「聖なる樹」はパルメットを周辺に持っており、その枝は結束帯によって結びつけられる。だが類推はこれだけでもう尽きている。
聖なる樹は普通の木の如く下から伸びあがる。しかるにカルキディケの唐草絡みは一つの中心点にかたまる。

聖なる樹は、木と什器との中間物であるが、カルキディケの唐草絡みはそのどちらでもなく、装飾的原理から生じた(目に優美な)曲線の蔓絡みである。

加うるに、アッシリア風パルメットは細部においてまったく異なる構成をしているし、聖なる樹には独立的付加物いわゆる果実に相当するものがついている。(88図では大部分が地間充填を示している)

アッシリア式聖なる樹(図39)

フェニキア式パルメット樹も比較にはならない。
フェニキア式パルメット獣は樹幹の垂直方向に従って、萼を木賊(トクサ)ように積み重ねるが、88図ではきまった一方向の強調を避けているからである。

蔓絡み文様はエジプトに類推を求めることができよう。プリッス・ダヴネが引用した天井画である(27図)↓(再掲)
27図
デザインの基礎を、細い帯と紐が形作っている。これらは多く渦巻線状に巻き付き、また絡みあっている。これに並んで、地間充填用のロータス花文様が決定的な役割を果たしている

このエジプト天井画が、一般的にカルキディケ文様の政策に影響した可能性についてで、疑うことができない。
ただそれを施した精神はギリシア的である。唐草はギリシア的であり、花文様はギリシア化されている。

デザインは多様に変化している。
プロト・コリント風油壷に示された王に、それは並列方法によって帯条デザインにつくりあげられている。この時代は種々の結合法が試みられた活気に満ちた時代であった。

カルキディケ唐草蔓絡みの歴史的意義は、ここに唐草が初めて基本デザインのために空白の面を充填するように供されたことである。

ミケネ様式ではその役割は渦文が果たした、そして唐草は帯条の上に限られていた。88図の使用の前触れはメロス陶壺にある。唐草枝分かれについても同じことが試みられた。

しかしカルキディケ陶壺でその文様が占めた場所はそれを固守することができなかった。
充填用としてのカルキディケ唐草蔓絡みは、側面に相対抗した動物フリーズ間の中間物としての役割を持っていた。
時代の芸術的特性が、容器装飾の画像的構図導入を押しつけたのに比例し、動物フリーズは後退し、従って唐草蔓絡みは余計のものとなった。
だが壺の上には、画像の場面がそこまでは伸び得ず、したがって、純粋装飾紋様が身を寄せ売るひとつの場所があった。すなわちは把手のまわり、その下の場所で、そこでは唐草文様は、陶壺では少なくともますます発展し、中央の唐草蔓絡みと結びあう。
唐草はますます精美を極め、花文様は単なる地間充填から独立図形へと解放される。

meハルキディキおさらい
半島 古代ギリシア語読みではカルキディケ:ギリシア北部,エーゲ海に突出する、トラキア地方
アリストテレス(Aristoteles,前384-前322)は、カルキディケ半島のスタゲイラに生まれる。


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