世界の美術史家ピックアップを終え
ここで、最後のおさらいで、日本版Wikipediaの「美術史」の項を要約しました
(20180223現在)
よく考えると、「美術史」そのものではなくて、「美術史学の歴史」になっているわけだが・・・
歴史的展開
パウサニアス:『ギリシア案内記』のような旅行記・案内記と、大プリニウス『博物誌』芸術家・作品についての記録
ヴァザーリ:体系的な図像分析のための基本的技術を確立した。二十世紀の「イコノロジー」研究の要素を持っていたことも知られており、最初の美術評論家とも呼ばれる
18世紀
ヴィンケルマン 美術史が明確な方法意識と体系を持った学問として成立/地域・時代ごとに整理された歴史区分を示し、またそれぞれの区分のなかで様式が展開してゆくとする「様式論」に基づいた美術史像を提出
19世紀後半
モレッリ:視覚的データにもとづく厳密な形態研究が
ベレンソンやフリートレンダーが継承
19世紀末には写真図版が普及して作品研究に活用されるようになる
19世紀には、ルネサンス期から肖像画論として継続していた「イコノグラフィ(図像学)」も、キリスト教考古学の発展とともに美術作品の寓意的・象徴的形象を読み解くための方法論として確立されてゆく。
アロイス・リーグル:広範な地域と時代におよぶ装飾モチーフの分類法と発展の法則を示した。
この様式論はヴェルフリンによって理論化がすすめられ、2つの時代様式、16世紀の「ルネサンス」様式と17世紀の「バロック」様式を五つの対概念によって定義
様式が変わってゆく原動力を時代精神や民族性、個人の才能だけに求めず、造形上の形式自体の展開のうちにとらえたこの手法はアンリ・フォシヨン『形の生命』(1934) などに受け継がれ「様式」が自ら発展しながら美術の歴史を形づくってゆくと考える立場、すなわち「様式論」が一つの完成を見る
一方、エミール・マールの図像学的研究やマックス・ドヴォルシャックの精神史的研究の蓄積を経て、ヴァールブルクとパノフスキーの手によって、新しい方法論イコノロジー (図像解釈学)が産み落とされる。
ヴェルフリンらが代表する様式論は、美術作品を形態や表現形式といった外形を通じて分析しようとしていたが、新しいイコノロジーは、作品の主題や意味そのものに注目する。
図像を象徴的価値をはらむものとして捉え、作品を生んだ文化全体に照らし合わせて作品の意味を解読しようとする
「巨匠による傑作」が、主題や表現様式によって時代を画する「カノン(=規範的作品)」として叙述の中心を占めてきたことに対しては、厳しい批判が行われるようになった
男性中心の社会や文化が生み出した価値観が作品分析に大きく影響していることが批判された結果、女性やマイノリティ、非西欧世界、労働者階級といった観点からのアプローチが積極的に追求され、
「ニュー・アート・ヒストリー」とも呼ばれ
T・J・クラークやマイケル・バクサンドール、スヴェトラーナ・アルパースといった研究者が主導
美術史の方法論 |
関連文献(邦語)
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(20180901現在)
若桑みどりさんは、自著について、上に挙げられている、『イメージを読む 美術史入門』(ちくま学芸文庫) は初級で、『イコノロジー入門』(NHKブックス1993)が中級という。
その「まえがき イコノロジー(図像解釈学)となにか」で、「事実についての知識は、感受性を深めこそすれ決してそれを抹殺しない」(p11)という話をしておられるのだが、「われわれにとってもっともよい教師であったエルヴィン・パノフスキーの『イコノロジー研究』(美術出版社)」のほか、 いろいろな文献の紹介があったので挙げておきたい。
Ⅰ カラバッジョ『果物籠』
「ある程度の美術史の枠組みを提供してくれるような概説書は、日本語では大変少ない」(p22)
もっともすぐれたものは
A・ハウザー『芸術と文学の社会史』 (全三巻、平凡社)
より簡便なものは
E・H・ゴンブリッチ『美術の歩み』(美術出版社)がある
古代世界が崩壊したあとにキリスト教を中心にして築かれた中世美術において、古代美術で発達していた自然模倣の様式は再び姿を消してしまう。
