聖樹聖獣文様
このテーマで探求すること30年、まとめるのに4年かけたという「樹液神話」・・
内容が厚い
!
非常に饒舌文学的な文体だが、膨大な原注に出てくる少し懐かしい感じがする文献、エリアーデ(*)やプリニウス(*)以下をもう一度ゆっくりみるのもよいかも・・J・G・フレイザー(*)とロバート・グレーブズ、ロジャー・クック(*)、「はじめに」と「むすび」に挙げられるクロード・レヴィ=ストロース(*)など・・
※
Robert Gravesについては
The White Goddess (Wikipedia)という本の中の一部
「木の戦い」という章?だけ訳したものがあるようだ・・後ほど
「世界樹木神話」 ジャック ブロス(八坂書房 2000)
内容(「BOOK」データベースより)
この世界は一本の樹によって支えられていた―宇宙樹・聖樹・神木…樹木にまつわる神話・伝説を世界各地に訪ね歩き、膨大な知識の披瀝により樹木崇拝の神秘な世界を解き明かす 。
内容(「MARC」データベースより)
神聖であると見なされた樹木、宇宙樹に対する崇拝が、ほとんどの宗教において存在する。ギリシア・ローマから南アメリカまで、世界各地の宇宙樹への崇拝を解明。植物学など膨大な知識にもとづき神々の世界に光をあてる。
以下目次読書・・
『フランスの樹木、歴史と伝説』で古代社会において樹木の果たした大きな役割について触れた
この30年できる限り深めてきた探求の全体からみればほんの一部だった
樹木の神話学の復元・・クロード・レヴィ=ストロース(「野生の思考」)を筆頭とし、何人かの確かな導き手いなかったらら足を踏み入れることはなかった
「人間を世界の他のものから切り離したことで、西洋の人間主義はそれを保護すべき緩衝地帯を奪ってしまった」(クロード・レヴィ=ストロース Claude Levi-Strauss 「遠近の回想」)
1985-88 原題 "Mythologie des arbres" Jacques Brosse
巨大なトネリコ、ユッグドラシル/
ウプサラの王族からクレタ島のミノス王ヘ/
ポセイドンすなわちトネリコの神/
世界各地の宇宙樹/現実的夢想
シャーマンのカバノキ/
聖ブリギットと聖燭祭/
カバノキ、テングタケとソーマ/
悟りの聖なるインドボダイジュ/
逆さまの樹木アシュヴァッタ/
セフィロトの樹
ドドナの聖所/
ナイオスのゼウスからクレタのゼウスへ/
ギリシアとイタリアの聖なるオーク/
ヨーロッパにおけるオーク崇拝/
ドルイドのヤドリギとバルドル神
樹木のディオニュソス/
儀礼的縊死と豊饒/
キヅタとディオニュソス的錯乱/
ブドウの樹の神バッコス/
ディオニュソスと樹液の秘儀
→聖なる樹ブドウへ
聖なるマツの樹の祝祭/
アッティスあるいは原初の供犠/
イタリアカサマツ/
マルシュアスと吊り下げられた神/
アドニスあるいは没薬/
フェニックスとナツメヤシ/
オシリスの樹木
聖なる森/
聖なる森の迫害者たち/
ブロセリアンドの森で/
マーリンと森の野人/
樹木の魂/
ダプネとゲッケイジュ/
レウケとウラジロハコヤナギ/
ピリュラとシナノキ/
ピテュスとオニマツ/
カリュアとクルミの樹/
ピュリスとアーモンドの樹/
キュパリソスとイトスギ/
ピュラモスとティスベあるいはクワの樹/
ピレモンとバウキス/
異教の残存
大いなる牧神パンからサタンへ/
呪われた狩人、聖フベルトゥスとハンノキの王/
エルフ、小悪魔、コリガンたち/
妖精たちについて/
魔法の杖、魔女の箒とヘルメスの杖/
処女林と幻想の現実
オリーブの樹とアテナイ創設/
ローマの起源、マルスのイチジクの樹/
ヘスペリデスのリンゴ
堕罪から贖罪へ/
エッサイの樹/
アリマタヤのヨセフのサンザシ
以下ピックアップ・・ (本の表紙はアポロとダプネ)
Piero del Pollaioloピエロ・ポライウオロ1470–80
(ナショナルギャラリー、ロンドン)
ジャック ブロス『世界樹木神話』 第6章 聖なる森と樹木の魂
ダプネとゲッケイジュ
植物の変身のうち最も有名なものは、ダプネをアポロンのゲッケイジュに変身させたものといえる。(p283)
ダフネはアポロンが初めて誘惑したニンフではなかったが、面と向かって彼に対抗した唯一のニンフだったのだ。
おそらく、ダプネがいかなる愛も拒絶していたために、アポロンが愛した唯一のニンフであったように思われている。
それ以前に、この神は、コルクガシの樹のニンフ、アカカリスとの間にミレトスという名前の息子をもうけていた。
オークの樹のもう一人のニンフ、ドリュオペとの間にもアムピッソスをもうけていた。
これら二つの物語は、個々、子細に検討されるに値する。(p284)
◆コルクガシ
φελλόδρυς
フェロードゥリスfellodrys(Corke oke)
◆オーク 木の精ドリュアスのすみか。ギリシア語drys。
ドリュアス(古希: Δρυάς, Dryas)(wikipedia)は、
ギリシア神話に登場する、木の精霊であるニュムペー(ニンフ)。
複数形はドリュアデス( Dryades)、
英語ではドライアド (Dryad) 、フランス語ではドリアード (Dryade)
Apollo and Daphne, a marble sculpture made 1622–1625
by Bernini (1598–1680),
inspired by Ovid's Metamorphoses, Galleria Borghese, Rome.
