『なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか 』という幻冬舎新書(稲垣栄洋著 2015)なのだが、非常に新鮮に感じだ個所は、「釈迦は植物のように生きよと説いた」というような、帯の惹句ではなくて、蓮が約1億年前に出現した古代植物であるということ。その意味は花弁の数が多い、めしべがずんぐりして無秩序に離れて並んでいる。花の形が整理されておらず、花の上が平らになっているということ。
これまで読んだ本にそんなことは書かれていなかったと思う。
これぞ「蓮華座」を生むための不可欠の要素であったということであろう。
蓮の花の上が、平らになっている、そのわけだが、
(P23の図)
植物は古くは受粉のために風で花粉を運ぶ風媒花であったが、恐竜が繁栄するころになると昆虫が花粉を運ぶようになった。
この植物の進化の過程で、植物の花粉を運ぶ役割を最初に果たしたのが、ハナムグリやハナカミキリなどコガネムシの仲間だと考えられている。
コゴネムシの仲間は不器用で花にドスンと着地すると、のそのそと動きまわります。そのため、蓮の花はコガネムシの仲間が動きやすいように花の上が平らなっているのです。
その後、器用に飛びまわって蜜を集めるハチやアブなどが登場すると、花々はさまざまな形に進化していった(p22)
ハナムグリ(花潜)
学名:Cetonia(Eucetonia)pilifera pilifera)
科名:コガネムシ科
英名:Flower chafer
背面は緑色、体長は14-20mmほど
蓮が 古代植物であり、めしべがずんぐりしている、ということだが、このずんぐりしためしべは、「実と間違えられて、蓮は花が咲くと同時に実を生じていると珍しがられた 」という。蓮が、原因と結果は常に一致するものであり、原因が生じたと同時に結果がそこの生じるという「因果俱字(いんがぐじ)」の例えに用いられたという。(p21)
このほかに、花弁の数が多いということであるが、そのことが結果するところは以下のようなことだろうか。
宇宙の根本的存在、毘盧遮那仏が座る蓮の花の上には千枚の花びらがあって、、一枚一枚に大釈迦がおり、その花びら一枚には百億のほとけの世界があって、それぞれに小釈迦が一人ずついるとされている。
蓮が、古代植物であるということについて、古代の大賀蓮の発見といったニュースの方に引きずられて、私にはその意味がぼやけてしまっていた。→大賀蓮
ここで「新潮世界美術辞典」参照。
仏像を安置する座(台座)の一つ。
インドに始まり最も一般的な形式。
池中から生れ出た蓮茎上の花を座とすることからは始まったもので、
単弁上向きの蓮華、(*コトバンク受花)
これに反花(かえりばな 下向きの花弁)を加えた蓮華、
数段葺きの複弁蓮華、
さらに荘厳を豊富にした宝蓮華などの座を生み、
一方をの蓮華をのせて支える台座も、
単純な方形のものから、進んで、二段反花や敷茄子、框座(かまちざ)などを重ねて複雑化した構成のものへと展開した。
蓮弁の葺き方には、
奈良時代と鎌倉時代に多くみられる魚麟葺(ぎょりんぶき)と、
平安時代に多くみられる吹寄>葺(ふきよせきぶき)とがある。
わかりやすい画像の検索
■「初心者のための仏像入門」サイトに「仏像世界基本形」という簡単な図解あり。
■「大仏さんの製造」に素晴らしい精緻な図があり。 造型作業、上下各々28枚の花びら
■仏師さんの台座づくりの技術の話
■https://avantdoublier.blogspot.jp/2014/09/blog-post_16.html「マトゥーラ仏では蓮華座というものを見つけることはできなかった」:新潮世界美術辞典にあるガンダーラの釈迦説法の蓮華座も出ている
「世界美術大全集 東洋編 15」にある蓮華座で一番興味深いのは以下。
蓮華の数が3段になって茎も長い。?
左右に花綱をかけようとしている像があるが、そちらもすべて蓮華座に乗っている。そちらの蓮華座は普通に上向きと下向きの2段。
頭上に花冠をかぶせようとしている天女もいる。
この写真、既に光背をつけなおした跡があるが、アフガニスタン内戦で、この像はどうなってしまったのであろうか。これも隠されていて無事であったのであろうか?
「 アフガニスタンの文化財がよみがえった」・・
「黄金のアフガニスタン―守り抜かれたシルクロードの秘宝展」東京展は2016年4月12日(火) ~ 2016年6月19日(日)東京国立博物館
人類の文化遺産が破壊される原因には3つあって、経済開発による環境破壊、地震などの自然 そして、戦争という・・
* UNESCOWorld Heritage in Danger*wikipedia 世界遺産の一覧 (危機遺産リスト)
世界美術大全集 東洋編 15:図284
ギメ東洋美術館蔵の如来坐像龕(6世紀末~7世紀初め)ウィグル ドゥルドゥル・アクール出土 木造 高さ26cm‥蓮華座
ベルリン国立アジア美術館Art of India in the Collection of South, Southeast and Central Asian Art, Museum of Asian Art…ここの像では、蓮華座は全然なさそう。図280のクムトラ石窟壁画(8世紀)ではみられる。
(仏像を見ていると「踏み割蓮華」とかいうのもあるので、続きます~)
わかりやすい画像の検索
https://www.narahaku.go.jp/collection/1174-0.html
法隆寺金堂薬師如来の光背の化仏の素朴な蓮茎上の座
ホトケノザ(仏の座)
学名: Lamium amplexicaule 科名:シソ科
「和名は、葉の形が、仏像の蓮華座に似ていることからついた名」*
ここで、蓮華座の対となるものを考えると、それは「獅子座」であろう。獅子座の方は、蓮華座よりはるかに古いように思われる。
太古の大型ネコ科動物を従えた女神像を思い浮かべると、確かにそう思える。
また、蓮華座は獅子座に比べると、それは、アジア発祥のものであると、考えられる。しかし古代エジプトも考えねばならない。蓮を縛ったものが「統治」を表し、それを椅子に刻んでいた・・
また、 獅子座は、ガンダーラなどの初期の仏像表現にもある・・・一つのテーマである。
蓮華座 | 獅子座 | |
蓮の上に座る・立つ |
両脇に獅子を従えて椅子に座る | |
発祥 | インド | 古代オリエント |
イシュタル女神(メソポタミア神話)
「バーニーの浮彫」
紀元前1800年~紀元前1750年頃
イラク南部出土 テラコッタ製。
(須弥山を象る須弥座、宣字座、裳懸座などもあるがこれは台座の形による)
獅子座については別に考えるが→
乗るということに関しては、植物に乗る、動物に乗るほかに、
岩の上の鬼に乗る(踏みつぶす)≒岩座、
雲に乗る=雲座(うんざ) ・・・
動物では禽獣座 (きんじゅうざ):
普賢菩薩像の象、文殊菩薩像の獅子、大威徳明王像の牛、孔雀明王像の孔雀などがそれに当たる。尊像によって定まっている。
植物では荷葉座(かしょうざ):
蓮の葉をかたどったもの。吉祥天像等、天部の中でも特に位の高いものに用いられる。
(*台座wikipedia 閲覧20160401)
バイヨン寺院のアプサラ クメールの女神・舞姫
Relief Apsara, Bayon, Cambodia.
バイヨン寺院の蓮の花の上で踊るアプサラ(ス)であるが、 蓮の花の上に立つ・座るについては、このくらいで、次は、蓮を頭に載せる、蓮を手に持つについてであろうか・・・→蓮華文