聖樹聖獣文様
生命の木 聖樹
仏教美術のイコノロジー
「 仏教美術のイコノロジー―インドから日本まで」(宮治昭著 吉川弘文館 1999)を読みます。聖樹信仰(*)と仏教美術の関係は興味深い。四天王(*)の話もある。
本の説明。(「BOOK」データベースより)
豊穣なインドの大地に生まれ、中央アジア・シルクロードを経て、中国・日本へと伝わってきた仏教美術。その伝播と変容、展開の様相を風土・民族・歴史と関連付けながら、イコノロジー(図像解釈学)の方法によって読み解く。
「聖樹信仰と仏教美術」
p78
はじめに(…というところをピックアップ)
インド仏教史=
古代:仏教美術、
中世:ヒンドゥー教美術、
近世:イスラーム教美術
民間信仰と仏教美術:紀元前1500年ごろ
アーリヤ人はもともとイラン人と祖先を同じくする
ヴェーダの神々を祀る
=聖樹に住む精霊的な神々
…ヤクシャ(男神)・ヤクシー(女神)
池や田に潜み財宝を持つ蛇(竜)ナーガ(男神)・ナーギー(女神)
生命力を司どる土着的な神々
釈迦の時代に民間信仰が広く行われていた
(
仏伝文献)
- カーリカという竜王から祝福を受けた
- ムチリンダという竜王が釈迦を守った
聖樹信仰は古代インド文化の根底をなしている
生命の樹
如意樹と呼ばれる柱頭彫刻
カルカッタ・インド博物館のもの…ベースナガルで発見された前2世紀ころ
玉垣で囲まれた
バニヤン樹の枝から財布や果物や蓮などが垂れ下がっている
なんでも願いをかなえてくれる木
繁殖力が旺盛な
アシュバッタ樹や
バニヤン樹…永遠の命の循環(輪廻)を象徴するもの
仏陀の象徴的表現と、
仏伝美術(誕生・樹下思惟・降魔成道・初転法輪・樹下説法・涅槃)
1.ストゥーパと聖樹信仰
ストゥーパ(仏塔)
釈迦の舎利(遺骨)を土饅頭型に祀った、
仏教の究極(輪廻転生のない涅槃=永遠の死)の象徴(シンボル)
古代インドでは王者の墓といえど知られていない
輪廻転生では墓は意味がない
ストゥーパとチャイテイヤがしばしば同意語として用いられる
チャイテイヤ
…ヤクシャ・ヤクシー、ラクシャス、ブータといった精霊の棲む樹
プージャー(供養方法)の類似
…もともと聖樹に行われていた供養法
香・華・塗末(とまつ)・燃燈(ねんとう)・
幢幡(どうばん=はた)・傘蓋(さんがい)
五指印(掌印)・音楽・
礼拝(右繞うにょう=みぎにまわる)
ストゥーパの造立
聖樹信仰のひとつの形態である柱(宇宙軸)のイメージが
重要な意味を持っていたと考えられる
円筒形の胴部に半円球状の覆鉢、柱のシンボル(=パイプ構造内蔵)
心柱の信仰
ストゥーパとリンガ(シバ神の象徴 ヒンドゥー教を代表する象徴)形体類似
2.ヤクシャ・ヤクシー
(樹神・豊饒神・鬼神)
初期仏教美術の聖樹
浮彫「釈迦最後の旅」(南インドのアマラーヴァーティ出土 前一世紀前半)
如意樹(カルバ・ヴリクシャ)
…聖樹には人格神が宿り礼拝者に望みのものを恵んでくれるという
仏教の守護神
おそらく古くは木製
現存 紀元前二世紀以降の石造…民間信仰の神像
マトゥラー考古博物館像など
バールフトの玉垣の隅像…多くの尊名の刻文を伴う影像
樹下に立って枝をつかんだり、花を妻で、受信としての出自を示唆
ヤクシャと四天王
バールフトのヤクシャ像
増長天(ヴィルーダカ・ヤクシャ クンバーンダの王)
多聞天(毘沙門天 クベーラ・ヤクシャ)
持国天(楽天であるガンダルヴァの王)
広目天(蛇の神ナーガの王)
四天王はヤクシャに出自を持つ一群の精霊の王
男神ヤクシャと仁王
仁王=執金剛神(しつこんごうしん ヴァジェラバーニ)
または密迹力士(みつしゃくりきし グフヤカ)
あらゆるものを打ち砕くという武器=金剛杆(こんごうしょヴァジュラ)を持った
ヤクシャ(薬叉あるいはグフヤカと呼ばれた下級の鬼神=豊饒神)が出自
金剛杆を持つ髪には神々の王といわれる帝釈天(インドラ)のほか様様な姿を取る執金剛神がいる
へレニズム・ローマ系のヘラクレス・ディオニュソス・プット(童子)、
中央アジアの王侯像、インド系のヤクシャ像などの造形を反映
開口の阿形と閉口の吽形との一対…中国創始
ヤクシャの造形表現
4つのタイプ
豊穣神・財宝神…便腹型
侏儒[小人]型…ヒンドゥー教ではガナと呼ばれその首長は像頭人身のガネーシャ
[シヴァ神の一群の眷族になる]
アトラス型…邪鬼の原型に
異形相型…キールティカテンヘレニズム世界から移入された獅子面起源
女神ヤクシー…樹下女神
バールフトの玉垣…アショーカ(無憂樹)樹下
シャーラバンジカーのポーズ
(シャラの木の枝を手折ってその花を乙女たちが投げ合う儀式)
釈迦誕生の表現[摩耶夫人]形式にもモデル
サーンチー第一塔塔門(1世紀ごろ作)
生命の根源としての性愛(カーマ)を肯定しながら世俗を超えようとするまなざし
女神チャームンダー[夫はシヴァ神]
ニューデリー国立博物館所蔵 12世紀頃東インド
「生と死を包む女神チャームンダー」
(立川武蔵「
女神(じょしん)たちのインド
」せりか書房 1990)
遠藤周作「深い河」
石板の頭部…バニヤン樹に生首
生首を連ねた首飾り
半跏の痩せこけた女神
しなびた乳房から乳を出し、右腿にハンセン病の跡がある
生命樹を背景に死体のある墓場を前にした、生と死の循環そのものを体現した女神
インドの大地母神の再現
生命の木 聖樹
palmetteパルメット
▲TOPへ戻る