静物画を例にとれば、中世の宗教芸術の中にも、静物画的要素は、そのほかの自然界、現実界の要素と同様に、数多く登場する。最も頻繁に登場する静物画的主題は、キリストが弟子たちと最後の食事をする場面、カナの婚礼、マタイがイエスを饗応するレビ家での晩餐、キリストが復活したことを知らせるために弟子と食事をする絵馬緒での夕食など数多くの主題がある。
こうした主題について知るための便利な事典
J・ホール『西洋美術解読事典』(河出書房新社)
聖書の象徴を調べるのに便利な事典
M・ルルカー『聖書象徴事典」(人文書院)
全ての宗教的な、また観念論的な思想、特に西欧の思想の父であるギリシア思想にも共通している根本的なものの見方、西欧芸術の思想を非常によく説明してくれる名著
E・H・ゴンブリッチ『シンボリック・イメージ』
(平凡社) については、 「彼はその「日本語版へのまえがき」で、つぎのように書いている。」
「プラトン主義に特有でおそらく東洋にその例を見ないのは、この転変常なき非現実の感覚界の背後に、二番目の、恒久不変の真理の世界が存在するという確信である」(p24)
つまりは、西欧の芸術表現には、感覚世界を、理想的世界の目に見える表れであると考える哲学的伝統が根強く影響していたということである。
したがって、十四、十五世紀に始まるルネサンス芸術においても、科学的世界観が次第に成熟して、自然世界をありのままに真実らしく再現するというリアリズムに向かって進みはしたものの、また客観的な自然模倣の技術が発達したものの、目に見える事実がただそれだけの描写のために描かれたという風には決してならなかった(p25)
16世紀最初の近代的美術史家であるヴァザーリがトスカーナ広国に作った「国立アカデミー(美術学校)」
N・ぺヴスナー『美術アカデミーの歴史』(中央大学出版)
Ⅱ ティツィアーノ『聖なる愛と俗なる愛』
E・ウィント『ルネサンスの異教秘儀』(晶文社)
K・クラーク『ザ・ヌード―裸体芸術フォン―理想的形態の研究』(美術出版社)
Ⅲ ボッティチェッリ『春
』
S・ドレスデン『ルネサンス精神史』(平凡社)
Ⅳ ニコラ・プサン『われアルカディアにもあり』
E. パノフスキー『視覚芸術の意味』(岩崎美術社)
F・アリエス『死と歴史』(みすず書房)
Ⅴ ミケランジェロ『ドーニ家の聖家族』
Ⅵ フラ・アンジェリコ『受胎告知』
M・バクサンドール『ルネサンス絵画の社会史』(ヴァールブルク・コレクション)(平凡社)
F・アンタル『フィレンツェ絵画とその社会的背景』(岩崎美術社)
Ⅶ レンブラント『ペテロの否認』
Ⅷ ブロンズィーノ『愛のアレゴリー』
L・B・アルベルティ『絵画論』(中央美術出版)
A・ハウザー『マニエリスム―ルネサンスの危機と近代芸術の始源』(岩崎美術社)
Ⅸ ジョルジョーネ『テンぺスタ(嵐)』
辻茂『詩想の画家ジョルジオーネ』(新潮社)
S・セッテス『絵画の発明―ジョルジョーネ「嵐」解読』(晶文社)
E・ウィント『ジョルジョーネ解読』(中央公論美術出版)
Ⅹ デューラー『メランコリア』
クリバンスキー、ザクスル、パノフスキー『土星とメランコリー』(晶文社)
F・イエイツ『魔術的ルネサンス―エリザベス朝のオカルト哲学 』(晶文社)
Ⅺ パルドゥング・グリーン 『女の三世代』
Ⅻ ピーテル・ブリューゲル『バベルの塔』
ヨセフス『ユダヤ古代史』(山本書店)秦 剛平
森 洋子編著『ブリューゲル全作品』(中央公論社)
「西洋美術史入門 」が、よい。 →こちらのページへ
『西洋美術史入門 〈実践編〉』ちくまプリマー新書 2014
◆辻 佐保子『中世絵画を読む』 を読む
「世界美術大全集 西洋篇6・ビザンティン美術」
「世界美術大全集 西洋編7・西欧初期中世の美術」
聖堂装飾プログラムの発生
キリスト教芸術の起源の問題
中世初期の石棺(2)
読むべきヨーロッパ中世美術の本: wp/2015-04-05-071452/
◆安発 和彰(あわ かずあき)
◆木俣 元一(きまた もとかず)
◆若桑 みどり
◆尾形 希和子『教会の怪物』を読む
◆金沢 百枝『イタリアの古寺』『ロマネスク美術革命』を読む
イタリア人 ・ ドイツ人 ・ フランス人・ イギリス人・ ハインリヒ・ヴェルフリン+アメリカ人・中国人他
ドイツのヴィンケルマンとヴァールブルク そしてウィーンのアロイス・リーグル
邦訳文献&日本人