「ベルニーニが20代半ばの若さで作った《アポロンとダフネ》。
ベルニーニは「ミケランジェロと肩を並べるほどの天才彫刻家と言われた」 上へと引っ張られるようなねじれた体の動きは、、バロック美術の特徴。」
「見る位置や角度によって、大きく印象が変わる作品。
アポロン側からから見るとダフネは女性の姿にしか見えないが、ダフネ側から見ると体を大きくよじった彼女の髪や手の先がすでに樹木にかわっていることがわかる。」
『西洋美術たんけん 第2巻 人間を描くぞ!美の巨匠たち』
池上 英洋 (監修)日本図書センター (2015/1/20)
ジャック・ブロスは以上のように書いているが、オウイデウスの『変身物語』(岩波文庫)第1巻p32によれば、話が違って、
ダプネ=「アポロンの最初の恋人」とある・・
ダプネーはギリシア語で月桂樹という意味。欧米では女性の名前として名付けられることもあり(著名な例ではデュ・モーリア)、日本語ではドイツ語・フランス語経由でダフネ(英・独:Daphne、仏:Daphné)とも呼ばれる。 アポローンに求愛されたダプネーが自らの身を月桂樹に変える話は、ギリシア神話の物語の中でもポピュラーであり、この物語に由来する芸術作品や風習が数多く存在している。 (wikipedia)
ある日アポローンは弓矢で遊んでいたエロースを揶揄する。そのことで激怒したエロースは相手に恋する金の矢をアポローンに、逆に相手を疎む鉛の矢を近くで川遊びをしていたダプネーにそれぞれ放った。
金の矢で射られたアポローンはダプネーに求愛し続ける一方、鉛の矢を射られたダプネーはアポローンを頑なに拒絶した。(
wikipedia)
ダプネーはアポローンの求愛から逃れるために、父である河の神に自らの身を変える事を強く望んだ。
その望みを聞き届けた父は、ダプネーの体を月桂樹に変えた。あと一歩で手が届くところで月桂樹に変えられてしまったダプネーの姿を見てアポローンはひどく悲しんだ。
そしてアポローンは、その愛の永遠の証として月桂樹の枝から月桂冠を作り、永遠に身に着けている。
(新潮文庫)
第二章 オリンポスの神々
第四節 アポローン神(p126)
一 母神レートの由来、銀弓神、防疫と予言の神
二 デルポイと「ピュ―ティア」、デーロス、その他の聖地
三 ヒュアキントスとカルネイアの祭/極北人の伝説、医療の神パイエーオーン
四 アスクレーピオスの伝説/馬人ケイローンとアドメートス
五 ダフネ―の物語/キュパリッソス(糸杉)
アポローンについての説話は、たくさんある。ことに北ではテッサリア、南ではアルカディアやラコー二アの地方では、コローニス(との子アスクレ-ピオス)の話の他、、多くの彼の恋愛の物語が伝えられているが、そのほとんどすべてが、不幸な結末に終わっているのはなぜだろうか。(p153)
こんなところで、今のところ、ジャック・ブロスの、ダプネ以外の、アポロンに関わる樹木のニンフの話は、確認できていない。なので、子細に検討するということは、無理目。また、どう考えるかということだが、結局、ケレーニイの言う通りの印象で終わり、光の神・芸術の神アポロンは・・あまり好きでなくなる(笑)
なお、wikipedia(20210506閲覧)には、アポロンとアカンサスの話があった。
アポローンからの寵愛を受け続けた妖精。しかしアカンサスは拒み続け、ある日アポローンの顔に傷をつけてしまい、アポローンによりアカンサスの花に変えられてしまった。
