唐草図鑑
聖樹聖獣文様

生命の木 聖樹

ブドウの木

meシルクロードを旅するオリエントのブドウ唐草、というイメージでブドウの美術・文化・象徴を見始めたのですが、古代近東や地中海の美術、キリスト教美術でも 生命の木として葡萄がしばしば描かれている

San Marc Pilastri Acritani 1
ぶどうの木 6世紀の柱と柱頭
サン・マルコ寺院 Basilica di San Marco  (ヴェネツィア) 
San Marc Pilastri Acritani(6th c.)

(以下「生命の木」より再掲)

Tree of Life

(平凡社百科辞典 山形孝夫)
樹木は古くから信仰の対象となり、
いわゆる聖樹として崇拝されてきた。
そのうち、古代西アジアで発祥し、
樹木によって生命の源泉、人類の誕生を
象徴的に示す樹木崇拝の一表象を特に
生命の樹(木)と呼ぶことがある。

(以下再掲)

  聖樹文様

(平凡社百科辞典 長田玲子)

「生命の樹」を典型とする聖樹は世界各地で
装飾文様として使われている。
イランではハオマと呼ばれたがこれは葡萄だとされる。
聖樹は多くは聖樹や女神を伴った形で
装飾文様に使われる。
すでに前3000年紀のスーサ出土の円筒印章には
動物を伴った樹木文様や
樹下に聖獣を配したものがある。
なお、ヨーロッパのキリスト教美術でも
生命の樹として葡萄がしばしば描かれ

今も行われる枝の主日のオリーブやナツメヤシの祝福、
またクリスマスツリーも聖樹崇拝の名残といえる。
杉浦康平:「生命の樹」の四つの樹相 
樹下聖獣文 


Confronted animals
, here ibexes, flank a Tree of Life,
a very common motif in the art of the ancient Near East and Mediterranean
米国オハイオ州シンシナティ美術館に展示されたという(パブリックドメイン)

(文様辞典より)

古代ペルシア「聖なる樹」(ハオマ)
聖樹を中心に動物が左右対称に置かれる構成。
その木の下は聖地や楽園を意味
また聖樹は単独では生命の樹として
使われ、イスラム美術の文様で重要なモチィーフ
ハオマとは

東方への伝播

シルクロードと葡萄唐草


樹下動物文 円文 左右対称形、といった
ササン朝の伝統様式は
イスラム世界にも取り入れられた

ササン朝の美術

西方への伝播


聖樹の意匠は西洋でも盛んに用いられ
聖樹の下に動物が集うキリスト教の
楽園のイメージが形成された

キリスト教の美術「ぶどうの木」 

 

「世界樹木神話」第4章


世界樹木神話」 ジャック ブロス,‎ Jacques Brosse (原著),‎ 藤井 史郎 ,‎ 藤田 尊潮,‎ 善本 孝 (訳) 八坂書房

meこの本いかにもフランス人の著作である。饒舌で文学的香りがする。(入り込めば、微に入り細に入り、感覚的にも「わかった」ともいえるのかもしれない。)葡萄については、9章中の 第4章にあるが、この章は ギリシアの話である

第4章 樹液の魔術

樹木のディオニュソス/
儀礼的縊死と豊饒/
キヅタとディオニュソス的錯乱/
ブドウの樹の神バッコス/
ディオニュソスと樹液の秘儀

me以下は 第4章p146~p193の最終部分

ディオニュソスの歴史のみが唯一、「長期間」にわたって聖なる自然の、「聖樹」崇拝のなだらかな変貌の跡をたどることを可能にしてくれるものであった

me  第4章の初めは 「前ギリシア文明のエーゲ海世界では、オークの木と鳩の女神レアが、その陪神であるクレタ島の青年神ゼウスと共に樹木崇拝の中心に位置していた。」

クレタ流崇拝は母なる女神たちの優位に基礎をおいており、父権有利への敬意を信じて疑わぬ都市の諸宗教と並行して、アルカイックな諸崇拝が生き残っていく。

シャルル・ピカールの言の引用
「生まれ、死に、再生する植物の周期性と一体化することにより、思考する存在=人間の生と死に関わる激しい喜怒哀楽を表現する」「前ギリシア文明のクレタ島は、ギリシアの宗教感情に特殊な刻印を今なお記している」(p147)

古典期の神話において
聖樹はたいていの場合、個別化され局地化され、時とともに神の二義的なアトリビュートに成り下がっているが、
人目を忍ぶように分類システムの全体が生き延びている
万神殿によって構成される宇宙についての解釈の構造化された全体におけるその神の役割に合致している

