聖樹聖獣文様
『聖なる幻獣』を読む
唐草とともにある聖獣(5)
ガルーダ グリフィン
立川武蔵(著)/大村次郷 (写真)
(集英社新書 2009/12/16刊) |
「神々や仏の聖性を高める獣たち。」
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目次読書
立川武蔵さんの『聖なる幻獣』を読む 第5章
目次(+抜き書き+画像検索)読書
ガルダ(ガルーダ)
翼のある獣
ガルダ鳥
図(第五章表紙)
霊鳥シームルグ、テヘラン郊外、イラン
ガルダ鳥
インド神話に登場する鳥の代表
ガルーダ(サンスクリット語ではガルダ)、話をするという意味の動詞から派生した名詞
言葉の翼という意味
ヴェーダ文献では「ガルトマン」(後世の叙事詩『マハーバーラタ』にも現れる)
図5-1 ガムランの楽器台の装飾に見られるガルダ鳥頭部
ガルダ鳥はインドネシアの国のシンボル
いたるところに怪鳥のイメージが用いられる
ウブドの旧王宮、バリ
Prasat_Kravan_Garuda (
Wikimedia Commons)
図5-2 ヴィシュヌを乗せたガルダ鳥。アンコール・トムから南東約5キロメートル
プラサット・クラヴァン。ガルダ鳥の上半身が人の姿。
ヒンズー神話ではヴィシュヌの乗り物
(ヴィシュヌ自身が捧げられる供物)
Prasat Kravan
https://www.abaxjp.com/camb2-pkravan/camb2-pkravan.html
「歌の翼」ハイネ(1797~1856)の詩
恋人を歌の翼に載せてガンジス川の岸へともに飛んでいく(『歌の本』「叙情挿曲」第9)
ドイツ語で≪ペガサス(翼のある馬)を駆る≫=詩作する
リグ・ヴェーダの編者たちが心がけたこと。・・詩的発想(ディー)を持ち続けること
秘儀的なヴェーダの言葉を神々へと届ける役目を担ったのがガルダ鳥。
図5-3 翼のある馬ペガサス(ペーガソス)メドゥーサの首の血から生まれたという。ミラノ中央駅。
※ハイネの詩
https://www.worldfolksong.com/songbook/masterpiece/tsubasa.htm、
https://www.geocities.co.jp/mani359/mei0507utanotubasa.html
正統派バラモン僧たちに、ヴェーダの聖典の言葉は、恒久普遍なもの、
祭式学を専門とするミーマンサー学派・・言葉そのものは永遠に存在していると考えた
カトマンドゥでは、半円形のトーラナのキールティムカに代わってガルダ鳥が見られるようになった。
(今ではガルダ鳥の方が明らかに多い)
図5-4 蛇を咥えるガルダ鳥 魔除け。キールティムカのスタイルに合わせて描かれている。
ティンブー、ブータン。
日本でもガルダ鳥はよく知られている。
「金翅鳥(こんじちょう)」または、「迦楼羅(かるら)」と呼ばれ、
八部衆(天、竜、夜叉、阿修羅、緊那羅キンナラ)など
ブッダに教化されたといわれる神々の一人として尊崇されている
日本ではガルダ鳥は仏教のパンテオンに組み込まれており、「神々への讃歌を運ぶ翼」という役割は見られない
一方でガルダ鳥が
火防尊(火事の災難から人々を守る神)として祀られていることがある
曹洞宗の寺院
「可睡齋」(静岡県袋井市)最勝院(静岡県伊豆市)
孔雀
シヴァの息子スカンダ(あるいはクマーラ)の乗り物
パラヴァーニ(年)という名の孔雀
惑星=グラハ(人間の運命を捕まえるもの)
スカンダはナヴァ・グラハ(九曜 くよう=月、火星、水星、木星、金星、土星、太陽、彗星、日月食を起こすもの)の統率者
唐は童子( クマーラ)の姿ながら、軍隊をひきいて彗星
の魔人ターラカを退治する軍人。
日本では韋駄天として知られる
タイ、ラオス、ミャンマー、、カンボジア
人面鳥身の聖獣「キンナラ」(サンスクリット語で召使い)
女性のキンナラ=キンナリー
バンコックやヴィエンチャンにおいては、カトマンドゥ式の半円形トーラナは見られず、
切妻屋根の三角形においても、キールティムカ達の三点セットは現れない。
その三角形の構造にしばしばキンナラあるいはキンナリーが合掌した姿で現れる
検索
https://butuzou.web.fc2.com/
興福寺の緊那羅像・・「何か(kim)人(nara)」の意味で、人なりや何なりやで半神とされる。
とか、
Wikipedia・・中国語で「人非人」というとあるが本当か?