※アカンサスアポロンは美しい青年の神であり、したがってその恋の物語も数多い。ニンフのキレネからはアリスタイオスを、コロニスからはアスクレピオスを、ムーサのタレイアからはコリバスたちを、そしてウラニアからは音楽家リノスとオルフェウスを得ている。トロヤ王プリアモスの后ヘカベもアポロンを恋してトロイロスを生み、また、預言者モプソスもアポロンとマントとの子と伝えられる。アポロンは、さらにヒアキントスやキパリソスといった美少年との恋も経験している。伝承によれば、ダフネだけがアポロンの求愛を拒否して月桂樹に変身したという。(日本大百科全書(ニッポニカ コトバンク)
ダフネは初恋であるかどうかの他、もう一つ、「アポロンの恋愛が悲劇で終わるのはなぜか?」だが・・多分、悲劇でなければ詩歌にならないから‥、と思いつつ・・
フリードリヒ・ニーチェは、ディオニューソスを陶酔的・激情的芸術を象徴する神として、アポローンと対照的な存在と考えた(『音楽の精髄からの悲劇の誕生』もしくは『悲劇の誕生』)。
このディオニューソスとアポローンの対比は思想や文学の領域で今日でも比較的広く知られており、「ディオニューソス的」「アポローン的」という形容、対概念は、ニーチェが当時対象としたドイツ文化やギリシア文化を超えた様々な対象について用いられる。(wikipedia)
〈アポロン的〉と〈ディオニュソス的〉という対立概念は,ニーチェ《悲劇の誕生》に由来するもので,前者は夢想的・静観的芸術の一類型(世界大百科事典 第2版コトバンク)
アポロンは夢の神であると同時に,夢で見る光り輝く形象の神であり,その形象の規矩正しさという点で知性の鋭敏さに通じる神である。
ギリシア神話の酒神ディオニソスのうちに示される陶酔的・創造的衝動と、太陽神アポロンのうちに示される形式・秩序への衝動との対立を意味する。
すべてを仮象のうちに形態化・個体化する造形芸術の原理としてのアポロン的なものが、個体を陶酔によって永遠の生のうちに解体する音楽芸術の原理としてのディオニソス的なものと結び付いて、ギリシア悲劇が誕生する。
後年のニーチェはこの対概念を用いず、
永遠に創造し破壊する生の肯定という彼(ニーチェ)の哲学の核心を、ディオニソス的と規定している。[小田部胤久]
この対比、そうかと思ってきたが、アポロンも激情的に見えるし、竪琴を持つ音楽の神でもあり、ニーチェ、実はよくわからないのである。
ディオニュソスを女性的、アポロンを男性的とする見解、いや詳しく引用すると
アポロ・・しばしば愛に失敗する神
光と真実と美を具現化する神(アポロ)は愛と女性の世界に破壊をもたらす。
『元型と象徴の事典』 15変身 アポロとダフネ
(アーキタイプ・シンボル研究文庫 ぺヴァリー・ムーン編青土社1998刊)(p697)
排他的な男性性の支配、超然として冷静なところがアポロの暗い面である。「男が生命の源だ」と、アポロはアイスキュロスの『エウメニデス』の中で宣言している。ディオニュソスは自分の中に女性的なものを取り入れたが、アポロはそれを断ち切っている。アポロは女性的なもの、愛や直観を断ち切る力を具現化している。彼は、生や人間を完全に統制できると純粋に信じて、我々を委縮させる理性の秩序をもたらすのだ。
byアリアナ・スタシノプロスのエッセイからの引用(p697-698)
たしかに「暗い」と思う。アポロンの「理性」はわからない。理性には余裕・寛恕が付属して欲しいから。
Nicolas Poussin - Apollo and Daphne
ニコラ・プッサン『アポロンとダフネ』(1625年)
アルテ・ピナコテーク所蔵
植物としてのダプネ(or ダフネ=ゲッケイジュのギリシア語)についてはとりあえず、こちらのワードプレス記事へ。
※文様用語ゲッケイジュの冠→ ローレル
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