ライオン・獅子
錬金術の象徴でのライオン
錬金術の象徴体系では赤いライオンは
硫黄を表す。ま
た緑のライオンは混沌段階の原物質を表し,太陽を飲みこむ緑色のライオンという形で寓意化されている。これは原物質が〈賢者の石〉に触れて変成を開始する意味だという。しかし,この寓意はライオンが太陽を吐きだすところとも解釈でき,エリクシル (錬金薬液) の精製過程を示すとする見解もある。これに関連し 2 頭のライオンがともに描かれれば水銀の二重性を表す表象となり,ここから水星とも関連づけられたりする。一方,占星術では,エジプトでの象徴に従って
獅子宮が 8 月と夏を象徴し, 〈地下の太陽〉と形容される。ライオンがイノシシ (冬) やユニコーン (春) を狩る図像は,いずれも夏の到来を示したものである。また正面を向いたライオンの顔 (獅子頭) は火炎に取り巻かれた太陽の表象として図像化されている。これはさらにミトラス教の時の神アイオン Aiヾn,エジプトで用いられた
背中あわせのライオンの意匠などにもかかわり,時の経過 (日の出,日の入り) を表した。しかし他方,キュベレの乗る二輪戦車を引く獣,イシュタルの聖獣としては,太陽の授精力や豊饒性を表現する。また〈地下の太陽〉 (地霊) との連想からしばしば月とも関連づけられることもある。一方,その狂暴性を強調させた表象も多い。たとえばペルシアやインドの美術では月と太陽,またはヒツジとライオンを対 (つい) にして前者が楽園や平和を表す。ここでは狂暴なライオンは死の象徴であり,
エジプトのセクメトやカルデアのネルガルといった死をもたらす悪神の持物であった伝統を継いでいる。
この獣の象徴的意味がいかに複雑であるかを物語る実例といえよう。
荒俣 宏(平凡社世界大百科事典)
錬金術については、別にみます⇒
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