図5-5 インドやネパールでは、神や仏に供物をささげたり、そばで楽器を奏するのはアプサラス(天女)であるが、 東南アジアではその役をキンナラがになう。
アーナンダオゥ寺院、パガン、ミャンマー
図5-6 キンナラとキンナリー,
しばしば夫婦として登場する。
ボロブドゥール寺院の第一回廊北面、インドネシア
図5-7 キンナラとキンナリー、
アジャンタ第17窟の天井画
図5-8 カトマンドゥではトーラナの左右にマカラの代わりにキンナラが見られることがある
パタンの旧王宮近くの広場、カトマンドゥ盆地
東南アジアではよく知られた存在だが、あくまで脇役的存在
バリの獅子バロン
バリ島には、獅子バロンの仮面をつけて踊るダンスがある(バロン・ダンス)
魔女ランダとの戦い
劇のバロンには翼はないが、
寺院の入口あるいは儀礼場におかれたバロン像にはしばしば翼がある
バロンとカーラはバリの人々にも区別がつかないほど似通っている。
バロン・・中国南部に起源を持つと思われる獅子舞の系統に属する
カーラ・・インド伝来のキールティムカの伝統を踏まえたもの
図5-9 翼のあるライオンあるいはバロン。タンガス・コリアゲン・ドンジャ寺院、バリ
図5-10 外敵から寺院を守る有翼のライオン。アーカーシュバイラブ寺院、カトマンドゥ
ネパールでも有翼のライオンはしばしばみられる
図5-11 寺院主堂を守る聖獣。角があり、顔は鳥であるが、全体としてはライオンに基づいたイメージ464年
ヴィシュヌを祀るチャング・ナラヤン寺院、カトマンドゥ盆地
翼のあるライオン・キマイラ
ライオンの頭 口から火をふく、
胴あるいは首から山羊の頭が付きでており、尾は蛇
一説によれば、リュキア地方(トルコ南部)にあった火山の動物化であるという
ペガサスに乗った英雄ベレロフォンによって退治される
(ホメロスやヘシオドス)
キマイラを成立させている三要素の組み合わせはまことに奇妙
不可解、不調和などを象徴すると考えられている
今日の日本では、ゲームやアニメで、複数の魔物が合成された「超魔物」として活躍
図5-12 怪獣キマイラ(キメラ) アナトリア文明博物館、アンカラ。
この作例では 首から出ているのは山羊の頭でなく、人頭
翼のあるスフィンクス
人間の頭とライオンの胴体を持ったスフィンクス
起源は古代エジプト
後世、ギリシャ、メソポタミアにも見られた。
ピラミッドの近くに見られたスフィンクスは、元来、王を象徴していた
後に「死者たちの神」の性格を有した
ヒッタイトでは、脚以外は女性の身体を持つ有翼のスフィンクス像が造られており、
更に古代ギリシャでも美しい女性の顔と胸を持つ有翼のスフィンクス像が造られた。
イスタンブール考古学博物館所蔵
男性の顔をしていた古代エジプトのスフィンクスのイメージとはかなり異なる。
このようなな変化はメソポタミアの影響を受けたためと考えられている
(山折哲雄監修『世界宗教大事典』)
図5-13 スフィンクス。この怪獣はオイディプス伝説により知られるが、蛇女エキドナと犬のオルトロスの子とも言われる
アテネ 国立考古学博物館
聖獣グリフィン
グリフィン(グリフォン)もまた有翼のライオン(頭は鷲)
翼を持つ動物たちの中で最強のものと、地上の獣たちの中で最強のものとの合体
この空想の動物ほど、長い間、また広い領域で活躍し続けている聖獣はいない
紀元前3000年ごろのメソポタミアのシュメール人に「チュムババ」の名で知られていた
バビロニア人、アッシリア人、エジプト人、インド人、イラン人、シリア人、ギリシャ人などの間でも知られていた
後世ヨーロッパのほとんどの地域のにおいてもいきつづけた。
日本でも、建築会社のイメージ・アニマル等として活躍
グリフィンは「家」の守り神
財物の見張り役
図5-14 円筒印章に掘られたチュムババ(グリフィン)の古いイメージ
スサ、イラン Ernst and Johannna Lehner,A Fantastid Bestiary、p110
図5-15 サーンチーの第1塔の西側のトーラナに掘りこまれたグリフィン、1世紀ごろのインドにすでにグリフィンのイメージが伝えられていたことが分かる
図5-16
サーンチーの第2塔のグリフィン。
シュンガ朝(2世紀ごろ)翼は見られないが鳥の顔を有する。
図5-17 (イラン)
グリフィン 鷲あるいは鳥の丸い目とライオンの足が強調されている
アンコールに集う聖獣たち
カンボジアは、インドよりもエジプトやメソポタミアから遠く離れている
しかし、アンコールの遺跡は、エジプトやメソポタミアなどから旅をしてきた動物たちであふれている
インドより西アジアに近いという錯覚を与える
ジャヤヴァルマン七世が1192年建立プリヤ・カン寺院に派インドのエローラ石窟などよりも大胆に「西方のもの」を受け入れていた
図5-18 サンボール・プレイ・クック遺跡(アンコール・トムから東南東に130キロほど)
シヴァ神の祠堂にも聖獣たちが並ぶ ガルダ鳥の左右にペガサス、グリフリン
インドで生まれた怪鳥ガルダとおそらくはギリシャ起源のペガサス、更にシュメール人の間で生まれたと考えられるグリフィンインドシナ半島の内陸部で集っている
ガルーダについてもう少し・・
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『聖なる幻獣』を読む
(以下第六章の
一角獣に続く)