猫頭の
古代エジプトの歴史

復習1 
エジプト Egypt
山中 一郎 (平凡社世界大百科事典)
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【先史時代】

[旧石器・中石器時代]  エジプトのナイル流域の人類の痕跡はヨーロッパの第 2 間氷期までさかのぼる。前期および中期旧石器の文化は西ヨーロッパや北アフリカと共通である。当時は湿潤で,北アフリカには草原が広がり,各所に森林が繁茂し,野生動物の宝庫であった。前期旧石器はナイル河岸の 30mおよび 15m段丘,カイロ近郊アッバーシーヤ‘ Abb´s ̄ya,ハーリジャ・オアシスなどで確認され,アブビル型やアシュール型の握斧 (あくふ), 影片 (はくへん) 石器 (30m段丘),中後期アシュール文化の石器 (15m段丘) が発見されている。中期旧石器は 9m段丘上にみられ,ルバロア型の影片石器や三角形の小型尖頭器 (ポイント) などを特徴とする。これらはアッバーシーヤ,ハーリジャのほかファイユーム湖辺でも発見されている。後期旧石器時代とともに北アフリカの乾燥化が始まり,エジプトは周辺地域と異なる文化を形成する。北アフリカのカプサ文化やレバントの後期旧石器文化の石刃 (ブレード) 石器文化に対するルバロア型の影片石器文化 (エピ・ルバロア型とよばれる) である。同時にファイユームのエピ・ルバロア文化ハーリジャのルバロア・カルガ文化とこれに続くカルガ文化上エジプトのセビル文化など各地に地方色ある文化が出現する。上エジプト,クーム・アンブー K仝m Amb仝 (コム・オンボ Kom Ombo) 近郊の 3m段丘より発見されたセビル文化は 3 期に分かれ,中期以降細石器化の傾向が顕著である。エジプトの場合典型的な中石器文化はまだ確認されていないが,細石器的傾向を示すものとして前述のセビル文化後期,カルガ文化のほかパレスティナのナトゥフ文化と類似する下エジプトのヘルワン文化がある。

[原始農耕文化]

 沖積世に入ると乾燥化はいっそう進んでサハラは砂漠となり,ナイル流域の自然条件はほぼ現在に近づく。西アジア起源の農耕が伝わり,デルタ西縁のメリムデ・バニー・サラーマ Merimde Ban ̄ Sal´ma (メリムデ遺跡),ファイユーム (ファイユーム A 文化),中エジプトのターサ Tasa (ターサー T´s´) にエジプト最古の農耕遺跡がみられる。これらの遺跡の時代・性格など未解決の部分が多いが,今のところ前 5000 年ころに始まり,前 5 千年紀を通じて存続した新石器文化とされている。大麦,エンマ小麦を栽培し,ヤギ,羊,牛,豚を飼育するが,なお狩猟漁労採集にも依存し,集落の規模は小さい。穀物はフリント製石刃を木柄に取り付けた石鎌で刈り,地中に埋め込んだ編籠や地下貯蔵穴に蓄え,石棒と石皿で粉にした。弓矢・棍棒などでカモシカ,カバ,ワニを狩り,銛 (もり) で魚を捕った。石器にはほかに局部磨製石斧があり,石鍬 (いしぐわ) として用いられたと見られる。亜麻も栽培され織物とされた。土器は手づくねの黒地または赤地の粗製品が日常用いられたが, ターサでは朝顔形の口縁をもつ幾何学文の黒色刻文土器も作られた。住居は簡単な木組みに葦の壁や天井をめぐらせた程度で,楕円形や馬蹄形のプランをもつが,メリムデでは後に粘土張りの床・壁をもち,排水用の土器を床に埋め込んだ竪穴式住居も発達する。 ファイユームには炉址も発見されている。埋葬には地方色が見られ,メリムデでは住居の近くまたは住居内に掘った浅い坑に右側を下にして顔を東に向けた横臥屈葬で,副葬品はほとんどないが,ターサでは墓地内に左下西面の横臥屈葬である。副葬品には,土器,石器のほかさまざまな装身具類 (貝製・象牙製ビーズ,貝製の垂飾 (すいしよく),駝鳥 (だちよう) の卵殻の円盤) や日用品 (象牙製の侯,眼の周りに塗るクジャク石をすりつぶすための化粧板) がある。シナイ半島産のクジャク石や紅海産の貝など,既に交易も始まっていることが知られる。