宗教史家たちは、狩猟に比べ偶然に左右されることのはるかに少ない木の実などの採集が、穀物栽培以前の段階の人間生活にとって意味していた重要性を忘れてしまった
何人かの例外(J・G・フレイザーとロバート・グレーブズ)をのぞき、等閑視されてきた
樹木は、その食用となる果実と種子により、養いの神のみならず生命の真の源泉とみなされていた

ディオニュソスはプリギュアからやってきたギリシア世界とは異質な(トラキア或いはプリュギアの)ブドウの樹の神とみなされてきた
ホメロス自身、デオニュソスに備わる、オリンポスの神々に比して副次的な、破廉恥とも思われる性格と強調している

最新の研究では、ミュケナイ内出土の碑文にまでディオニュソスの名が見られることが確認され、ゼウスの息子のエーゲ海起源、さらにはクレタ起源さえ支持されるようになった(H・ジャンメール W・F・オットー)

ディオニュソスが融合した明確に異なる神々

ザグレウス:第一のディオニュソス 冥界の力の象徴「偉大なる狩人」「悪霊狩り」大地にその豊饒性を取り戻させるための生きた犠牲の八つ裂き「(ディアスパラグモス)「生肉を食らう者」(オ-メステース) 「クレタ島において毎年捧げられる犠牲の若者」に関連

サバ―ジオス:プリギュア世界の大神 「こまぎれに裂くもの」古代ではぶどう酒よりも、大麦の神であるサバ―ジオスが人間に賜わった一種のビールでが先行していた トラキアの宗教において重要な役割をしていたキヅタとも関係があった。この神を崇める者は、キヅタの葉の入れ墨を身に施していた

バッコス:おそらくトラキア起源のブドウ酒の神

イアッコス:祭祀におおいて幼児神をはやし立てていた「大きな叫び」を意味する「アッケ―」に由来 密議的でエレウシス起源の名称でラテン語では「リーベル(liber樹皮)」という名称が与えられ、ディオニュソスと同一視された
樹皮の内部の生き生きとした部分、まさに葉で同化された樹液が根まで運ばれている部分のことに他ならない。こうしてデュオニュソスが本質的に樹液の神であることが了解されるのだ。

ギリシア人はデュオニッソスが誕生したのはボイオティアであると信じていた
この地ではEndendros(「樹木の中で生き、働いている者・樹木の中にいる者」W・F・オットー訳)とも呼ばれた

ディオニュソスは、誕生以前より、身が危険にさらされると、樹木の加護によりその命が救われていた
ギリシアの伝説では、セメレがゼウス自身の発する炎に焼かれて死んだとき、彼女が宿していた胎児は、葉の密生したキヅタがこの胎児と天の火の間に身を捨てて奇蹟的に入ってくれなかったならば、死んでしまっていたことだろう。

避難所であった自分の父の腿から出ると、「二度生まれた」この幼子は、嫉妬に狂ったヘラにそそのかされてティタンたちによって殺され細かく刻まれ茹でられてしまった
流された血から一本の樹木、ザクロの樹が生え
祖母のレアが介入し、イシスが自分の夫の身体をそうしたように、ディオニュソスの身体を再生し、蘇がえらせた

コリントス マツの樹のディオニュソス像
アッティカ キヅタのディオニュソス像
ラケダイモン イチジクのディオニュソス像
バッコスの信女たち テュルソス(杖) 木べらのようなもので、キヅタの茎がからみつかられ、ブドウの葉もそえられ、頂部には松毬

ディオニュソスのもう一つの称号:ブロミオス 「ざわめく者」 という称号に、神託の木を見る誘惑にかられる

ニュサは、ヘルメスから幼子ディオニュソスを託されたヘリコン山(キヅタの山)のニンフで、 ディオニュソスを蜂蜜で養育したヒュアデスのうちの一人
ブドウ酒は本来的にはディオニュソスに結び付けられてはおらず、ギリシアの伝説でも複数の「発明者」の名が挙げられていた

meここでは、聖なるブドウの木を見ようとしたのだが、ここまで読んだところでは、あらかたの聖なる、ザクロや、キヅタ、マツ、イチジクまで出てきたうえに、ブドウ酒との関りは「本来的には」結び付けられていない、ということで、否定されている

ゼウスが樹木の王であるオークの樹であるのに対して、ディオニュソスはマツの樹にすぎない(p172)
松の木にオークほどの荘厳さが備わっているというほどには遠く、オークと比較すればその寿命もはるかに短いのである。
しかし、ディオニュソスはとりわけキヅタとフドウの樹の神である。
この両者は樹木であると同時にそうではないという両義的な植物である。本質ではあるものの、両者ともに支柱を必要としている。