アシュール文化  北フランス,アミアン郊外,サンタシュールSaint Acheul遺跡を標準遺跡とする前期旧石器時代文化。ヨーロッパではいわゆるハンド・アックスを伴う石器文化の新しい方に位置づけられる。木や骨角を材とした軟質のハンマーをその石器製作に用いた結果, 影離が薄くなり,石器の稜部が直線形になる。その年代はミンデル氷河期からリス/ウルム間氷期の終りまでがあてられ, 30 万年以上も継続したと考えられる。分布もきわめて広く,西ヨーロッパからインドまで,およびアフリカ大陸全体に知られる。アフリカではクリーバーと呼ばれる幅広刃部をもつ両面調整の石器を伴うのが普通である。ヨーロッパではクリーバーはイベリア半島に限られる。
 ハンド・アックスの形態に従って 3 期に分けられる。前期では分厚い塊状を呈し,大型の影片石器を伴う。中期には長さが短くなったハンド・アックスがみられ,楕円形で薄いもの (ヒラメ形) が多い。後期では三角形を呈し,先端が鋭くつくり出されたものが多くなる。フランスのドルドーニュ地方ではウルム氷河期になって特殊な発展が認められ,それはミコック文化の名で呼ばれている。ただアシュール文化における石器製作技術の進展は,最近ではヨーロッパよりもアフリカでよりよく知られている (タンザニアのオルドバイ遺跡)。アルジェリアのテルニフィヌTernifine 遺跡において,原人の骨がアシュール文化に共伴し,その文化の担い手が原人であることが明らかとなった。さらに最近,この文化の研究の古典的地域である,北フランスのソンム川流域でも原人頭骨の破片がアシュール文化に伴出した。いくつかの洞窟をも含めて,多くの遺跡が知られているが,生活様式が明らかにされるにはいたっていない

[先王朝時代]

 原始農耕文化はエジプト独自の文化の始まりであり,上エジプトではターサ文化に続いてバダーリ文化, アムラ (ナカダ第 1) 文化,ゲルゼ (ナカダ第 2) 文化と継起し王朝時代へ移行する。しかし下エジプトのメリムデ文化に続くオマリ文化, マアディ文化の内容は,ナイル水位の上昇によるデルタ内部の考古学的調査の困難さのためほとんど不明である。
 バダーリ文化は遺跡の分布,文化の内容共に先行するターサ文化と重なる部分が多く,ターサ文化をバダーリ文化の一局面とみる説も強い。鍛造による銅製のビーズが出現し,金石併用期に入ったことを示す。土器には黒色刻文土器のほか,赤色磨研土器,黒色口縁土器が加わり,細かな条痕文を特徴とする。象牙製の侯やスプーンの動物装飾,小型の人物土偶や象牙偶 (特に女性像) は造形美術の萌芽を示す。土器をはじめ南方の強い影響が指摘されている。
 アムラ文化はナカダを中心に上エジプト全域に広がり,人工灌漑の普及による農耕経済の確立を示唆するが,土器 (白色交線文土器) の文様,動物形土器,動物装飾の侯・化粧板 (パレット)・ピン,各種の狩猟具 (鏃,槍,銛,棍棒) などからみて依然として狩猟漁労も重要な生業である。銅の使用も拡大し,化粧具,銛,鏃,ピンなどが作られ,金のビーズも多量出土する。交易圏は拡大し,アジアから銀,鉛が輸入されている。
 ゲルゼ文化と共に人口の増加,文化水準の著しい向上,社会分化の拡大と政治的統一の進行など王朝時代への発展が加速する。アムラ文化と同じく上エジプト中部から上エジプト全体を覆い,下ヌビアに及び,末期にはデルタのマアディ文化にも取って代わる。土器は特徴的な〈彩文土器〉や波状把手土器が出現し,手回しドリルの導入により精巧な石製容器が製作され,圧影法によるフリント製石器 (石刃,石鏃など) の技法も最高水準に達する。化粧板は動物形が盛行するが,後期には大型の楯形奉納用化粧板が出現,表面に浮彫が施された。集落,墓地の規模は拡大し,日乾鮭瓦造りの住居や墓も現れ,後期には西デルタに周壁をもつ都市が成立する。西デルタを通じて注口土器や円筒印章などが伝えられ,西アジアとの交渉の活発化を示す。文字の使用も始まったと見られる。 れ,前 3 世紀にマネトン (マネト) が著した《エジプト史》にもとづいて 31 の王朝に分けられている。この王朝区分は現代においても踏襲されているが,王権の強弱 (同時に文明の水準の高低) に対応して,古王国・中王国・新王国の各時代,それらにはさまれた第 1・第 2 中間期,および興隆期 (初期王朝時代) と衰退期 (末期王朝時代) の 7 期にまとめられている