ロバート・グレイブズ:デュオニュソス的錯乱を生じさせる飲み物は、発行させた蜂蜜をべースにした蜂蜜酒ネクタルをモデルに、キヅタで香りを添加して作った

バッコス=ディオニュソス の最終な形態にすぎない
ブドウの樹の神話は、そこにディオニュソスが登場するようになった以後もかなり貧弱なものにとどまった」(H .Jeanmaile)

ブドウの栽培とブドウ酒の製造(技術である以上に科学である)の起源は、ギリシア本土でも、クレタ島でさえなかった。両者とも、小アジアからこの島にもたらされた

ディオニュソスがブドウ酒の神になることができたのも、彼がおそらくその起源以来樹液のすなわち植物の血の神であったからであろう。
ブドウ酒は他の何にもまして、樹液としてはっきりとその姿を現してくる。秋から春にかけて「発酵する」 冬季に活発化される生命。
「解放者」ディオニュソスにより、意識と無意識が、秩序と混沌が、生と死が再統合される 

先史時代の最奥に発する流れの歴史時代における再現=ディオニュソス的「覚醒」であり、「その流れは、新しい宗教的価値を創造し続けたのであった」 (エリアーデの言葉)

me 結局ここまで来て、ようようブドウの樹とフドウ酒も関連付けられて終わりになったのだが、もっとも重要なセリフは樹液すなわち植物の血の神というところであろうか・・
→ この後この文献の目次読書は、こちらに続く

イメージシンボル

アト・ド・フリース (イメージシンボル事典)

vine ブドウの木

  • 豊饒の神々への捧げもの
  • 陶酔、霊感、血迷った欲情との関連
  • 秋との関連 ブドウの収穫
  • 復活
  • 安全・幸福を表す>
  • ニレノキと対になるとき 夫婦関係の理想的なエンブレム
  • 権威 ブドウの木の指揮棒=古代ローマのの百人隊の隊長の持ち物 体刑を与える権力の象徴
  • ヘブライ イスラエルの最も御貴重な産物の一つとしてイスラエルを象徴
  • キリスト教 ブドウの木(ブドウ酒)+コムギ(パン)=聖餐、ブドウのつる+ブドウの木=兄弟愛(友愛)
  • 紋章 歓喜、寛大、幸運、真実、信心
  • 文学  ブレークでは友情を表す
  • その他→wine,grape

ブドウの木は農作物として最初のもの→豊作を象徴

神々への捧げもの 
1.オシリスへの捧げもの 
2.ゼウスの大洪水の生存者への捧げもの(デウカリオンの息子であるオレステウスの白い雌犬=白い女神が木切れを産みそれをオレステウスが植えたところブドウの木になった)
3.デュオニュソス―バッカスへの捧げもの
4.キリスト 私は真のブドウの木、あなた方はその枝 私の父は農夫 
5.大女神に自然の創造の尽きない源として捧げる

エジプト人はブドウ酒を巨人の力できたものと考えた(人を凶暴にするから)

ケルトのカレンダーではブドウの木は第10月(秋分がある9月2日~29日)を指す

ほとんどすべての種類の植物を同じく、復活を表す
巻きつきながら伸びゆく(=復活の象徴)ツタと同じで、たとえばデュオニュソスの杖を通じてツタと密接に関連する→thyrsus

「生命の水」として永遠の若さと生命を与える
ときに「生命の木」と同じく、たとえば三界を結ぶ梯子を意味する

自分のブドウの木を静かに所有していること:わずらわしさのない幸福
ブドウの木やイチジクの木の下に座ることは安全な人生を意味する

me※白い女神・・フェミニズムはちょっと怖いが、 ジャック ブロス「世界樹木神話」でもとり上げられている、 Robert Graves:The White Goddess - Wikipediaという本の中の一部 「木の戦い」という章だけ訳した?ものがあるようだ・・
次に見てみます


生命の木 聖樹


ブドウについてはブドウの象徴・文化・文様の方へ
ギリシア周辺地域の葡萄唐草文

バッカス

聖なる木 生命樹

聖獣⇒聖獣文様へ

palmetteパルメット

シンボル・文様・文化としてのブドウ

アカンサス ハス ナツメヤシ ブドウ ボタン ツタ
モティーフ ロータス パルメット 渦巻 ロゼット メアンダー
美術用語 「アカンサス」 「アンテミオン」 「アラベスク」

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