ターサ文化  エジプト先王朝時代の文化。中部エジプトのナイル東岸のデイル・ターサ Deir Tasa, ムスタジッダ (モスタゲッダともいう) 等を主要遺跡とする。 バダーリ文化に先行する上エジプト最古の新石器文化として,イギリスの考古学者 G.ブラントンが熱心に提唱したものであるが,現在では独立した文化とは考えられておらず,バダーリ文化の初期の段階とする意見が一般的である。口縁部が朝顔形に開き,胴部および口縁内部に白色の練土を詰めた刻文を持つ黒色磨研のビーカー形土器を特徴とする。土器胴部の刻文としては,縦方向の波形を持つものが多い。長方形のパレットや磨製石斧等も使用されていた。この時期の住居址は発見されていないが,人々は長円形の竪穴墓に埋葬されていた。しかし,この文化に関しては不明な点が多く,バダーリ文化の初期の段階であると見なすことさえも危険であるとする意見も強い。
近藤 二郎(平凡社世界大百科事典)
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メリムデ Merimde エジプト北部,カイロ北西約 60kmにある下エジプトを代表する新石器時代の大集落遺跡。中心遺跡は,マリムダ・バニー・サラーマ。 1920 年代末から約 10 年間にわたり,オーストリアの H.ユンカーらによって発掘された。ここで発見された文化を総称してメリムデ文化と呼んでいる。遺跡は 3 時期に大別されるが,発掘が必ずしも適切でなかったこともあり,この文化をどの時期に置くかは異論が多い。出土遺物から考え,おそらく上エジプトのバダーリ文化期の後半から, アムラ文化期 (ナカーダI期) の末ころにかけての時期のものとみられる。埋葬様式や石製容器,パレット,棍棒頭などにパレスティナ的様相が強くみられる。上エジプトの先王朝文化と異なり,特別な墓域は存在せず,人々は住居間に掘られた浅い長円形の竪穴墓に屈葬の形で埋葬された。これはパレスティナ地域の初期新石器文化の埋葬例と類似している。鉢形の石製容器は閃緑岩や玄武岩製で,パレットも玄武岩やカコウ岩,アラバスターなどから作られており,形状も上エジプトのものとは大きく異なっている。棍棒頭は,パレスティナやメソポタミア地域で一般的な洋梨形のもので,上エジプト地域では,ゲルゼ文化期 (ナカーダII期) にならないと出現しないものである。
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バダーリ文化  前 5 千年紀後半に成立した,現在までに判明している上エジプト最古の先王朝時代の文化で,金石併用期に属する。バダーリ al‐Bad´ri,デイル・ターサ,ムスタジッダ,ハンマミーヤ等,中部エジプトのナイル川東岸地域に集中して遺跡の分布を見るが,その範囲は上流のナカダからヒエラコンポリス付近にまで及んでいる。エンマ小麦,六条大麦,亜麻を栽培し,羊,ヤギ,牛等を飼育していた。土器は薄手で,焼成は良好であり,侯目磨研土器とブラック・トップ赤色磨研土器とに代表される。住居は低位の砂漠の耕地寄りの部分に営まれ,その山側に墓域が設けられ,人々は長円形の竪穴式墓穴にむしろや亜麻布でくるまれて埋葬された。動物の姿を装飾した象牙製の侯やスプーン,粘土や象牙製の女性小像,護符なども製作された。また,アシやトウシンソウ (イグサ) などから作られた編物や,亜麻製の織物などが発見されている。
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アムラ文化  エジプト先王朝時代の文化 (金石併用期)。ナイル川上流のアムラal‐Amra,ナカーダ等を中心に,北は中部エジプトのアシュート付近から,南はアスワン付近まで分布する。前 4 千年紀に,バダーリ文化から発展したもので, ナカーダI文化とも呼ばれ,次のゲルゼ文化へと移行していく。赤色土器に白色顔料で文様を描いた白色交線文土器やフリント製の魚尾形および菱形のナイフを特徴とする。動物や鳥の意匠を持つ,スレート製のパレット (化粧板) や象牙製の侯が製作された。南パレスティナの同時代の文化と密接な関係があると指摘される象牙製および粘土製の人物像も多数発見されている。石製容器の製作も開始され,それと関連してキクラデス諸島産の金剛砂が輸入されるようになった。住居址や竪穴墓のプランは,長円形のものが一般的であるが,大型で長方形のプランを持つものが出現するようになり,階級の分化が急速に進んだことを示している。
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ゲルゼ文化  エジプト先王朝時代末期の金石併用期文化で, ナカーダII文化とも呼ばれる。ナイル下流のゲルゼ Gerze 遺跡にちなんで名づけられた。 バダーリ文化,アムラ文化の延長上に位置し,地域はアムラ文化より南北に拡大している。アムラ文化末期に変容を遂げた村落共同体は,前 4 千年紀の後半にノモスの中心となる町へと成長していった。彩文土器や波状把手付土器,注口土器等に特色がある。石器加工技術は頂点に達し,押圧影離技法によるみごとなフリント製ナイフが作られた。長方形の竪穴墓が広く普及し,壁龕 (へきがん) をもつものや,木棺,陶棺に埋葬された例もある。住居のプランも長方形が一般的となった。シュメールのジェムデット・ナスル型円筒印章の存在や大型の奉納用パレット等に見られる非エジプト的意匠等,メソポタミアからの文化的影響を想起させる。 ラピスラズリの流入等,この時期,交易は飛躍的に発展した。統一の過程で,町は城壁をめぐらして要塞と化し,やがて強力な第 1 王朝が出現する。
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(first updated 2006/04/30) lastModified: 2006年


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